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軍事技術に無邪気に近づいていくJAXA

昨日、イプシロンに関するコメントを掲載したが、もう一つ気になっていることがあるので、連日の投稿になりますがご容赦ください。

その気になっていることとは、来年度の概算要求で文科省から出された、超低高度衛星技術試験機(SLATS)と呼ばれる衛星です。

この衛星は高度200-300kmと、宇宙空間とはいえ、地球の重力と大気の影響を受ける軌道を周回する衛星で、地球に近いところから画像を撮るため、非常に高い分解能(解像度)を持つ衛星になると考えられています。

地球に近いと、すぐに重力に引っ張られ、大気に寄る空気抵抗を受けるため、すぐに大気圏に突入してしまいそうなのですが、そこで「はやぶさ」で実証されたイオンエンジン(太陽光パネルによって発電された電気で推進力を得るエンジン)を活用し、軌道位置を維持するということが想定されています。イオンエンジンは電力で動くため、軌道位置を維持するための燃料を積む必要がなく、長期間にわたって燃料切れの心配なく運用できるという特徴があるとのことです。

これ自体は技術的に興味深い計画であり、実際に打ち上げることになれば、世界にもインパクトを与えることが出来る衛星だと思います。しかし、イプシロンと同様、この衛星は安全保障という観点から見ると、色々と問題があるように思っています。

というのは、これだけ低高度の軌道を飛翔し、分解能の高い画像を撮ることができるということは、偵察衛星の機能と全く変わりがない、ということです。まだどの程度の分解能にするのかは決まっていないのですが、有効開口径(簡単に言えば望遠鏡のサイズ)が30センチだと40-60センチの分解能、50センチだと20-40センチの分解能、70センチだと15-25センチの分解能という想定がなされています。分解能とは、どのくらいの大きさのものを識別できるか、という能力を計る尺度で、現在使われている情報収集衛星が60センチ(一辺が60センチの物体であれば認識できる)なので、このSLATSは、それよりもはるかに高い分解能を持ち、アメリカなどが偵察衛星として使っている衛星とほとんど同じ性能を目指していると言えます。

果たして、これだけ高分解能の衛星をもって、何に使うのでしょうか。JAXAの資料(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/059/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2013/09/06/1338400_8.pdf)によれば、技術実証の他、大気密度に関するデータの取得、原子状酸素に関するデータの取得、小型高分解能光学センサによる高分解能撮像、というミッションがある、と措定されています。

つまり、JAXAはそれだけの高分解能画像を取得することについての問題意識というか、安全保障上のインプリケーションについて、何も示しておらず、ただ「高い能力を持った衛星を作ったぜ!」ということだけを目指しているとしか読み取れません。その技術が持ちうる、政治的・社会的問題について、全く無頓着に高性能の衛星を開発するということは、果たして国の政策として適切なのか、疑問が残ります。

私はJAXAが安全保障目的の衛星を開発することに反対するわけではありません。宇宙基本法では、日本と世界の平和と安全にかかわる衛星を作ることは認められています。なので、原理的に「安全保障・防衛に関連する衛星を作るべきではない」という主張をするつもりはありません。

しかし、このSLATSを打ち上げた時、世界はこの衛星をどう見るのか、と考えると、変な誤解を生む可能性があるということは懸念しています。世界の宇宙コミュニティ、安全保障コミュニティ、諜報機関は「日本は高性能の偵察衛星を打ち上げた」と認識することは容易に想像できます。さらに「日本はなぜこれだけの高性能の偵察衛星を打ち上げる必要があるのだろうか?ひょっとして、関係が悪化している国に対して軍事攻撃を仕掛けるつもりなのではないか」という疑問が生まれる可能性も否定できません。

