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写真文化の変容〜デジカメとスマホがもたらすもの(7)/ポスト写真文化のゆくえ

「ポスト写真文化」にもテクノロジーは押し寄せた

写真文化は徹底した消費&コミュニケーション文化のカメラカルチャーと、マニア=オタク向けの「ポスト写真文化」に二極化したとここまで展開してきた。最終回は後者の「ポスト写真文化」について考えてみたい。

五年前の分析ではポスト写真文化をレコードをアナロジーに説明した。つまり、一部のオタクが旧来のレコード文化を維持させ続けるといった説明だった。そして、こういった一部のコアでエッジな客を叔父はゲットしようとしていた。これを「ポストレコード文化」と考えると「ポスト写真文化」はちょっと様子が異なっている。レコードの場合、テクノロジー自体がアナログからデジタルへと変換された結果、アナログ指向の人間、つまりかつてのオーディオマニアたちがこれを支持しただけで、後続が生まれると言うことが期待されなかった(もちろんコアなデジタル指向のオーディオマニアは存在するが)。ところが、ポスト写真文化の場合はアナログがデジタルに変わってもコレクションや写真技術といったものがそのまま踏襲され、さらには新規参入者を取りこむことに成功したからだ。

写真を加工は自分でやること

たとえば写真技術に関するこだわり。これはアナログでもデジタルでも同じだ。違いはそのこだわりをカメラ屋に委託するか、自分でやるかにある。つまり、レタッチソフトを利用して画像をお気に入りのスタイルに加工修正する。しかも、それは焼き上がりの色合いと言うことだけではなく、大胆に写真を加工するなんてやりかたにもなる(フォトショップみたいなレタッチソフトを使えば、いとも容易に、思いのままの写真を作ることが出来る。これはもはや現像と言うより、写真の編集といったほうが正鵠を射ている)。なので、こういたDIY的なやり方となれば、こちらではいくらか価格が高騰して粗利が稼げるようになったとしても,叔父のような街のカメラ屋さんの取り分はほとんどなくなってしまう。カメラ自体は街のカメラ屋さんで購入するより価格.comや大型量販店から購入した方がはるかに安上がりだし、その後のメンテや写真についての技術的側面もマニュアル見ながらアプリをいじればいいわけで。ちょっと街のカメラ屋さんの出番はあまり期待できない。

カメラ撮影人口の底上げ

一方、意外なところからカメラの需要は登場している。それはカメラが低廉化、カジュアル化していく中で、それまではカメラに縁遠かった層を取りこむことに成功したからだ。カメラのカジュアル化が進むのは70年代後半からくらい。この時期、オートフォーカスカメラが誕生し(それ以前にも露出自動・フォーカス手動のオートマチックカメラは存在した)、80年代には使い捨てカメラが登場、さらにプリクラ人気、ケータイへのカメラ機能の追加、デジタルカメラの普及、そしてスマホ&SNSの普及で、かつてはもっぱら男性ジェンダーに振られていた写真撮影という行為が女性層にも拡大したのだ。つまり、こういったカメラのカジュアル化は翻って、日本人全員(世界の人間全部?)がカメラ撮影という行為を行うことになったのだ。つまり全員カメラマン。こういった状況のブレークスルーになったのがケータイのカメラ機能で、これにダメを押したのがスマホとSNSだったというわけだ。

もちろん女性はジェンダー的には機械操作は苦手。しかし、これだけ多くの女性がカメラ撮影をあたりまえのようにするようになれば、当然、その中で写真文化に興味を持つようになる層も登場する。しかも母集団は巨大ゆえ(女性だけでも人口の半分)、その割合が小さくてもかなりの数に上る。そして、当然ながら、それはこれまでほとんど開拓されていない市場が開け、しかも膨大な顧客層が出現したことを意味する。資本、つまりカメラを産業とする企業はここに目をつけた。そう、いわゆる「カメラ女子」の誕生だ。こういった層はケータイやスマホのカメラ機能をいじるうちにカメラにこだわりをもちはじめる。となると、彼女たちが手元に置こうとするのは、もはやフツーのデジカメではない。一眼レフ、そしてミラーレスと言ったハイエンド商品だ。あたりまえだが、これはメーカー側からすれば粗利が大きいわけで「おいしい市場」。で、一気にカメラ女子という記号をばらまき、市場を活性化させることに成功したわけだ。ちなみに現在1~3万円未満程度のデジカメはどんどんと売れなくなってきている。何のことはない、中途半端だからだ。スマホに比べるとコミュニケーションツールとしては使いづらい(というかネットに繋がらないし、デカイので携帯性に劣る)。しかも、今やスマホのカメラ機能はこの価格帯に迫っている。機能的にもこだわりを持つ(技術的な操作を駆使する、高いモノを所有しているという満足感に浸る)ということについても力量不足。だから結局、安いモノは全然売れず(かえってチェキなどのポラロイドカメラや使い捨てカメラの方がウケる。これは明らかにコミュニケーションツール、とりわけパーティグッズに振っているからだ。とうことは、もちろん用途が限定されているのだけれど)。

その傍証となるエピソードを一つ。現在カメラマンを目指す女子が増えているらしい。僕の弟はカメラマンで芸能人の写真撮影を仕事としているのだけれど、撮影のためにカメラスタジオに行くと、最近は女子のアシスタントに出会うことが圧倒的に増えたという。自分がアシスタントの頃(三十年ほど前)には女性アシスタントなんか皆無だったそうだ(ちなみに、カメラマンという職業はもはや成立しないくらい小さな労働市場になっているらしい)。

ポスト写真文化はやはり写真文化とイコールではない

こうやって考えてみるとポスト写真文化も、どうやらかつての写真文化とはやっぱりちょっと違うようだ。ポスト写真文化の担い手、つまりカメラオタクたちの多くはその技術的追究をおそらくカメラ屋という物理的空間ではなく、ネットを利用して単独で、あるいはコミュニティサイト、あるいはオフ会等を通して行っていくだろう。だから、アナログカメラでカメラ屋と交流するというかつてのスタイルはやらないだろうし、現像をカメラ屋に委ねるということもごく僅かになるはずだ。

ということは、市内のカメラ屋がどんどんつぶれて、最後の一件になり、マニア=オタクたちのニーズを独り占めにしようと企んでいる叔父のたくらみが功を奏するか否かは微妙なものになってくる。こういったポスト写真文化の層がカメラ屋にリーチする可能性が低いからだ。

まあ、そうはいっても叔父は安泰だろう。自分で家業をたたむ覚悟。だからかつての写真文化の残党たちを一手に傘下に収めることは出来るし、この連中が消え去る頃は、自分もまた別世界の人間になっているはずで。

写真はやはりメディア。テクノロジーとそれを使いこなすユーザーの関数として、つまり生ものとして常に変化しつづけるのだ。そしてそのドラスティックな変化が、いま写真=カメラに起ころうとしている。

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