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信認により維持されているマーケット

 日銀は9月10日に、8月7日~8日に開催された金融政策決定会合の議事要旨を発表した。この中から長期金利に関する委員からの意見に関して確認してみたい。

 「長めの金利への働きかけについて、多くの委員は、わが国の長期金利が安定的に推移しているとの見方を示した。そのうえで、これらの委員は、海外金利上昇や景況感改善などに伴って生じる長期金利の上昇圧力を、日本銀行による巨額の国債買入れが、強力に抑制していると指摘した。」

 米国の長期金利は米国景気の回復基調やFRBの量的緩和縮小観測などを背景に、一時3%台に上昇した。ドイツの長期金利は2%台に上昇し、英国の長期金利も約2年ぶりの3%台をつけてきた。これに対して日本の長期金利は0.7%台での安定的な推移が続いている。

 この背景には日本国債への信認が継続しているなか、日銀による巨額の国債買入が需給面から大きな影響を与えていることは確かであると思われる。さらデフレ脱却についてもそれを信じている参加者が限られていることも示している。ここにきてのコアCPIの上昇も、エネルギー価格の上昇から多少上振れているものの、異次元緩和以前からあった想定の範囲内にある。もし2%に向けた物価上昇を意識しているとすれば、日本の長期金利がこの程度に収まっていることは考えづらい。FRBの巨額買入は続いているにもかかわらず米国債は大きく下落しており、国債は需給面だけで価格が維持されるものではない。

 「ある委員は、債券市場の流動性に関して、長国先物の値幅・出来高比率がなお高めであると指摘した。別のある委員は、債券市場の不安定さは潜在的には引き続き残されており、今後の国内物価や米国金利の動向が及ぼす影響に注意が必要と述べた。」

 異次元緩和が決定されたあとの国債市場の不安定さは、値動きなどを見る限り次第に解消されつつあることは確かである。債券先物の取引ばかりでなく、現物債の取引についても落ち着いてきている。しかし、池の中にクジラが存在している状況に変わりなく、その日銀の国債買入の動向が常に注目されている。それでもオペ時間や結果発表の時間での先物の妙な動きが、ここにきて見えなくなってきている。慣れというか、そこで仕掛けても妙味がないことがわかってきたのではなかろうか。

 「これに関連して、多くの委員は、金利の安定を確保するためには財政運営に対する信認が維持されることも重要であり、政府が財政健全化に向けた取り組みを着実に進めていくことを期待しているとの認識を示した。」

 日銀の異次元緩和による大量の国債買入が財政ファイナンスと認識されていないのは、政府による財政健全化が背景にある。消費税引き上げの先送りなどを行うと、このあたりに疑問符が生じてくる可能性がある。

 「このうちのある委員は、日本銀行の国債買入れにより金利の低位安定が保たれるとの期待が過度に強まることなどを背景に、財政健全化に向けた政府の取り組み姿勢の後退につながる場合は、市場の国債に対する信認低下から長期金利が上昇し、結果的に日本銀行の政策効果を減殺する可能性があると指摘した。」

 これは信認により維持されているマーケットという存在を理解している委員からの発言のように思われる。日本国債への信認低下による国債価格の急落という事態は、戦後に関していえば過去に経験していない。1998年末の運用部ショックは資金運用部という国債消化に大きく関わっていた存在への懸念が要因であり需給への懸念が背景にあった。2003年6月のVARショックは買われすぎの反動とも言えた。

 戦後に日本国債の信認低下による国債価格の急落の経験はない。しかし、それがもし起きた際に何が起きるのか。それはたとえば2010年のギリシャ国債の動きが示している。また、国債の流動性が急速に低下し、買い手がいなくなったときに何か起きるのかは、リーマン・ショック後の日本の変動利付国債や物価連動国債の動向から確認できる。

 ギリシャはユーロ圏の問題、日本の物国などはそもそも発行量や残高が10年国債などと大きく違うとの意見があるかもしれない。私が言いたいのは、その発行量や外部環境がどうあれ、マーケットでは何かのきっかけで、このような事態が起こりうるということである。それは非常に安定しているように見える日本の国債市場も例外ではない。

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