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裁判員「量刑関与」問題の扱い

 裁判員裁判で出された死刑判決が、控訴審で裁判官が先例をもとに「死刑はやむを得ないとはいえない」として無期懲役を言い渡す事案に関して、朝日新聞が、10月8日付け朝刊に歯切れの悪い社説を掲載しました。一方で、制度推進の旗を振る側として、「市民の感覚、社会常識の反映」の結論の重みを、一方で死刑に対しての慎重な判断を言いたい朝日。

  「事件の重大性の評価は、死刑にすべきかどうかが問題になった過去の例と比較して初めて、可能になる」という司法研修所の論文を引用しつつ、これを「裁判官だけが積み上げた裁判の基準でしかない」といい、さりとて「参考にすべき蓄積」であり、裁判によって結論が違うようでは、「裁判員制度を含む司法制度の信頼も揺らいでしまう」。結論としては、見出しにあるように、「慎重さを求めた判断」なのだ、と。

 歯切れの悪さは、いわば裁判員制度の大義をできるだけ傷つけず、死刑回避の司法判断も評価したいい朝日のスタンスによるものにとれますが、もう一つ別の見方もできなくありません。それは、裁判員の「量刑関与」が妥当かどうかの制度問題に真正面から向き合いたくない姿勢の表れではないか、ということです。今回の事態こそ、裁判員の「量刑関与」の無理がはっきりしている事例であるということ。逆に言えば、そう説明してしまうことが、最も分かりやすく、また伝わりやすいということを、朝日はよく知っていて、そういう方向の議論、あるいは大衆の「覚醒」を極力回避したいのではないか、ということです。

 裁くことを強制する市民には、裁判官のような「裁く」訓練はさせられず、また、量刑相場といった知識の蓄積もない。これは、裁判員制度が根本的に抱える決定的で宿命的ともいえる課題です。逆に言えば、この点はどうすることもできない以上、推進者はこれをスル―するしかない、課題ではないということにするしかない。だだ、現実は市民参加の意義に理解を示す人のなかにも、陪審制と異なり、この制度が参加市民に量刑判断を迫る(無罪の心証のまま、多数決で有罪に決したならば、頭を有罪に切り替えて望むことまで求めて)ことに、疑問を持つ人は少なからずいました。また、朝日のいうような、先例を踏まえた慎重さが必要なのは、こと死刑が絡む案件だけの問題なのか、という疑問も、当然あります。

 実は、司法制度改革審議会以来の議論での、この「量刑関与」の是非についての扱いは、まさに「課題ではない」という決めつけでなされてきた観があります。別の言い方をすれば、裁判員に量刑まで関与させるのは、議論の余地がない大前提のような扱いだったという経緯があったのです(倉橋基「裁判員制度導入後の量刑判断についての一考察」)。司法審に続く司法制度改革推進本部裁判員制度・刑事検討会でも、公募でよせられた一般の意見や各種団体のなかにあった量刑判断への懸念論や除外論は、議論に反映されませんでした。

 なぜ、裁判員制度は、そこまで市民の量刑判断にこだわったのでしょうか。「量刑相場」の問題については、それこそ「職業裁判官がともに裁く」という点が強調されることで、問題なしとする片付け方がなされたように思います。ただ、さらに基本的にことをいえば、市民参加の効用が強調されるなかで、量刑判断まで市民が踏み込む方が、より裁判への「反映」がはっきりするという発想があったのではないか、といわれています。だとすれば、市民参加と制度の意義を持ち上げたいばかりに、市民の負担ついても、実現性についても、もっと詳密な議論が行われてよかった重要テーマが、スルーされてしまったことになります。

 今回の事態を含めて、この無理が生む事態は、十分に予想されたはずです。それでも、司法審最終意見書というバイブルの決定は、維持されました。そして、現在もなお、制度推進者は、このテーマを根本から議論しようとはしない姿勢にとれます。朝日社説の歯切れの悪さは、まさにそのこととを私たちに教えています。

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