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役立たなかった「アンケート」~「ほっとレモン」商標登録異議取消事件より

商標の「識別性」というのは、この世界では言わずと知れた花形論点だし、実務的にも類否判断と並んで重要度が高い(そして、商標実務に接し始めた担当者を一番悩ませる)ポイントだと言える。

そんな商標の識別性に関し、また研修やセミナーのネタになりそうな事例が一つ登場した。

個人的には、裁判所が出した結論以上に、当事者の立証活動に気になるものを感じるこの事例を、ここでご紹介しておくことにしたい。

知財高判平成25年8月28日(H24(行ケ)第10352号)

*1

原告:カルピス株式会社

被告:特許庁長官

争われた商標は、原告が平成21年12月1日に出願し、平成23年6月27日に登録査定がなされた、

(1)赤色で彩色された,丸みを帯びた太字の書体で平仮名「ほっと」と片仮名「レモン」の文字を上下二段に,横書きした文字部分(本件文字部分)

及び

(2)赤色で彩色された,上辺中央を弓形に膨らませ,4隅を丸く描いた四角形状の輪郭線(本件輪郭部分)

(以上10頁。25頁に商標の現物が掲載されている)


からなり、第32類「レモンを加味した清涼飲料、レモンを加味した果実飲料」を指定商品とする商標(登録第5427470号)である。

これは、一定のデザイン化がなされた商標ではあるものの、「暖かいレモン飲料」をそのまま英語訳すれば、本件商標と同一の称呼となってしまうわけで、担当者的には、出願の時点で「ちょっと厳しいかなぁ」と当然思う際どい代物。

それゆえ、本件でも拒絶理由通知を経て何とか登録に至ったものの、サントリーHD、キリンHDといった大手ライバル飲料メーカーから直ちに相次ぐ登録異議の申し立てが行われ、特許庁で審理された結果、平成24年9月4日、商標登録を取り消す旨の決定がなされることになった(理由は、商標法3条1項3号該当、3条2項非該当)。

そこで、原告側が特許庁を相手取り、改めて知財高裁で登録取消決定の無効を求めて争ったのが、本件訴訟ということになる。

原告側は、本件商標のデザイン性を強調して、

「本件商標中の本件文字部分は,日常的に用いられているフォントとは異なる書体が用いられ,強い印象を与える。本件文字部分の書体のデザイン及び配置は,商品コンセプトはもちろん,「ほっとレモン」という商品名を上下横二段書きとすることを前提に,一文字一文字を個別に検討して全体の統一性を考えながらデザインが完成されている。本件商標中の本件輪郭部分は,「ほっと/レモン」の文字の書体のイメージに合わせて,緩やかで,クレヨンで描いたときのようなややぼかした曲線で表されている。本件商標においては,「ほっとレモン」の文字を横一連に表示するのではなく,平仮名文字「ほっと」と「レモン」を二段横書きにすることによって,「ほっと」の日本語としての語感が強調され,「安心感」「解放感」等の,意図するブランドイメージがより分かりやすいよう工夫されており,本件輪郭部分は,当該二段に分かれた「ほっと」「レモン」をまとまりよく見せている。」(3頁)


と述べた上で、文字部分についても、

「本件文字部分は,「ほっと」という日本語と,英語の「LEMON」の片仮名書きである「レモン」を組み合わせた造語であって,特定かつ具体的な観念ないし意味を有するものではない。本件商標は,指定商品との関係において「人をほっとさせるレモン飲料,人がほっとしたときに飲むレモン飲料,人がほっとしたいときに飲むレモン飲料」の如き観念・イメージを,間接的に需要者に与えることが考えられ,「温かいレモン飲料」の意を需要者に直接的に想起させるとは言い難い。」(4頁)


と主張した。

また、3条2項該当性についても、併記している「CALPIS」の文字部分は支配的な印象を与えているものではなく、本件商標それ自体が「日本全国における長期にわたる継続的な使用により自他商品識別力を獲得している」こと、さらに、

「原告は,「ほっとシリーズ」の元祖といえる「ほっとレモン」の保護については注意を払い,平仮名文字「ほっと」と片仮名文字「レモン」の組合せが,原告以外において使用されないよう市場を監視している。この結果,原告は,「ほっとレモン」という造語及び本件商標の構成の稀釈化を阻止・防止することに成功し,独占的に使用を継続している。」(6頁)


といった主張まで行い、知財高裁での逆転を図ったのである。

裁判所の判断と“アンケート調査”のアシスト(?)

