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- 2013年09月08日 21:20
電子版でいかに収益をあげるか、情報収集の危うさとメディアの立ち位置 -世界新聞大会報告(下)
2/2ー読者データの徹底利用
ウェブサイトを見ていると、自分の年齢、住んでいる地域などに関連した広告が掲載される場合がある。私たちは、こうした現象にもはや驚かなくなった。しかし、メディアが読者について大量の情報を把握しているかを実際に知ったら、おそらく衝撃を受けるだろう。
そんなことを考えさせたのが、4日の世界新聞大会のセッションで、日刊タブロイド紙デーリー・メールを出している英出版社デーリー・メール&ゼネラル・トラストの傘下にあるDMG Mediaのケビン・ビーティーCEOの説明だった。
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(どれほどの情報を収集しているかを示すDMGメディアの説明)
同社のウェブサイト「メール・オンライン(Mail Online)」の月刊ユニークビジターは4600万人で、世界でも有数の新聞サイトになっている。
同サイトは、どの記事にいつどれぐらいのアクセスがあるかをリアルタイムでチェックしている。ある記事が最初に読まれたのはいつか、ページビュー別の記事のランキング、1分毎のページビューを表示し、10分毎のページビューのトレンドを線グラフにして分析する「リアルタイム・アナリティクス」画面を作成している。ページビューを上げるために、ランキングの状況によって、適宜、記事の見出しを変更したり、記事内容を変更している。
同社はサイト利用者についての詳細な個人情報を収集している。例えば、ビーティー氏が紹介した「豊富な顧客データ」の表によれば、利用者の「名前、生年月日、住所、電話番号、電子メールのアドレス、独身か既婚か、収入、持ち家か借家か、職歴、フェイスブックのプロフィール、ツイッターのハンドル名、関心事(例えば映画、ファッション、スポーツ、ニュースなど)、どんなウェブサイトによく行くか、ゲーム好きかどうか、休暇にどこに行ったか、何を買ったか」などの情報を持つ。
メール・オンラインは広範囲でかつ詳細な情報を次のように取得しているという。
(1)ウェブサイトへのコメントを残すときにソーシャルメディアのプロフィールを利用させる、(2)ニュースレターを送るときに個人情報を取得する、(3)スマートフォン、旅行などの商品を無料あるいはディスカウント価格で提供するためのコンテストに参加させる、(4)「フラッシュマーケティング」(割引価格や特典がついたクーポンを期間限定でインターネット上で販売する手法。数十時間の間に集客と販売および見込み顧客の情報収集が行われる)サービス「ワウチャー」(Wowcher)などだ。
ーデンマークの試み 利用者データを徹底収集
4日の広告フォーラムのセッションでは、新聞がオンラインサイトを活用して収入増をはかっている具体例が示された。
デンマークのユトランド半島北部(北ユラン地域)を拠点にする複合メディア企業ノアユースケ・メディア(Nordjeske Medier)の出版部門の統括責任者ヘンリク・ブラン氏の説明だ。
同社は、ニュースサイト、ウェブショップ、モバイルサイト、アプリ、電子ペーパー、マーケティングなどの多数のデータ収集地点から利用者の情報を集め、収入増加に役立てている。
ひとつは「再マーケティング」である。利用者があるサイトを見ていて、そこに出ていた広告が、利用者が移動した先のサイトにも再度出るというやり方だ。クッキー情報(利用者が訪問した回数や前回のアクセス日時など)を利用する。新聞サイト側は、利用者が最初の広告でクリックをしなくても、再度これが掲載されることでクリックした場合に、収入を得ることになる。
また、「対話マーケティング」という手法では、出版社が発行するニュースレターを通じて、利用者と直接的な関係を持つ。ニュースレターの発行部数は6万部で、これは北ユラン地域の人口の1割にあたる。この6万人について、メディア側は性別、年齢、持ち家か借家かなどの詳細な情報を持ち、その特徴に応じた広告を利用者がサイトに来たときに出していく。利用者それぞれに適応した広告を画面に出すと、クリック率が「5~10%上がる」ので、メディア側の収入が増える仕組みだ。
ー個人情報の収集についてメディアは説明すべき
英国のDMGメディア社やデンマークのノアユースケ・メディアの例を見ると、ウェブサイトを提供するメディア側が利用者・閲読者の広範囲な個人情報を取得していることが分かる。
メディア側が個人情報の取得に熱心になるのは、ページビューを増やしたい、あるいは利用者にあった広告を出すことでクリック率を上げたりして、ターゲットを絞った広告をプレミアム広告として、より高い広告掲載量を広告主に要求できる利点があるからだ。
また、収入とは別に、ネットニュースには読者の興味に合わせた「個人化」が求められる傾向があり、メディア側のニーズと利用者のニーズが一致したかのように見えるかもしれない。
しかし、私は、メディアからの説明責任が十分に果たされていないように感じる。
ウェブサイトを訪れると、クッキー情報を利用することの許可を求められることがある。私たちの多くは「許可する」を選ぶのではないだろうか。しかし、あるサイトを見ていて、次のサイトに移動したときにも前のサイトの広告が一緒に移動しており、この広告をクリックしたら、1つ前に訪れた新聞社のサイトに収入が入るというデンマークのメディアのような手法について、どれだけの利用者が自覚的に認識しているだろう。
取得される情報の大きさについても懸念を覚える。英国のメール・オンラインのどれだけの読者・利用者が、名前から趣味嗜好までの情報を発行会社が把握していることを、十分に理解しているだろう。
サービスごとに、個人情報の提供は常に同意を求められているはずだが、それでも、収集された情報の総体について想像するのは難しい。
メディア側は、どんな情報を取得しているのかを一度、利用者に開示するべきではないだろうか。
一方、デジタル時代の言論空間で、個人の無記名性が減少しつつあるのではないかとも思う。かつて、新 聞は、キオスクやスタンドでふらりと気軽に買えるものであった。買い手は自分の名前や住所などを売り手や作り手に教える必要はなかった。新聞の定期購読・宅配率が日本ほどには高くない多くの国で、紙の新聞の場合は、今でもそうである。
しかし、ネット時代になって状況は変わった。コンピューターやスマートフォン、タブレットの画面からニュースを読む私たちの多くは、知らないままいわばプライバシー情報を切り売りしながら、さまざまな言論を読んでいる。それ以外の選択肢はなく、この傾向はますます強まりそうだ。この点が、私には居心地が悪い。
大会開催と同時期に、元米CIA職員の男性が米国家安全保障局(NSA)による大規模な個人情報収集の実態を暴露する報道が出た。「国家の安全保障のためには、監視されても仕方ない」と考える人がいる一方で、「過度の監視は違法だ」と考える人もいる。
ビッグデータの活用が提唱される中、読者・視聴者の信頼感に基礎を置くメディアの立ち位置はどうなるのだろう。(終)
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