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細胞内の運送屋さん ー2013年ノーベル生理学・医学賞

今年も、ノーベル賞発表週間がやって来ました。毎年、この一週間はワクワクしながら迎えます(自分がもらえるわけでもないのですが)。人類の歴史に残る発見はこれだ、という発表を見れるのが、ワクワク感の原因でしょうか。そういう点では、「誰がもらうか」というより、「どんな発見に対して与えられるか」というのが気になります。で、その内容が、今の自分の仕事に近いものであれば、それはもうたまらないです(例えば、昨年のノーベル化学賞「細胞の外から中にどうやって情報が伝わるかー2012年度ノーベル化学賞」http://kentapb.blog27.fc2.com/blog-entry-2331.html)。

今日、発表されたのは、ノーベル生理学・医学賞。受賞したのは、ジェームズ・ロスマン教授(米国、エール大学)、ランディ・シェックマン教授(米国、カリフォルニア大)、トーマス・ズートホーフ教授(米国、スタンフォード大)の3人です。受賞の対象となった発見は「細胞内の主要な輸送システムである小胞輸送の制御機構の発見」です。

リンク先を見るThe 2013 Nobel Prize in Physiology or Medicine - Press Releaseリンク先を見る

 

小胞輸送とは、細胞内での物質輸送に用いられる仕組みのことで、いわば「細胞内の運送屋さん」です。この運送屋さんが運ぶ荷物(cargo)は、タンパク質や神経伝達物資、運送屋さんが使うトラックは「小胞」という脂質二重膜でできた小さな袋です。細胞の中では、タンパク質を始め、いろいろな物質が合成されます。これら、細胞内で合成された物質の多くは、適切な方法で細胞内の器官や細胞外に運ばれる必要があります。今回の受賞者は、この小胞輸送の仕組みと調節機構を解明しました。

シェックマン教授は、酵母を用いた実験から、小胞輸送に関わるタンパク質を発見しました。例えて言えば、「細胞内でタンパク質を配達する運送トラックの「運転手」を見つけ出した」という感じでしょうか。細胞内の物質輸送がうまくいかない突然変異体を見出し、その変異遺伝子の解析から小胞輸送調節に関わるタンパク質を発見、そして細胞内小器官(小胞体からゴルジ体)の間でのタンパク質輸送において小胞輸送が重要な役割を果たすことを示しました。

ロスマン教授は、小胞が細胞内の目的地に輸送された時に、小胞内の物質の「積み下ろし」の仕組みを解明しました。例えて言えば、「運送屋さんのトラックが荷物を配達先に届けるときに、どうやって玄関のドアをあけるか、を発見した」という感じでしょうか。小胞は膜で出来た小さな袋であり、小胞の目的地である細胞内小器官や細胞膜も、また膜で出来ています。小胞の中の物質を目的の部位に受け渡す時には、膜と膜とが融合します。ロスマン教授は、この膜融合に関わるタンパク質を発見し、膜融合の仕組みを解明しました。

ズートホーフ教授は、小胞内の物質の積み下ろしがどのようなタイミングで起こるかを解明しました。例えて言えば、「運送屋さんのトラックは、配達先についたら玄関のベルを鳴らす」ことを発見したという感じでしょうか。ズートホーフ教授は、神経細胞を用いてこの仕組を解明し、玄関のベルに対応するのが「カルシウムイオン」であることを見出しました。

神経細胞は、他の神経細胞に情報を伝達する手段として、神経伝達物質という化学物質を用います。神経細胞が活性化すると神経伝達物質が細胞外に放出されます。放出された神経伝達物質が他の神経細胞を活性化させることで、神経細胞間の情報伝達が起こるのです。神経伝達物質の放出には、小胞輸送が用いられています。細胞内で合成された神経伝達物質が小胞内に詰め込まれ、小胞輸送により細胞表面の膜と融合し、あるタイミングで融合部に穴があいて神経伝達物質が放出されます。ズートホーフ教授は、この穴が空くタイミングが細胞内へのカルシウムイオン流入(細胞内カルシウム濃度上昇)によって決定されること、そして、神経伝達物質の放出に関わるタンパク質を発見したのです。

この仕組みから、医薬品の作用メカニズムを説明することも可能です。先ほど、神経伝達物質は神経細胞間の情報伝達に使われると書きましたが、「痛み」を伝える信号も神経伝達物質によって伝達されます。薬剤によって、神経伝達物質を放出する神経細胞へのカルシウムイオン流入を抑制すれば、痛みの伝達を強力に止めることが出来ます。現在、鎮痛薬として世界一の売り上げ(約4000億円)を誇るプレガバリン(ファイザー、商標名リリカ)の作用メカニズムは、まさにこれです。プレガバリンは、神経細胞に存在するカルシウムチャネル(カルシウムイオンが細胞外から細胞内へ移動するときの通路)に結合し、カルシウムの細胞内流入を止める作用を持っています。

というわけで、ノーベル賞の内容をざっくりまとめてみました。今回の受賞に関して、ネット上では「このネタでは、もうすでにノーベル賞もらってると思ってた」というようなコメントも見かけました。それほど、細胞の生物学にとって基本的かつ重要な発見、ということなのだと思います。

小さな小さな運送屋さんの働きを解明した研究者の皆さんに、ようやくノーベル賞が配達された、という感じですね。

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