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新たな支援制度の実態とは――生活困窮者自立支援法の問題点 - 大西連

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7月21日の参議院議員選挙は、自民・公明両党の圧勝となった。今後の社会保障をめぐる議論においても、与党の「意向」が強く反映され、進められていくことは間違いない。

政府は選挙前の6月に閣議決定した「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」において、『聖域とはせず、見直しに取り組む』と、今後の社会保障の削減を明言している(*1)。

また、社会保障制度改革国民会議においても、
(1)「自助を基本としつつ、自助の共同化としての共助(=社会保険制度)が自助を支え、自助・共助で対応できない場合に公的扶助等の公助が補完する仕組み」が基本
(2)政策効果を最小の費用で実施できるよう、同時に徹底した給付の重点化、効率化が必要
などが基本的な考え方として提言されている。

ここでの議論は、年金や医療、介護などの「社会保険」に関するものが中心だが、全体として「財源的な持続可能性」という基軸の下で語られている(報告書自体はそれぞれ非常に読みごたえのあるものになっているので、ぜひ目を通してもらいたい(*2))。

もちろん「財源的な持続可能性」の話はとても重要だ。それなしに議論することはできない。しかし一方で、「財源的な持続可能性」によって重点化・効率化されるそれぞれの制度は、現在進行形で人々の生活を支える大切なセーフティネットになっていることも事実だ。

「削減」や「見直し」ありきに見える議論は、「いのちの持続可能性」についての発想や理念が軽視されているようにも思える。

実際に、生活保護については8月から給付基準額が一部引き下げられた。世帯構成や地域によって金額は異なるが、数百円から場合によっては数千円のカットが始まり、すでに215万人の生活保護利用者の生活を「削減」している。

生活保護の「引き下げ」は何をもたらすのか http://synodos.jp/welfare/743

このように社会保障全体が、現在、全方位的に「削減」の波にさらされている。そういった文脈をふまえた上で、本題に入っていきたい。

(*1)経済財政運営と改革の基本方針 http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2013/2013_basicpolicies.pdf
(*2)社会保障制度改革国民会議 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/


新しい支援制度は生活保護の改悪と両輪


さきの国会で政府与党は「生活保護法改正法案」と新法である「生活困窮者自立支援法」の両法案を重要法案と位置づけ、その成立を目指した。5月17日に閣議決定されると、すぐさま衆院で可決。しかし、参院では審議が長引き、国会閉幕の6月26日、結果として時間切れ廃案となった。

この両法案は民主党時代に「生活支援戦略」と呼ばれていた、生活困窮者支援の体系化をおこなうための議論の文脈を引き継いでいる。生活支援戦略は、「生活保護の見直し」と、生活保護の手前に「新たな支援制度」をつくることを両輪として設計されていた。 「生活支援戦略に関する主な論点(案)」における「生活保護の適正化」についての私見 http://synodos.jp/welfare/1449
動き始めた「生活支援戦略」をひも解く http://synodos.jp/society/379

つまり、ここでいう「新たな支援制度」は、まったく新しいところから作る(メニューを増やす)支援制度ではなく、結果的にしろ、生活保護の役割を圧縮することを「前提」とした制度であると考えることができる。

そして、両法案は自公政権に引き継がれ、ここでも「セット」として国会に提出された。
生活保護法改正法案に関しては、その内容のひどさもあって批判や議論を呼び起こした。 生活保護法改正法案、その問題点 http://synodos.jp/welfare/3984

しかし、もう一方の生活困窮者自立支援法に関しては、これまでメディアもふくめて、あまり積極的にその内容が検証されることはなかった。

また、「新しい支援制度」ということからくる期待や、生活保護法改正法案とセットであることの意味、提起されている制度の内容をよく知らないままに、比較的ポジティブな印象で受け取られる場合も多い。

政府は秋の国会に両法案を再度国会に提出すると明言している。生活困窮者自立支援法は、そもそもどんな制度で、一体何が問題なのか。成立するとどんなことがおこるのか。本稿では、あまり語られていない「生活困窮者自立支援法」について考えていきたい。

生活困窮者自立支援法では、さまざまな事業が提案されている。法案自体は23条からなるシンプルなもので、経済的に困窮し、最低限度の生活を維持できなくなるおそれがある方を対象とし、その自立支援をおこなうための施策を整備するとしている(*3)。

(*3)生活困窮者自立支援法 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/183-49.pdf

以下に各事業を一つひとつみていきたい。

■自立相談支援事業(必須事業)
いわゆる総合相談窓口。この法案の最大の事業である。福祉事務所の手前のフィルターとして「ワンストップ」で相談を受け付ける。相談後は支援プランを作成し、「よりそい型」「伴走型」の支援をおこない、必要な他の各事業につないでいく。民間委託も可能。必須事業であり、すべての自治体に設置される。

■住居確保給付金(必須事業)
現在の「住宅手当」を継承。離職後2年以内の方を対象に、就職のために最大9ヶ月程度の家賃補助をおこなう。必須事業であり、すべての自治体でおこなわれる。

■就労準備支援事業(任意事業)
ただちに雇用に結び付くのが難しい生活困窮者に対して、一般就労に従事する準備として、日常生活自立、社会生活自立、就労自立の各段階に合わせた事業を有期でおこなう。具体的には生活習慣形成のための指導・訓練や、社会的能力の習得、就労体験や、職業訓練等が想定されている。

■中間的就労(都道府県知事が認定)
すぐさま就労に結び付かない方、就労の訓練等が必要な方、一般就労が難しい方に対して、就労の機会の提供や訓練等を行う場を提供する事業について都道府県が認定をおこなう仕組みを作る。中間的就労はまだ未確定の部分が多いが、ボランティアワークやトライアル雇用などが盛り込まれるとも言われている。福祉的労働、実際の雇用との整合性や、実質的に「労働」でも最低賃金を割ってしまうのではないか、など問題が多い。

■一時生活支援事業(任意事業)
住居のない生活困窮者に対して、一定期間(3カ月を想定)に限り、宿泊場所や食事などを提供する。

■家計相談支援事業(任意事業)
必要に応じて生活資金の貸付のあっせん、家計や支出への相談・指導をおこなう。金銭管理が入るかどうかは不透明。

■学習支援等子どもに対しての支援事業(任意事業)
生活困窮状態にある家庭の子どもなどに対して、学習支援などのプログラムをおこなう事業。その他、地域事情にあわせた取り組みを援助。

これらの各事業を、自立相談支援事業を中心に、パッケージとして生活困窮者に提供する。この法案に盛り込まれた内容は、非常に先駆的な取り組みの提案もあれば、多くの問題や危険性を抱えたものも含まれている。以下にいくつか検討したい。

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