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田原流仕事術――不器用な僕はどうやって自分の「武器」を手に入れたか

僕は若い人たちと話をするのが大好きだ。母校早稲田大学に「大隈塾」という講座を作って、学生たちととことん討論もしている。テレビ番組で30代の若者を集めたこともあるし、小学校や中学校に講演にも行く。彼らの、しばりのない鋭い意見を聞くことを心から楽しいと感じている。

先月の「朝まで生テレビ!」では、「雇用と若者」をテーマに話し合った。いわゆるブラック企業、契約社員などの問題について、徹底的に議論した。僕が若かった頃に比べて、日本は豊かになったはずだ。だが、現代の若者たちには、昭和の時代とは質の違う問題が山積みになっているようだ。そこで、参考にはならないかもしれないが、僕の、仕事にまつわる昔話をしたいと思う。

実は僕は、子供の頃、小説家になりたかった。野球小説を書いたこともある。その夢はずっと持ち続けていて、小説家になるならばやはり「早稲田」だと滋賀から上京して、夜間の早稲田大学第二文学部に入学した。昼間は日本交通公社(現JTB)で働き、大学に通った。

日本交通公社で切符切りをしたが、僕の不器用さは度を越していたのである。まともに切符を切ることができず、ずいぶん苦労した。昼間はそんな苦労をしながら仕事をこなし、小説だけはしっかい書いて、文学賞に応募したりした。だが結果は、まったくダメだった。

ちょうどその頃、石原慎太郎さんが閃光のごとく文壇に現れた。デビュー作『太陽の季節』で芥川賞を受賞したのである。鮮烈なデビューだった。彼の作品を読んで、僕ははっきりと「かなわない」と感じた。

同じように感じた人間が、もうひとりいた。ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎さんだ。この同年代ふたりの作品は、僕が「負けるものか」と思えるようなレベルではなかった。圧倒されてしまったのである。

それから僕は、小説家からジャーナリストへと目指す道を変えた。まず就職するために早稲田の一文(第一文学部)に入り直した。そしてNHK、朝日新聞などの入社試験を受けた。しかし、ことごとく落ちる。ようやく11社目で合格したのが、岩波映画製作所だった。そこでカメラマン助手となるのだが、またここで不器用がアダとなる。カメラの扱いがまともにできないのだ。助手としてはできそこないである。

その後、ディレクターの道に進んだ。そして、10年ほど経ったころ、僕は、念願の映画監督を務めることになった。そこでもまた困ったことが起きた。スタッフが僕に、「監督、衣装はどうしましょう?」などと聞いてくる。「まかせるよ」「だいたいで」。ついこう答えていたのだが、スタッフから「監督はそんなことでは困る」と抗議されたのだ。

監督たるもの、衣装だったらネクタイの柄まで、演技なら指1本の動きまで、こと細かに指示を出さなければダメなのだ。だが、僕はそこまで突き詰められなかった。これまた、僕には向いていないと実感させられたのである。

僕には、フィクションの世界は向いていない。ロマンティックなものも無理だろう。そもそも頭もよくない。では、僕に何があるのか。何もない僕だが、唯一持っている武器は「好奇心」だと気づいたのだ。ガンにかかった俳優、少年院を出た少年、怨歌の歌姫、ポルノ女優……。ひたすらリアルな存在を追いかけた。ノンフィクションは僕にとって、とてつもなくおもしろい世界だった。

いま、仕事に悩む若い人がたくさんいる。そんな彼らからしたら、「田原さんはラッキーだったから」と思うかもしれない。もちろん、運もあった。けれど運だけではない。どんな仕事も、とにかく数年間は続けた。ダメな僕だが、仕事のおもしろさを自分で探し出したのだ。

仕事のおもしろさというものは、働き始めてすぐにはわからない。だが3年やってみれば、見えてくると僕は思っている。もちろん漫然と働くのではない。仕事のなかに「おもしろさ」を見つけようと意識して働くのだ。それでも、どうしてもやめたければ、そのときにやめればいい。

若い人たちに僕は伝えたい。人には、必ずひとつは武器がある。その武器を、ぜひ見つけてほしい、と。それが見つかれば、仕事ほどおもしろいものはない、ということに気づくはずなのだ。

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