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- 2013年10月04日 10:12
消費増税延期論は単なるポピュリズム〔3〕―小幡 績(慶應義塾大学准教授)
※初出:9月10日
〔1〕、〔2〕はこちらから→・消費増税延期論は単なるポピュリズム〔1〕、〔2〕
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■Voice 2013年10月号
<総力特集>韓国を叱る
< 特集 >自衛隊の底力
◎読みどころ
韓国の暴走が止まりません。慰安婦像をソウルの日本大使館前に設置したり、なぜかアメリカでも反日活動を活発化させています。また、戦時徴用された韓国人らが、いまになって新日鐵住金を訴え、なぜか勝訴したりと、日本人は驚き呆れてしまいます。総力特集では「韓国を叱る」と題し、屋山太郎氏と室谷克実氏の対談をはじめ、黒田勝弘氏や三橋貴明氏など、韓国通の論客たちに昨今の隣国の動きを分析していただきました。 第二特集では、東日本大震災以後、特に国民の信頼度が上がった自衛隊の実力をさまざまな面から論じています。参議院議員の佐藤正久氏と元陸将の福山隆氏の対談や元航空幕僚長の田母神俊雄氏の論考、また現役米海兵隊大尉へのインタビューも読み応え十分です。
さらに、巻頭ではアベノミクスへのメッセージとして、作家の幸田真音氏が「高橋是清に学ぶ命懸けの出口戦略」を紹介し、日本経済の今後の課題を端的に示しています。
今月号より、直木賞候補でもある人気作家の伊東潤氏による歴史小説「武士の碑(いしぶみ)」がスタートしています。各界を代表する論客の力作を揃えましたので、ぜひご一読お願いいたします。
課税とは政治そのものである
もう1つ重要なことは、純粋に経済効果だけを考えれば、すべての税金は経済成長にマイナスという事実だ。これを忘れて税制の議論を行なっているため、経済的な議論と政治的な議論が混同されている。いや、あえて混同させることに成功しているのだ。 経済学的には、課税が行なわれれば必ず経済に歪みがもたらされる(経済活動に無関係に経済主体に一律に課税する人頭税を除く)。だから、法人減税は、当然経済にプラスだし、設備投資減税もやりすぎないかぎりマイナスにはならない。消費税ももちろん上げないほうがいいし、所得税も低いほうがいい。だから、シンガポールなどほぼ無税に近いと思われている国々が支持されることになる。しかし、これは歳出を無視した議論なので意味がない。歳出を国債で賄い、永遠に無限の借金を続けるのでないかぎり税収は必要であり、その税収を賄うためにどのような税制にすべきか、という議論が不可欠なのだ。 そうなれば、経済学的に複数の税金(法人税と消費税と所得税など)を比較して、どのようなバランスで増税するか、どうすれば経済的なマイナスを最小限にできるのか、という検討をすべきである。しかし現実には、このような議論はなされない。なぜなら、政治的な議論が優先されるからだ。複数の税制変更は複数の経済主体の利害に関係するから、法人減税と消費増税の議論をする際にも、「消費増税と法人減税で、消費者は納得するか」という発想になる。しかし、これは問題ではなく、むしろ当然のことだ。「代表(議会)なくして課税なし」という言葉どおり、課税とは政治そのものであり、経済よりも先にそれがあるからだ。 問題は、あたかも経済論争のふりをして政治的な議論が行なわれることだ。これは日本経済にとってもっとも致命的である。なぜなら、1997年と同様、消費増税以外の要因で景気が悪化しても、「消費増税が間違いだった」ということにされるからだ。そうなれば、景気が「ありえないほど」よくないかぎりは消費税率を上げるべきではないということになってしまい、今後、増税の機会は永遠に失われる。 消費増税の是非を問う経済的な論争は、政治的駆け引きのカムフラージュにすぎない。これは長期的に健全な経済政策ができなくなるリスクがあるという意味で、非常に危険である。しかしカムフラージュとはいっても、まやかしではない。増税とは政治そのものであり、政治的な議論になるのは必然だ。つまり、経済論争の皮をかぶった政治的駆け引きとなっている消費税率引き上げ延期論は、まやかしではなく、ごく普通の「ポピュリズム」なのだ。 そもそも、アベノミクスの本質とは、ポピュリズムなのだ。