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「安保理決議違反」と指摘された北朝鮮船の中身

7月に中米パナマで拿捕された北朝鮮貨物船から旧ソ連製戦闘機ミグ21や防空ミサイル・システムのレーダーが見つかった問題で、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)と米国の北朝鮮研究グループ「38 North」がこのほど北朝鮮船の積み荷の全容と分析結果を公表した。

SIPRI違法取引対策メカニズム・アセスメント・プロジェクトの責任者Hugh Griffiths氏の了解を得て、その内容を紹介する。出荷元のキューバ政府は「修理のため北朝鮮に移送中の武器だった」と説明していたが、Griffiths氏は報告書で「北朝鮮が自国防衛のために使う意図が見受けられる」と強調している。

国連安全保障理事会の専門家パネルは8月下旬に、「北朝鮮船に積まれていたキューバの武器が安保理決議の武器禁輸措置に違反していたことは明白」と指摘している。

Griffiths氏らの報告に基づいてパナマ当局に拿捕された北朝鮮船の中身をみていこう。

(1)ミグ21の機体2機分とジェットエンジン15基


タイヤの上に置かれたミグ21の機体(SIPRI、38 North提供)

北朝鮮船から見つかったミグ21用ジェットエンジン15基はコンテナの底から50センチ浮かして固定するなど、注意深く積み込まれていた。これに対してミグ21の機体2機分は下にタイヤが敷かれているだけで海が荒れた場合、損傷する危険性があった。

こうした状況から、Griffiths氏らは「北朝鮮で配備済みのミグ21のジェットエンジンの取り換えが主目的で、機体は分解して老朽化したり損傷したりした箇所の修理に使うつもりだったのだろう」と分析している。

北朝鮮は1999年にカザフスタンからミグ21を40機輸入したと報じられた。2011年にはジェットエンジンなどを入手するためモンゴルからミグ21を20機輸入しようと試みたことがあった。12年に発表された国連専門家パネルの報告書によると、ある国連加盟国が09年ごろ、北朝鮮に流れることを懸念して退役した戦闘機32機の売却を中止したという。

ミグ21の機体とジェットエンジンは「北朝鮮で修理してキューバに送り返す」ものでなく、北朝鮮の防空力強化が目的だった可能性が極めて強くなっている。

(2)金正恩・第1書記がミグ21にこだわる理由

ミグ21は1950年代に旧ソ連に開発された時代遅れの戦闘機だが、これまでに何度もグレードアップされている。最高速度マッハ2で飛行し、スピードでは韓国の戦闘機KF-16に引けをとらない。

最新装備を備えた米韓日の戦闘機との空中戦はともかく、奇襲や地上攻撃には十分使えるスピードと運動性能を持っている。


コンテナの中から見つかった通常兵器の砲弾(SIPRI、38 North提供)

北朝鮮人民軍のYi Pyong Chol空軍司令官は2011年に故金正日総書記とともにロシアを訪問、メドベージェフ露大統領(当時)に戦闘機売却を要請したと報じられたほか、度々、北朝鮮とつながりの深い武器輸出国を訪問している。

同空軍司令官は今年7月にキューバを訪れ、同国元首のラウル・カストロ国家評議会議長と面会した一行にも加わっていた。

金正恩第1書記が北朝鮮人民軍の空軍を重視しているのは明らかで、同空軍司令官とともに頻繁に北朝鮮人民軍の空軍や空軍基地を訪れている写真が公開されている。

(3)秘密の船底


暗視装置(SIPRI、38 North提供)

問題の北朝鮮船に積まれたコンテナ25個の中から6台の軍事車両、小火器、弾薬、対戦車砲、榴弾砲、発電機、バッテリー、暗視装置が見つかった。

ミグ21の機体やジェットエンジンも含め、こうした武器密輸用のコンテナは秘密の船底に隠されていた。その上にはカムフラージュのため砂糖20万袋がばら積みされていた。

北朝鮮はこうした違法な武器取引のため、ばら積み貨物船とコンテナ貨物船を使っているとみられている。2002年には、イエメン向けの弾道ミサイル・スカッド15発を北朝鮮のばら積み貨物船が移送しているところをスペイン海軍に発見されている。

Griffiths氏は筆者の電話取材に「北朝鮮が通常兵器やミサイル技術、軍事にも民生にも使用できる物資のヤミ取引をどれぐらいの規模で行っているのかわからない。また、北朝鮮とこうした取引を行っている国々の全容もヤミの中だ」と指摘した。


携帯型対戦車ロケット弾(SIPRI、38 North提供)

この事件は、パナマのマルティネリ大統領が7月15日、キューバを出港してパナマ運河を通過しようとした北朝鮮籍船から未申告の「軍事物資」が見つかったとして、Twitterで写真を公表した。

軍事物資は「RSN-75」「SNR-75」(ファンソング)と呼ばれる旧ソ連製の地対空ミサイル・システム用迎撃レーダーだった。このため、パナマ当局や国連専門家パネルが積み荷を調べていた。

北朝鮮船は5月31日~6月1日、太平洋側からパナマ運河を通過してキューバ・ハバナを目指していた。7月11日にパナマのマンサニージョ港(太平洋側)に現れ、翌12日にパナマ当局の査察を受けた。


船底の下に作られたコンテナの隠し場所(SIPRI、38 North提供)

安保理決議に違反するのを覚悟の上で、金正恩第1書記がミグ21の機体やジェットエンジン、迎撃レーダーを密輸しようとしたのは、防空システムの強化する狙いがあったようだ。

北朝鮮が武器輸入の軍資金をどのようにしてつくったのかはわからない。金正恩第1書記は韓国の朴槿恵大統領との「南北対話」に転じたように装いながら、水面下では軍備増強を図っているのは間違いない。(おわり)

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