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第二次安倍内閣がめざす労働の規制緩和(その2)

〔以下の論攷は、『労働法律旬報』No.1799、2013年9月10日付、に掲載されたものです。6回に分けてアップします。〕

2 日本経済再生本部

 第二次安倍内閣は、経済財政諮問会議を復活させただけでなく、新たな戦略的機関を設置した。それは日本経済再生本部と産業競争力会議である。前者は「我が国経済の再生に向けて、経済財政諮問会議との連携の下、円高・デフレから脱却し強い経済を取り戻すため、政府一体となって、必要な経済対策を講じるとともに成長戦略を実現することを目的*12」とし、後者は「日本経済再生本部の下、我が国産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具現化と推進について調査審議するため*13」に設置された。

 この「諮問会議と再生本部との関係」について、甘利内閣府特命担当相は記者会見で、①「諮問会議は経済財政運営全般に関する司令塔として『基本設計』を行い、再生本部は日本経済再生の司令塔として『実施設計』を行い、政策を具体化させるという関係にある」、②「相互に問題提起をして密接に連携しながら実効性の高い取組みを推進していく」、③「この二つの組織が府省の壁を超えて強力に司令塔としての機能を発揮していく」という三点を挙げていた*14。

 日本経済再生本部の構成メンバーは閣議と重なっている。閣議終了後、経済再生に関わる問題に特化した会議を開いて意思統一する場を設けたというわけである。日本経済再生本部の構成と審議内容は表2(省略)のとおりだが、ここでは雇用や労働の問題はほとんど議題になっていない。

 それでも、第二回会議では「日本経済再生のためには、産業競争力の強化と、それを支える雇用や人材等に関する対応強化を、車の両輪として進めることが欠かせない*15」(安倍首相)、第六回会議では「成熟産業から成長産業への失業を経ない円滑な労働移動を実現するため、『行き過ぎた雇用維持型』の政策から、『労働移動支援型』の政策にシフトする。そのため、雇用調整助成金の大幅縮小、民間人材ビジネスを活用した労働移動支援助成金の抜本的拡充をはじめとした具体策についてさらに検討を進めていきたい*16」(田村厚労相)などの発言があり、甘利大臣は記者会見で「失業という期間を経ずに、成熟産業からこれからを担う成長産業に雇用がスムーズに移動するように、雇用保険制度も、『抱える』から『移動をスムーズにする』という方向にシフトしていくということであります」と説明していた*17。

 なお、この第六回会議で、安倍首相は「産業構造を変革し、人、モノ、カネの流動性を高めていくことが求められている。今後五年間を、産業再編や事業再構築、起業や新規投資を進める『緊急構造改革期間』と位置づけ、あらゆる政策資源を集中投入したい」と発言している。そのうえで、「必要な措置は秋にも結論を出し、次の国会を『成長戦略実行国会』として、結果を出していくという方針」を示していたのである*18。


3 産業競争力会議

 産業競争力会議の構成メンバーは表3(省略)のとおりである。一〇人の民間議員が参加しているが、ここで注目されるのは竹中平蔵慶応義塾大学教授の存在であった。竹中教授は小泉内閣時代の〇一年四月から〇五年一〇月まで経済財政政策担当相として経済財政諮問会議を取り仕切り、その後の第三次小泉内閣でも総務大臣として諮問会議に出席している。

 記者会見でもこの点が質問され、甘利大臣は「竹中さんにつきましては、過去に小泉政権時代からいろいろと自民党政権の経済財政運営に関する先導役の一人を務めていただきました。その経験も踏まえてお願いをした次第であります。……今度は実施設計と実行を担う部分でありますから、そこで新たな力を発揮していただきたいと思いました」と答えていた*19。「当初は経済財政諮問会議のメンバーに入れようという動きもあった」が、「麻生財務相が反対して潰し、その結果、産業競争力会議に回ったとされる*20」という報道もあるが、真相はわからない。

 この他で注目されるのは、三木谷浩史楽天会長兼社長と新浪剛史ローソン社長の二人である。前者はIT産業、後者はコンビニ産業において成長著しい企業の経営者で、雇用の流動化によって大きな利益を得る立場にあった。また、三木谷社長は新経済連盟*21の代表理事でもあり、新興産業の利益代表という顔も持っている。

 同会議の審議内容は3(省略)のとおりである。六月までに一二回開かれているが、そのなかで雇用・労働問題について検討されたのは、第四回と第七回、第一一回の三回であった。