アベノミクス支持者たちは「リフレ派」と呼ばれているが、「ポピュリズム派」と呼ぶべきだ。なぜなら、リフレ政策とは、誰の懐も痛めず、中央銀行が気合を入れてインフレにすると宣言し、世間の期待を高める政策である。機動的な財政出動とは、財政支出のばらまきであり、成長戦略とは、既得権者である大企業への所得移転である。この消費増税議論もポピュリズムそのものに基づいて動かされている。そして、税制の議論が政治的にならざるをえないのであれば、それは必然的に、ポピュリズム、有権者という既得権益者への所得移転にならざるをえないのだ。 そして、皮肉なことに、リフレ派ブレーンを批判している消費税率引き上げ論者も、純粋に経済を論じてはいない。彼らは、消費税率引き上げをポピュリズムで回避しようとするブレーンやその他の人びとを許せないのだ。つまり、消費税率引き上げ論争は、リフレ派と反リフレ派の戦いでもなく、経済成長と財政再建とのバランスの戦いでもなく、政治的なポピュリズム対アンチポピュリズムの戦いなのだ。いかなる景気対策もするな
最後に、私個人の提言をしよう。消費税率は1%ずつ5年にわたって10%まで引き上げる。このとき、景気条項は外す。消費税は社会保障のためであるから、景気とは無関係に増税する。さらに、2014年4月以降、消費税率引き上げに対応した、景気浮揚策、負担の痛み緩和策は一切しない。住宅取得減税や住宅取得への補助金、設備投資減税なども、一切しない。 重要なのは、景気対策ではなく構造改革だ。1%の消費税率引き上げなら、いまの好景気は失速しない。すべての財源は、構造改革、長期的な成長力の引き上げに使う。端的にいえば教育だ。景気対策が必要になれば、消費税率引き上げ延期でなく、財政支出と金融緩和で対応すべきだが、財政再建のために消費税率を引き上げているので、支出をするのは本末転倒である。金融政策に頼るのも、すでに限界以上に緩和してしまっているので、無理である。したがって、現在の日本ではいかなる景気対策もするべきではない。その代わり、3%引き上げによる景気悪化を回避するために1%ずつ上げるべきだ。 消費税率引き上げの代償として財政出動するのは最悪で、なぜなら、自民党族議員に象徴されるように、財政支出にたかりたい利害関係者はこのチャンスを待っているからだ。ほとんどの支出は無駄なので、それなら減税をしたほうがよい。消費税引き上げ率を抑え、消費者にカネをもたせるべきだろう。政府が無理をして捻出する財政支出で生じる需要よりも、質の高い需要となるからだ。 ■関連記事 ・消費増税延期論は単なるポピュリズム〔1〕 ・消費増税延期論は単なるポピュリズム〔2〕プロフィール
小幡 績(おばた・せき)慶應義塾大学准教授 1967年生まれ。東京大学経済学部卒業後、大蔵省(現・財務省)に入省。1999年退職。ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。2003年より現職。著書に、『成長戦略のまやかし (PHP新書) 』、『リフレはヤバい 』ほか多数。リンク先を見る
■Voice 2013年10月号
<総力特集>韓国を叱る
< 特集 >自衛隊の底力
◎読みどころ
韓国の暴走が止まりません。慰安婦像をソウルの日本大使館前に設置したり、なぜかアメリカでも反日活動を活発化させています。また、戦時徴用された韓国人らが、いまになって新日鐵住金を訴え、なぜか勝訴したりと、日本人は驚き呆れてしまいます。総力特集では「韓国を叱る」と題し、屋山太郎氏と室谷克実氏の対談をはじめ、黒田勝弘氏や三橋貴明氏など、韓国通の論客たちに昨今の隣国の動きを分析していただきました。 第二特集では、東日本大震災以後、特に国民の信頼度が上がった自衛隊の実力をさまざまな面から論じています。参議院議員の佐藤正久氏と元陸将の福山隆氏の対談や元航空幕僚長の田母神俊雄氏の論考、また現役米海兵隊大尉へのインタビューも読み応え十分です。
さらに、巻頭ではアベノミクスへのメッセージとして、作家の幸田真音氏が「高橋是清に学ぶ命懸けの出口戦略」を紹介し、日本経済の今後の課題を端的に示しています。
今月号より、直木賞候補でもある人気作家の伊東潤氏による歴史小説「武士の碑(いしぶみ)」がスタートしています。各界を代表する論客の力作を揃えましたので、ぜひご一読お願いいたします。
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