原告側がきちんとした代理人を付けて訴訟追行していることもあり、上記のような原告の主張には、“出せるものは全部出した”的な潔さがある。また、これだけ読んで、もしかしたら…と思った方もいらっしゃるかもしれない。

だが、裁判所は客観的な事実を元に、商標法3条1項3号について、実に合理的な判断を下した。

「本件文字部分のうち,片仮名「レモン」部分は,指定商品(第32類「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」)を含む清涼飲料・果実飲料との関係では,果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを意味し,また本件文字部分のうち,平仮名「ほっと」部分は,上記指定商品との関係では,「熱い」,「温かい」を意味すると理解するのが自然である(略)。また,本件輪郭部分については,上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲み枠を設けることは,清涼飲料水等では,比較的多く用いられているといえるから(略),本件輪郭部分が,需要者に対し,強い印象を与えるものではない。さらに,「ほっとレモン」の書体についても,通常の工夫の範囲を超えるものとはいえない。」(18~19頁)

「この点,原告は,「ほっと」は,「人をほっとさせる」「人がほっとしたいとき」を意味し,「温かい」を意味するものではないかのような主張をする。しかし,(1)「温かいレモン風味の味付け等をした飲料」を総称する名称(称呼)としては,「ほ」「っ」「と」「れ」「も」「ん」があり,それ以外の名称(称呼)を一般的に確認することはできないこと,(2)「温かいレモン風味の味付け等をした飲料」としての「ほ」「っ」「と」「れ」「も」「ん」の表記は,「ホットレモン」のみならず片仮名と平仮名の組合せである「ほっとレモン」も用いられていたこと(略),(3)「レモン」以外の果実等の風味を付加し,温かい状態で飲まれることを想定した清涼飲料水等においても,平仮名「ほっと」の文字が使用される例は,少なくないこと(略)等に照らすならば,原告の上記主張を採用することはできない。すなわち,本件に現れたすべての証拠によるも,本件商標について,「熱い」,「温かい」との観念が生じることを否定する事実は認められない。 」(19頁)

「「ほっとレモン」との文字及びそれを囲む輪郭部分の組合せからなる本件商標は,本件商標の指定商品(「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」)との関係では,商標法3条1項3号所定の「商品の・・・品質,原材料・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというべきである。」(19頁)


他社の販売する「ホットレモン飲料」に「ほっとレモン」や「ホットレモン」という表記が付された事例だけでもかなりの数があるし(12~14頁参照)、温かい飲料に「ほっと」という平仮名を付けているケースも多い。

そうなると、いかに原告が本件商標の独自性、造語性を強調しても意味がないわけで、上記判断については、特に異論のないところだと思われる。

一方、原告側が密かに勝負どころと睨んでいたのではないかと思われるのが、商標法3条2項該当性、という争点だったのだが、この点についても、知財高裁は以下のようなシンプルな論理で原告の主張を退けている。

「上記1で認定した事実に基づいて検討すると,本件商標が使用されたことにより,需要者において,何人かの業務に係る商品であるかを認識することができたと判断することはできない。」(20頁)


判決ではこの後に続けて、「輪郭部分」、「レモン」の文字部分、「ほっと」の文字部分それぞれについて、「商品の出所識別機能を有するに至ったとすることはできない」理由を丁寧に説明している。

そして、極めつけは、「ほっとレモン」、「ホットレモン」等の名称に関する調査結果について言及した以下のくだりである。

「調査会社が,平成24年12月に,原告からの依頼を受けて行った本件商標に関連した調査結果(甲24)には,以下の記載がある。すなわち, (1)「『缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料』ときくと,なんという商品名やメーカー(会社名)が思い浮かぶか」との質問に対して,「ホットレモン」と回答した者は全体の27.3%であり,「ほっとレモン」と回答した者は全体の20.3%であったとの結果が得られたとしている。(2)「ホットレモン」と回答した者のうち,メーカー名について回答した者は,「わからない」との回答者が一番多く(全体の14.7%),原告であると回答した者は,全体の1.0%であった。(3)「ほっとレモン」と回答した者のうち,メーカー名について回答した者は,同様に「わからない」との回答者が一番多く(全体の11.0%),原告であると回答した者は,メーカー5社中最下位(全体の0.3%)に位置し,「ほっとレモン」の文字を含む商品を市場に提供していないメーカーと対比しても低いことが記載されている。同調査結果によれば,「ほっとレモン」の文字,及び同文字の一部である平仮名「ほっと」が,調査時点において,「缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料」との品質,原材料等を説明的に示すものとして使用されており,それを超えて,特定の出所識別機能を有するものとして使用されているということはできない。」

