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特捜主任検事の捜査データの改ざん、そして、逮捕へ

21日付、朝日新聞の衝撃のスクープから1日。その日のうちに、村木厚子氏の“事件”の主任を務めた特捜検事を最高検が逮捕するという前代未聞の不祥事へと、一気に展開した。

検察が描いた見立てに、事件が沿うよう押収資料を改ざん。当事者の大阪地検特捜部主任検事は、「更新日時を掛け替えて遊んでいた」ら、書き換わった、というような、たわいもない説明を記者に対して行ったとされる。

これに対し、最高検は、「証拠隠滅は故意犯。過失ではないと考えている」(22日付・朝日新聞)。

別の検事は、「『(村木局長からの)指示が6月上旬だったとの見立てに合うよう、専用ソフトで最終更新時日時を改ざんした』と(主任検事本人から)聞いた』と語った」(同)という。

「こうした重要な改ざんが前田検事だけで行われたのか。上司や同僚が改ざん疑惑を把握したのはいつで、どのように対応したのか」(同)。

朝日新聞の報道によれば、主任検事本人は「今年1〜2月に当時の特捜部幹部や同僚に押収したFDのデータを書き換えてしまったかもしれないと伝えた」と説明しているという。

このころは村木被告(当時)の公判が始まったころで、朝日新聞も「元係長の上村勉被告が『偽の証明書は独断で作った』と主張を一転させた」(1月6日付朝刊)と報じ、「これをきっかけに、公判段階を取材した記者は『村木氏が無罪ではないか』という感触が強まっていくのを感じ、検察の構図を否定する関係者の証言や検察側が描いた事件の構図が崩れていく様子を丁寧に報じるよう心がけた」(2010年9月11日付・朝日新聞の検証記事)というなど、検察の「見立て」通りに捏造した事件の構図が音を立てて崩れていく時期だ。

それだけに、このころ、「データを書き換えてしまったかもしれない」と告白していることが事実であれば二重の意味で病理がある。

一つには、偽データを故意に作成したのではなく、過失だったことを周囲に印象づける狙い。もう一つは、改ざんされたデータを元に起訴し、公判を行っていることを地検特捜部が知っていたということにもつながる。だとすれば、組織として“告白”を黙殺したと疑われても仕方がない。

仮に、その時点で地検特捜部が、そうした「事実」を知ったとしたら、組織の病理として、とりあえず、その事実は隠ぺいし、そのデータは証拠採用せず、他の“証拠(上村被告らの供述)”だけで公判の維持を考えるであろう。しかし、裁判所はことごとく供述を証拠採用しなかった。

かりに、たった一人の犯行だったとしても、地検特捜部の見立て(事件の構図)は崩れていかざるを得ない局面に立ったことを、今年1〜2月には組織として認識せざるを得なかったはずだ。少なくとも、口には出さなくても、捜査自体への“疑い”は生じていただろう。そして、だれも責任をとらない。組織的関与の有無は、いまこうして、解明するしかないところに来た。

22日付・朝日新聞朝刊の2面の見出しには、「『偶然書き換え、あり得ぬ』」の文字がある。東京の検察幹部らは「『筋書きに合わなければ、筋書きを変えるべき。ブツ(証拠)を変えるなんてやつがどこにいるんだ』と、激しい怒りをあらわにした」(同)「村岡啓一・一橋大学教授(法曹倫理・刑事法)は『法律家としての検事が証拠品を改ざんしたとすれば、裁判そのものが成立しなくなる」(同)。

「決めつけが激しく、じっくり話を聴くタイプではなかった。取り調べ中に怒鳴られた事もあった」(同)というのは、小沢一郎・元民主党代表の元公設秘書。朝日に抜かれた側の、22日付・毎日新聞によると、逮捕された主任検事は、「大阪地検特捜部内では「10年に1人の逸材」とか「将来の特捜部長」と目される期待の星だったという。「大阪地検のある幹部は『取り調べでは、容疑者の気持ちになって本音を引き出すことがうまい、一級の『割り屋』だった』「将来の大阪地検特捜部長。前田に任せておいたら大丈夫という安心感がある」「自信家で自分がこう思ったら、こだわりすぎる面がある」(22日付・毎日新聞社会面)。

