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【読書感想】風に吹かれて

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風に吹かれて

内容紹介

宮崎駿、高畑勲という二人の天才を支え続けてきた、 スタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫のすべて。 インタビュアー、渋谷陽一が名プロデューサーの足跡を辿り、その思想に迫る。 「鈴木敏夫は、アニメの神様がこの世に送った使者だ」――渋谷陽一。 名古屋で過ごした少年時代から、学生運動に揺れた大学時代、 『アニメージュ』の編集長として二足の草鞋を履きながら、 「風の谷のナウシカ」などを完成させる徳間時代、 プロデューサーとして、日本映画の記録を塗り替えたジブリ時代、そして現在――。 「風立ちぬ」公開を直前にして、ジブリを、そして自分自身を語り尽くした8時間のインタビュー。 あわせて、「アリエッティ」「コクリコ坂」などの公開前インタビュー6本を収録。 鈴木敏夫の世界観、ジブリ映画の制作秘話、スタジオジブリのこれからを伝えるファン待望の一冊。


これは面白かった。

僕はインタビュー本や対談集がけっこう好きで、かなり読んでいるのですが、そのなかで少なくとも5本の指には入るのではないかと思います。

インタビュアーの渋谷陽一さんが、鈴木さんに対して「あなたは○○なんだ、認めなさいよ」っていうような、決めつけを連発するのが、読んでいて「ちょっと出しゃばり過ぎなのでは……」と気になったのです。

ただ、鈴木敏夫さんという人は、すごく話が面白いのだけど、ちょっと「話を盛る(大げさに話す)」傾向があるらしいので、おとなしく「ハイ」と聞いているだけのインタビュアーよりも、こういう「毒をもって毒を制す」感じで、鈴木さんばかりが喋るのではないインタビューのほうが、バランスがとれるのかもしれませんね。

 宮崎駿も高畑勲も、鈴木敏夫が居てこそ作品が作れる、ジブリは鈴木敏夫が居てこそのジブリなのだ、と言う人は多い。僕もそう言ったりする。しかし、実際のところ鈴木敏夫が何をしているのか、それは他の人をもって替える事は不可能なのか、それを正確に言える人はいないのではないか。プロデューサーなのだからお金を集めて来るのが役目だ。それだけが鈴木敏夫の仕事だとするなら、優秀な企画マンが居ればジブリは大丈夫なのか? それも違うだろう。では鈴木敏夫は何をやっているのか。鈴木敏夫とは何者なのか。その疑問に鈴木敏夫自らが答えるのがこの本だ。



それにしても、鈴木敏夫さんの話は滅法面白い。

宮崎駿、高畑勲というふたりの天才のことを、「人間」としてこんなに率直に語れるのは、長年一緒に闘ってきた鈴木さんだけではないか、と思うんですよ。

日本を代表する映画監督である宮崎駿という人は、ある意味「聖域」と化していて、「宮崎駿のくせに、こんな左翼的な発言をしやがって!」なんてネットで叩かれることもあるのですが、この本を読んでいると、「宮崎駿はずっと昔から、そういう思想を持っていた人であり、ビッグネームになってもブレていないだけ」だということがよくわかります。

鈴木さんも、「学生運動の広報部長」がそのまま年を重ねてしまったような、そんな雰囲気があるんですよね。


鈴木さんは、徳間書店の『アサヒ芸能』での編集者時代のことを振り返って、こんな話をされています。

「ついでにいっちゃうと当時、無差別殺人ってあってね。三菱重工爆破事件で”狼夫婦”っていうのが捕まって、それで、ほとんどの週刊誌が、この夫婦がどういう夫婦であったかなんてバカな記事をやるんだろうと思ったから、その無差別殺人で被害に遭った遺族たちの話をやろうと思ったんですよ。というのは、新聞を読むでしょう。そうするとみんな遺族の方たちが『(犯人が逮捕されて)これで息子も浮かばれる』、『これでお父さんも天国へ行ける』ってそんな記事ばっかりなんですよ。それが気になったんですね。それでその新聞を持って一人一人回ってみたんですよ。『こんなこと言ったんですか?』って。誰もいっていないんですよ。記者に『これで浮かばれますね』っていわれて『はあ、まあ』っていったら、『浮かばれます』になっちゃう、っていうことなんですよ。これいったいどういうことなのかを書きたくなってね。で、その中のある人が教えてくれたんですけれどね、『(これで息子さんも浮かばれますね)といってきた記者に対してあなたはどう思いましたか』って聞いたら『腹が立つ。本当に頭に来た。むちゃくちゃですよ。だけどもっと腹が立ったことがある。三菱重工爆破の一日か二日後、全銀行が押し寄せました。<補償金が入ったらぜひうちの銀行へ>って』というのを全部記事にしたんですよ。これは、自分としても面白い記事ができたと思いますね」


――鈴木さんは、要するに、建前ではない現実に迫りたくてしょうがないんですね。


「ああ、そういうことができるんだ、ということが分かったんですね。それが面白かったんですね。でも、そのころ、デスクにいわれるんですよ。『君の記事は社会性があり過ぎる』って」



鈴木敏夫という人自身も、ある種の「行動する思想家」だったのです。

ジブリの作品が「きれいごと」だけで終わっていないのは、こういう人たちが作っているから、なのですよね。

週刊誌の記事として書いたら、読み捨てられるようなものでも、宮崎駿監督の手でアニメーション映画になれば幅広い人に伝わる、という快感もあったのではないでしょうか。


それにしても、困った人たちなんですよ、この宮崎駿、高畑勲の「天才コンビ」。

不世出のアニメーション制作者であるけれど、作品に妥協は許さず、他人に任せる、ということがなかなかできない「天才」宮崎駿。

天才的なプロデューサーであり、監督なのだけれども、偏屈で話が長く、自分の監督作品となると妥協できずに締め切りを守れなくなる高畑勲。

とにかく、めんどくさい人たちなんです。

「天才」であることはまちがいなんだけど。

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