 第四回会議では、長谷川議員が「我々も全面的な解雇の自由化を求めているわけではなく、『失業無き労働移動』を実現するため、見直すべきものは見直そう、ということが趣旨である」と発言する一方、新浪議員が「解雇法理について、……緩和をしていくべき」ことを求め、田村厚労相が「勤務地を限定した正社員、職務や職種を限定した正社員、短時間正社員、専門職型派遣等の多元的な働き方の普及・拡大を図っていく」と応じていた。

 また、安倍首相も「雇用支援策を、雇用維持型から労働移動支援型へ大きくシフトさせたい。ハローワークの有する情報を民間に開放し、就業支援施策の実施を民間にも委任するなど、民間の人材紹介サービスを最大限活用したい。多様な働き方を実現するため、正社員と非正規社員への二極化を解消し、勤務地や職種等を限定した『多様な正社員』のモデルを確立したい」と意欲を示していた*22。

 この時、竹中議員は「労働移動型の解雇ルールへのシフトは大変重要。判例に委ねられているのは、ルールとして不明確であり、明文化すべき。金銭解決を含む手続きの明確化することが必須である」として、「金銭解決を含む」「解雇ルールへのシフト」を主張していたのは注目される。「失業なき労働移動」から「解雇法理の緩和」や「解雇ルールへのシフト」へと論点の移動が生じていたからである。

 また、佐藤議員は「第一次安倍内閣のときに、ホワイトカラーイグゼンプションの議論があったが*23」として、「労働時間規制を適用免除する制度を作るといった方向で、一歩前に進めていただきたい」と要求していた。これについて、西村内閣府副大臣は記者会見で「今後、このような提案がなされておりますので、議論を深めていくことになると思います」と答えている*24。

 第七回会議でも、長谷川議員は「雇用者側と被雇用者側の意見が合わず、裁判まで行った場合の最終的な選択肢として、金銭的な解決をあらかじめ示しておくことも合わせて確認・要望をしておきたい」と発言している*25。これに関連して、甘利大臣は記者会見で「今まで『整理解雇四要件』というものがありましたが、これをより予測しやすいように整理して欲しいという意味での議論はあった」と説明した*26。解雇の事後的金銭解決と「整理解雇四要件」の「整理」が求められていたことが確認できる。

*12 日本経済再生本部。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/を参照。
*13 産業競争力会議の開催について。 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/konkyo.htmlを参照。
*14 前掲注(4)参照。
*15 第二回日本経済再生本部議事要旨。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/dai2/gijiyousi.pdfを参照。
*16 第六回日本経済再生本部議事要旨。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/dai6/gijiyousi.pdfを参照。
*17 甘利内閣府特命担当大臣記者会見要旨(四月二日)。http://www.cao.go.jp/minister/1212_a_amari/kaiken/2013/0402kaiken.htmlを参照。
*18 前掲注(16)参照。
*19 甘利内閣府特命担当大臣記者会見要旨(一月八日)。 http://www.cao.go.jp/minister/1212_a_amari/kaiken/2013/0108kaiken.htmlを参照。
*20 「ゲンダイネット」一月八日付掲載。http://gendai.net/articles/view/syakai/140395を参照。
*21 くわしくは、http://jane.or.jp/を参照。
*22 第四回産業競争力会議議事要旨。 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai4/gijiyousi.pdfを参照。
*23 ホワイトカラーイグゼンプションについては、単に「議論があった」というにとどまらず、アメリカ政府から具体的な要請があった。たとえば、〇六年の「日米投資イニシアティブ報告書」は、確定拠出年金制度の拠出限度額の引き上げ、解雇の金銭解決、労働者派遣法の規制緩和などとともに、「ホワイトカラーエグゼンプション制度を導入するよう要請」している(http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/n_america/us/data/0606nitibei1.pdf)。
*24 産業競争力会議(第四回)終了後の西村内閣府副大臣記者会見要旨。 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai4/gijiyousi2.pdfを参照。その後、労働時間規制に特例を設けるとの政府方針が報道された(「課長級から勤務柔軟に」「政府方針 時間規制に特例」『日本経済新聞』八月一四日付)。
*25 第七回産業競争力会議議事要旨。 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai7/gijiyousi.pdfを参照。
*26 第七回産業競争力会議後の甘利大臣記者会見要旨。 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai7/gijiyousi2.pdfを参照。


【関連記事】
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