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新聞に軽減税率を適用すべきでない論理的根拠

日本新聞協会会長の諮問を受けて発足した「新聞の公共性に関する研究会」が5日、消費税率引き上げに際して新聞に軽減税率が適用されるべきだとする意見書を発表したと報じられています。

 どう思いますか?

 マスコミは「マスゴミ」だとまで言われる新聞社。

 もっとも、私は、そのような言い方が大嫌い。というのも、「マスゴミ」とレッテルを貼ってしまうと、それ以上の議論ができなくなってしまうからなのです。いってみれば、気に入らない意見をいう人々に「非国民」とレッテルを貼るのと同じようなもの。或いは、「○○原理主義者」と呼ぶようなことと似たようなものであるからです。

 つまりそうやって、気に入らない意見を封じ込めてしまう。だから、マスゴミなどという言葉を連発するような輩は好きになれないのです。

 しかし、そうは言っても、最近の新聞社がどれだけ尊敬に値するかと言えば‥はなはだ疑問に思うことも多いのです。

 ところで、日本新聞協会の会長って、誰なのかと思って調べてみると‥なんと読売新聞グループ本社の白石社長が務めているのだとか。

 読売新聞も筋金入りですね。まあ、自分たちの信じるところを報道するのが新聞社の務めであり、そして、その新聞社が、軽減税率を自分たちに適用することが望ましいと思うのであれば、そうした意見を表明するのももちろん自由。

 しかし、では、何を根拠に、新聞には軽減税率を適用すべきだと考えるのでしょうか?

 この研究会の意見書には次のようなことが書かれているのだとか。

・新聞は日本の誇るべき文化の維持と民主主義の健全な機能にとって不可欠

・(新聞は)衣食住に次ぐ必需品

・憲法21条にある表現の自由の保障の側面からも新聞は重要

・現行の法制度で、新聞には再販制度や第3種郵便制度などの優遇措置が適用されているが、この法体系と新聞に軽減税率を導入することは整合性を持つ

 どう思いますか?

 私は、新聞が、我々が社会生活を送る上での重要な情報を提供してくれている事実は否定しません。新聞の貢献度は大きいというべきでしょう。

 しかし、その新聞が報じる情報に全くバイアスがかかっていないかと言えば、そんなことはあり得ません。それが現実。

 では、新聞社は、バイアスのかからない情報の提供に徹するべきなのか?

 もちろん、そうした努力をするのは必要でしょう。しかし、そんなことをどうやったら実現できるでしょうか? それは無理なのです。というのも、バイアスのかかっていない中立的な情報であると、誰が一体判断できるかと言えば‥誰も判断できないからなのです。

 だから、そもそも新聞が中立の立場で客観的な事実しか報じないなんて考えること自体が間違っているのです。

 しかし、繰り返しになりますが‥そうして大いにバイアスのかかった情報が混在していたとしても、新聞が果たしている役割は決して小さくはない。

 では、そのことから、即、新聞には軽減是率を適用すべきだという結論になるのでしょうか?

 答えは、全くその反対。

 そもそも、この研究会は、新聞は衣食住に次ぐ必需品だと言っている訳ですが、衣食住には当然消費税が適用される。だったら、新聞にだって当たり前の消費税が適用されて当然ではないですか。

 この研究会は、憲法21条の表現の自由の保障の観点からも新聞に軽減税率を適用することが適当だと言いますが、それは全くの間違いなのです。

 憲法21条は最大限に尊重されるべきであるというのはそのとおり。新聞が誰かの意向を気にして真実を伝えないようなことがあっては決していけない。しかし、だからと言って、何故軽減税率を適用すべきだという結論になるのでしょう?

 新聞代が高くなると、新聞を購読できなくなる人が増えるから?

 でも、経済的理由で新聞を読むことができなくなる人が増えたとしても、そのことと表現の自由は関係ないのではないでしょうか?

 それに、新聞を取っているからといって、どれだけの人が新聞を詳細に読んでいると言えるのでしょうか? 多くの人は、新聞よりもテレビなどでいち早く事件や事故などを知ることが多いのではないのでしょうか?

 というよりも、この研究会のメンバーは憲法89条の意味を全く無視してしまっている。

 憲法89条

 「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」

 この規定が、直接関係するというのではありません。しかし、この規定の意味を先ず考えてみて下さい。

 何故、政府は、宗教上の組織や公の支配に属しない慈善や教育等の事業にお金を支出してはいけないことにしているのか?

 それは、政府が資金を提供することによって、そうした組織の自由な活動を阻害してはいけないと考えたからなのです。お金を支給してもらえば、必ずお金を出してくれる人のことを考えてしまう、と。だから、例えば真理を追究する筈のそうした団体が政府からお金をもらうことは好ましくないと判断したのです。

 ところで、新聞社は、そうした慈善、教育若しくは博愛の事業を行っているわけではありません。しかし、真実を報じるという社会的に極めて重要な役割を担っている訳ですから、同じように、なるだけ政府からは経済的な支援を受けるべきではないことは当然であるのです。

 政府から様々な支援を得れば、どうしても新聞社は政府の意向を配慮するようになる、と。

 そして、政府の側としては、少しでも自分たちの意向に沿って世論が形成されるようにしたいので、新聞社に対してサービスをしたくなる。或いは、様々な専門家を集めた委員会のメンバーにも新聞社の人間を呼んでみる。

 どの役所でも、記者たちのために専用の机と電話などを提供している事実をご存知でしょうか?

 全く使用料を払うことなく、或いは格安の料金で記者たちは、そうした施設を使用しているのです。どう思いますか?

 そこまで細かいことを言う必要はない?

 そうかもしれませんが、そうでないかもしれません。

 但し、新聞記者の立場からすれば、余りに役所に対して潔癖な態度を取るならば、貴重な情報を自分だけが知ることができない羽目に陥ってしまうでしょう。だから、口では格好いいことを言ってはみても、実際に記事を書く立場の記者は、情報を教えてくれる役所側とズブズブの関係になることもあるのです。

 しかし、だからと言って、新聞社自体が政府とズブズブの関係になってしまえば、真実が報じられる筈がないではないですか? つまり、民主主義を育てる筈の新聞が、却って逆の方向に作用してしまう、と。

 もう一度憲法89条の意味を考えてみて下さい。

 やっぱりおかしいでしょう? 新聞社が、自分たちだけが軽減税率の適用を受けるなんて。軽減税率の適用を受けるということは、一旦納めた税金の一部が還付されたのと同じことになるのです。つまり、政府から公金が支出されるのと同じような意味になるのです。

 そのようなことを認めて、どうして新聞社が、政府に都合の悪い、しかし、真実の情報を国民に伝えることを期待できるのでしょうか。

 今、役所側から記者クラブに対して無償或いは極めて低額で提供されている記者室の見直しさえ必要であると思われるのに‥さらに新聞を軽減税率の対象にしろだなんて、私にはどう考えても正常な考え方とは思えません。

 新聞の軽減税率は、新聞を購読する人が支払う税金が安くなるだけで、新聞社の負担には関係がないと、仮に言うのであれば、それなら国民から新聞は軽減税率の対処にするべきだという声が出るまで待つべきではないでしょうか。

 海外では、新聞に軽減税率が適用されているからという議論も聞かれますが、そうした国々では権力者たちが、自分たちの都合の良いように世論を誘導するために軽減税率を適用しているだけのことだと思うのです。つまり、軽減税率を適用しているような国はむしろ民主国家としては未熟だと考えるべきなのです。

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