「なお,原告は,本件訴訟において,本件商標中の平仮名「ほっと」との文字部分は,「人をほっとさせる」「人がほっとしたいとき」との観念を需要者に与えるものであって,「温かい(レモン飲料)」との観念を需要者に与えるものではないと主張する。しかし,上記調査は,「『缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料』と聞くと何という商品名やメーカー(会社名)が思い浮かぶか」など,温かい飲料を前提とする質問から構成され,本件商標の指定商品を対象とするものではない。その調査結果から,原告の主張に沿った結論を得ることはできない。 同調査結果は,その他の質問回答もされているが,本件商標が,その使用によって,特定の出所識別機能を有するものとなったことを認定するに足りる調査結果を見出すことはできない。」(22~23頁)


「ほっと」「レモン」それぞれが部分的に識別力を発揮することはなくても、(ただの「ホットレモン」ではない)「ほっとレモン」という組み合わせの文字列を見れば、ただの説明的表示ではなく、どこかのメーカーの「商品名」ではないか? と思うことがあっても不思議ではない、と自分は思う。

そして、商標法3条2項の「何人かの業務に係る商品・・・であることの認識」というのは、「特定人の業務に係るものであることの認識」までは問わない、とされているから、原告としてはそこに勝機を見出すこともできたように思われる。

だが、 本判決の中でかなりの紙幅を割いて引用されている(15~18頁)アンケート結果は、引用されている箇所を見る限りでは、原告にとってはかなり致命的なものだった、と言わざるを得ない。

思い浮かべた商品名が「ほっとレモン」だった人が約20%いる、としても、そこから具体的なメーカー名を想起できる回答者は極めて少なく、さらに、現時点では「ほっとレモン」の商標を枠囲いの形状で唯一使っている原告の名前が出てくる回答者はもっと少ない・・・。

そうなると、「ほっとレモン」を商品名、ブランド名だ、とする回答をした人たちも、いったいどこまで本気でそういう回答をしたのか、ということが、極めて怪しくなってくる。

判決の記載によれば、このアンケート結果は甲号証として提出されているから、おそらく原告側主導で提出したものなのだろう。

そして、原告側としては、「ほっとレモン」が「商品名」として認識されている、という事実を証明できる数少ない資料の一つとして、これを援用しようとしたのだろうが、セットになっていた他の質問項目への回答が、アンケート結果の証拠としての意義を大きく減殺してしまったように自分には思えてならないわけで・・・。

このあたり、同種事件にとどまらず、いろいろと考えられる教訓はあるような気がしている。

なお、最後に原告側が主張していた「自らの努力によって、同一態様で商標を使用する他社がいなくなった」という点について、判決は、

「他社が,「ほっとレモン」との文字を輪郭線で囲んだ形状の商標の使用を控えているのは,法的紛争をあえて避けるなど様々な理由が推認されるところであり,また,本件商標に対する登録異議は,原告からの使用の差止めを求められたメーカーによって申し立てられた経緯を考慮するならば,「ほっとレモン」との文字を輪郭線で囲んだ形状の商標を使用している他の飲料メーカーが存在しないことが,本件における判断を直ちに左右するものではない。」(23頁)


と、これまた一蹴。

元々商標そのものの自他識別力が非常に弱かったことが招いた結論とはいえ、よく教科書的に言われる「類似品排除のための努力」*2は、決して商標の識別力獲得のための十分条件ではない、ということを教えてくれる、という意味で、この部分についても意義は認められるのではないかと思う。

・・・ということで、今後、この事例が各種セミナー等でどう料理されることになるのか、期待を込めつつ、このエントリーの結びとすることにしたい。

*1:第1部・飯村敏明裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130829114918.pdf

*2:本判決の中では、アシードHDに対する「ほっとレモン」表示の中止要請、ダイドードリンコとの「商品名として使用しないとの合意」さらに、サントリーHDへの警告、といった取り組みが認定されている(18頁)。

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