そういう疑問に対して、JAXAはどう答えるつもりなのか、全く明らかにされていません。仮に内閣府の宇宙戦略室が、将来にわたって日本が高性能の偵察衛星を保有し、それによって地域の平和と安全を守ることをめざし、その衛星が撮影した画像は公開する、といったことを表明するのであれば、他の国々の人達も、ある程度納得するかもしれません。ないしは、純粋に「現在、日本は外国からの脅威にさらされているから、それを監視する必要がある。しかし、これは外国を攻撃することを目的とせず、監視をするためだけに使う」という言い方でもよいかもしれません。

しかし、今回、概算要求に出された資料からは、その衛星が撮った画像をどう使うかもはっきりせず、内閣府からも、宇宙政策委員会からも具体的な説明はなされていません。 こうした透明性の欠如というか、どのような意図をもって衛星の開発をするのかという説明の欠如は、不要な憶測を呼び、日本に対する信頼を失う可能性もあります。

私が想像するに、今回のSLATSが概算要求に入れられたのは、宇宙基本法が出来て以来、JAXAは「研究開発ばかりしていて役に立つ衛星を作っていない」という批判にこたえるため、何とか役に立ちそうな衛星を開発しよう、と意気込んだからなのだろうと思っています。その意気は良いのですが、しかし、そうして頑張って高い性能の衛星を開発しても、それが「何のために使われるのか」ということがはっきりしなければ、余計な心配を招く結果になります。

つまり、問題は、JAXAが研究開発機関として、無邪気に技術開発に邁進した結果、意図せざる結果として、諸外国から不信感を招くというところにあります。JAXAも文科省も予算がなければ生きていけない組織ですから、何とかして予算を獲得するよう努力していると思います。しかし、予算を取るために何をやってもよいというわけではありません。きちんと、その技術を何の目的で、どのように使うのか、ということをはっきり想定した上で、そうしたニーズに合わせて技術開発をするのだ、ということを明確にする必要があります。

JAXAはこれまで研究開発機関として存在しており、新しい技術、素晴らしい技術を開発していればよい、という組織でした。日本の宇宙開発が半人前で、諸外国が持っている技術にキャッチアップするという時代であれば、それでも良かったでしょう。実際、JAXA(その前身のNASDA時代も含め)が急速な勢いで技術を取得し、日本の宇宙開発をリードしてきたことは素晴らしいことだと思います。

しかし、もう時代は変わりました。日本の宇宙開発は立派に世界で通用するものになり、一人前の宇宙開発を進める段階に来ています。そうした中で、無邪気に技術開発して、新しいもの、素晴らしいものを作ればよい、というだけでは生きていけない時代になったと考えています。

いま必要なことは、JAXAが無邪気に技術開発をすることではなく、日本がどのような衛星を、どのような目的で必要としているのかを精査し、その衛星を実現するために研究開発をする、という仕組みにしていくことです。

つまり、これまでは「衛星を開発しました。どうぞ使ってください」という技術開発→利用、という流れだったのですが、これからは「こんな衛星が必要だ。だから作ってください」という利用→技術開発という流れにしなければいけないのです。2008年に成立した宇宙基本法はまさにそれを目指しているものだと考えています。

無邪気に技術開発を続け、知らない間に軍事技術と同等のものを作り、諸外国から不審に思われるようなことは避けなければなりません。 そのためにも、利用目的と手段をはっきり定めた上で技術開発をするということが大事になります。言い方を変えれば、JAXAが無邪気に技術開発をすることは、技術者の暴走と取られても仕方がないことであり、日本という国のイメージ、信頼を損ねる結果になる可能性を秘めているということです。そうならないようにするためにも、利用目的を定め、JAXAの技術開発プログラムをコントロールするための司令塔である、宇宙開発担当大臣(現在は山本一太大臣)、宇宙政策委員会、内閣府宇宙戦略室が宇宙開発計画をしっかりと策定し、それに従ってJAXAは研究開発をする、という政策の流れを作ることです。JAXAが予算欲しさに無邪気に衛星を作ることは、その流れに反することであり、宇宙政策のあり方として適切な流れではないと考えております。

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