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『移動』を住民の手に

3期目も半ばになって、最近政府関係の審議会の委員を頼まれるようになった。
一つが地方分権改革有識者会議の議員で、もう一つが交通政策審議会の臨時委員だ。
前者は僕のホームグラウンドのようなものなので違和感はなかったのだが、後者の交通政策審議会は、いわばアウェーの状態の分野。ただ、僕としても是非理解してほしい事柄があって、その中の地域公共交通部会のメンバーになることを承諾した。

高齢者や障碍者の生活の拠点が施設や病院から地域に移っていきつつあるなか、いわゆる地方においてはそれらの人たちを含めて住民が移動をすることが大変難しくなっているということ。行政による許認可を得ている事業者ばかりでなく、それ以外の移動手段を提供している団体のことも視野に入れて、住民にとって便利な移動を実現することができるようにしてほしい、ということだ。

今、県内のあちこちで、NPO法人などが自家用車を使って地域の人たちを病院や役場に送迎するというサービス(福祉有償運送といいます。)を会員方式で行っている。これは、タクシーやバスなど、いわばプロによる移動とは違う、新しいサービスだ。

現在は、このサービスを行うNPO法人などの登録を、国の機関である運輸支局で行っている。このサービスのお客様である会員を増やしたいとか、車の台数を増やしたいとかいうときは、関係する市町村が主宰する協議会で議論をして了解を得なければならないことになっている。

ただ、こうしたサービスが大きくなれば、その分影響が出てくるであろうと思われるタクシーやバスの業界からは、会員や台数の増加に対して否定的な意見が出されていて、なかなか増えていってないというのが現状だ(でも現実は、佐賀県内のタクシーの運送収入実績は約62億円、福祉有償運送の運送収入実績は約3300万円。わずか0.5%なのだが。)。

また、そもそも登録を担当している運輸支局に「交通事業者に影響が出ないように」という姿勢があることも、利用者目線の取組みが難しい原因なのではないか。というのも、登録とは直接関係ないが、デマンド交通などを導入する際の会議で運輸支局の担当者がこんな発言をしているのだ。「コミュニティバスの運行経路が既存のバス路線と重複しないように。」「デマンド交通を導入すると路線バスやタクシーがなくなってしまうので、慎重にしてほしい。」

今、地域交通に関する国と地方の役割を見直そう、という議論が行われている。

僕の問題意識は、移動の方法を多様化させる必要があるということだ。よく災害で自助、共助、公助という言葉があるが、移動についても、同じように分けられると思う。その分類でいけば、これまで

・自助=徒歩や自転車
・公助=バス、タクシー、鉄道 
が中心だったが、これに加えて、最近では、
・共助=家族や友人による送迎、福祉有償運送など

が出てきているし、これを充実させていくことが必要ではないかと考えているということだ。

いわゆる地方ではバスや鉄道を使おうにも、路線や本数が少なくて使いにくい。だからといって、いつもいつもタクシーを使うには高すぎる。

そこが問題なのだ。許認可を得て事業を行っている「公助」の充実だけでは地方における移動の問題点を解決することはできない。人口密度は低く、自家用車の普及率は高いとなれば、どうしても採算が取れにくくなる。これはこれで問題なので、地方においてバスや鉄道がどうやったら成り立っていくのかは別途考える必要があるが。

ともあれ、こうした「共助」のサービスに対するニーズが増えてくると思う。
実際に、もっとこうしたサービスを充実して欲しいという声は多くある。

それなのに、現実の協議会の場では、こうしたサービスの充実についての声はあまり顧みられず、サービスの充実によって影響を受ける側からの反対の声にかき消されがちだ。

また、現在福祉有償運送の対象になり得る人には制限がある。
要介護認定を受けている人、障害者手帳を持っている人など、だ。
ところが、元気だけども収入が低い人は対象になっていない。公共交通機関が発達していない地域に住む人たちはどのようにして移動したらいいのだろうか。

こうしたことについて、これまで答えが出されてこなかった。
また、病院や役場に行くのが中心となるため、なかなか遊びにまでは使えない、といった現実もある。
地域で暮らす人だって気軽に遊びに行けるようにしたいではないか。

「有償」でやるから規制がかかる。「では」ということで、あるNPO法人はほぼ無償で移動事業を行っている。(もちろん赤字なのだが、ほかの介護保険関係の事業の黒字でそれを補てんしているようだ。)

無償で移動サービスをやると、たとえば、図書館に行きたい、競馬場に行きたい、そういうニーズが出てくる、というのだ。
こうした「積極的な利用」とでもいうべき利用を認めていくことで、地域での暮らしを豊かにしていくことができる、と僕は思うが、現状はそういう考え方で協議会が運営されていない。

僕は、これは、交通について自治体に権限と責任がないからだ、と思っている。
福祉有償運送の登録事務は、地方分権改革有識者会議での議論で、国から希望する地方自治体へ権限移譲されることになった。とはいっても、バスやタクシーに対する許認可をはじめ、地域の交通政策における自治体の権限と責任は依然としてはっきりしない。
法律上の位置づけをしっかりして、自治体にこうした住民の移動手段の確保について責任を持たせていただければ、住民にとってプラスになるサービスの提供が可能になる。
そういう考え方で、地域公共交通部会での議論に臨んでいる。

繰り返しになるが、施設とか病院ではなくて地域とか自宅で暮らすということが世の中の流れになっているのに、「実際に暮らすときの移動の方法をどうしたらいいのか」ということについては全く検討が遅れているということだ。
「タクシーがあるじゃないか。」
そのとおり。でも、こういうことがあるのをご存知だろうか。

ある日、福岡市内で友達と一緒に食事をした。その友達は車いすの使い手だ。店を出るとき、彼からこう頼まれた。
「古川さん、悪いけど外に出てタクシーをひろってくれない?」
「いいけど何で?」
「俺、車いすだから、止まってくれないことがあるんだよ。」
「なんで止まってくれないの?」
「障碍者は障害者割引がきくでしょ。それ運転手の水揚げ減なんだよ。ほかの人を乗せれば、例えば千円のところだったら千円もらえるのに、障碍者を乗せたら1割減になるから嫌だと思う人が結構いるんだ。さらには車いすを載せるとなると、その手伝いもしなくちゃいけない。トランクあけて載せないといけないし、乗り降りの手伝いをしないといけない。手間もかかるし収入も少ない障碍者を進んで乗せようという運転手はなかなかいないんだ。」

わかった、と僕は店の外に出てタクシーを止め、そのうえで彼が後ろから車いすで現れた。そのタクシーの名誉のために言っておくが、運転手さんはまことに気持ちよく、彼を助手席に乗せる手伝いをし、車いすを後部のトランクに置いてくれた。
こういう人ばかりだといいのに、と思った。

残念なことに、彼が指摘をするようなことが現状としてあるようだ。もちろん僕らが目指す世界は、どんな人が手を挙げてもきちんと止まって気持ちよく乗せてくれる人ばっかりになることではあるけれども、こういう現実がある以上、たとえば車いすの使い手が安心して使える移動手段も確保していかなくちゃいけないと思う。

はじめての交通政策審議会。僕も含め、多くの委員の方たちが意見を述べられ、とても参考になった。
そのときの様子はこちらにアップされている。
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s303_koukyoukoutu01.html

これから「地域公共交通活性化・再生法」の改正に向けて議論が本格化してくことになる。
地域の声を法律改正に反映させていきたい。

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