「前田検事は東京、大阪の両地検特捜部を歴任した生粋の『特捜検事』(同)という評価なら、特捜検事の腕とはなんぞやという話になる。そして、そのことは、かれのようなタイプが欲しかったという、現状の特捜部の内情を示しているのかもしれない。

元特捜検事の田中森一氏は、宮崎学氏との対談で、
宮崎 「特捜部で現場持って、その現場で失敗したとしたら、それはもう烙印がおされてしまって、その後は地方に飛ばされたりするわけですか?
田中 「特捜部の仕事というのは、一から十まで、その主任検事の仕事だから。それで失敗すると、そうつが全部悪い、能力がないというと評価されるでしょう」(2007年11月、扶桑社刊『必要悪 バブル、官僚、裏社会を生きる』103ページより引用)。

今年4月に出版された、元東京地検検事で弁護士の郷原信郎氏は著書の『検察が危ない』(KKベストセラーズ・ベスト新書)で、「無理な捜査・処分が許容されることによって、検察の権限行使の要件が緩やかなものとなり、権限行使の幅が拡大する。その結果、重大・悪質な事件について、適正な手続きで証拠を収集して立証を行う能力は確実に低下する」とあり、証拠よりも見込み捜査の傾向に走り、その結果、捜査能力の低下につながっている特捜部の現状を指摘している。

「理」で詰めるはずだった日本最高の捜査機関とされ、エリート検事集団だったはずの特捜部が、へんなことになってしまっている内情を指摘する元検事らの相次ぐ発言を、今回のように地でいく事件が起きているとは。それだけに衝撃が強い。今回の事件に乗じて、ますます内情暴露の傾向が強まるであろうし、民主党政権が進めようとしてる捜査の可視化へも弾みがつくことが予想される。

そんな中、相変わらず、村木厚子さんの静かな言葉にはホッとさせられる。
「彼(前田・主任検事)はお金をもらう目的でこんなことをしてしまったわけではない。検察という組織全体で、背景を含めて検証してほしい」「一連の捜査や公判で明らかになった、裏付け捜査や取り調べメモの廃棄など様々な問題が、今回の逮捕で隠れてしまってはいけない」。

大スクープにうかれてはならない朝日新聞
11日付の検証記事にあったように、一方で加害者でもあった。
逆転の大スクープを喜びたいところでしょうが、その気持ちを抑え、衝撃の逮捕を神妙に受け止め、地味な扱いながら、4人の識者のコメントを掲載しています。

22日付・朝日新聞第2社会面より抜粋
元検事の郷原信郎・名城大学教授の話
「問題発覚のその日のうちに逮捕なんて、必要な捜査をしたしたとは思えず、拙速すぎる印象だ。こんなスピード捜査を世間は求めていない。特捜捜査のウミを出し切ってほしいと願っているのに、検察当局は分かっていない。」

ジャーナリストの魚住昭さんの話
「最高検がスピード逮捕に踏み切ったのは、主任検事の『個人犯罪』ということで幕引きを図ろうとしているからだ」

作家高村薫さんの話
「郵便不正事件での村木元局長の無罪判決という失態にさらに輪をかける失態だ。しかも新聞にすっぱ抜かれるという形で表に出た。素早い逮捕は、これ以上の失態は止めなければならないという、なりふり構わぬ保身、組織防衛の心理が働いたのだろう。検察トップの首が飛んでもおかしくない事態で、検察は解体的な出直しが必要だ」

検察がテーマの著作がある作家小杉健治さんの話
「報道による発覚から主任検事の逮捕まで、あまりに迅速すぎて、組織全体で何かを隠しているような意図を感じる。組織の問題を個人レベルの問題に落とし、トカゲのしっぽ切りで終わらせようとしているように見える」

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