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SDN(Software-Defined Networking)はネットワーキングの革新者になれるか?

最近、SDNという言葉をしばしば耳にするようになりました。SDNとはSoftware-Defined Networkingの略で、既存のインターネットのインフラストラクチャを「どう動かすか?」に関する新しい発想法を指します。

具体的にはネットワーク内にちらばったカタチで存在する、トラフィックを捌く際の処理判断(=以後、インテリジェンスと呼びます)を、これまでの、スイッチやルーターなどのネットワークに組み込まれたハードウェア中心から、ソフトウェアへシフトすることを意味します。

そう書いても何のことやらわからないと思うので、「イーライ・ザ・コンピュータ・ガイ」の説明の仕方、つまりコンピュータの歴史を遡ることで説明します。

昔、データはRAID(Redundant Array of Independent Disks)と呼ばれるデータ保存システムに保存されていました。そこではハードドライブにデータが保存されるのみならず、オペレーティング・システムやアクセス・コントロールなどの、「データの出し入れのしかた」に関する指示も、ひとつの箱が司っていました。もしそれが壊れたり、電源が落ちたら、データへのアクセスができなくなります。

これに対してSAN(Storage Area Network)という概念が登場しました。これはデータを保存する装置と、それを制御するメカニズムを分離するという発想です。データ・ストレージ・デバイスは従属的存在(つまりdumb)になり、ネットワーク上に存在するマネージメント・システムが、どこへデータが行くべきかを指示するようになったのです。

コンピュータのバーチャライゼーションでもSANと同じような発想が援用されました。そこでは個々のハードウェアの演算処理能力が「どこでその演算処理をやらせるか?」という判断から切り離されました。その判断をするオペレーティング・システムは、種類の異なるハードウェアの間を自由に動き回り、仕事を割り振ることが出来たのです。




データ・ストレージやバーチャライゼーションで起きた、これらのハードウェアとソフトウェアの分離が、いまネットワーキングの世界にもSDNを通じて訪れようとしています。

ネットワーキングの世界では、まだルーターやスイッチが使われていて、そのそれぞれにインテリジェンスが組み込まれています。個々の処理速度は速くなったけど、いまネットワーク全体を見た場合、データの転送の仕方そのものが、革命的に変わったわけではありません。今後、SDNが普及すれば、活用されていないハードウェアのアソビは少なくて済むようになるし、瞬時にネットワークの容量を動的に変えることも出来るようになります。その代わり、個々のネットワーク機器はdumbになってゆくのです。この点を、もう少し言葉を尽くして説明します。

【スピードの時代】
ドットコム・バブルの頃は、インターネットのインフラの、パイプのサイズだけが問題にされました。どれだけパイプが太いか? です。なぜなら、その当時はデータ・ファイルをネットワークで転送することに主眼が置かれていたからです。転送速度が主な関心事だったのです。

【QoSの時代】
次にYouTubeやSkypeが登場すると、リアルタイム・コミュニケーションが切断しないことへ関心が移ってゆきました。またビデオ通話の画像が乱れないよう、レイタンシーの向上が問題にされるようになりました。レイタンシーの向上とは、どれだけ遅延なく、安定的にパケット(=ここでは動画)を受け手に届けるか? が問題とされるようになったのです。そこでネットワーク機器にQoS(Quality of Service)という機能が実装されました。これはパケットにプライオリティー(優先順位)を与えることに他なりません。

【現在の難問】
最近ではスマホなどで動画を見ることが一般化しました。またビデオによるチャットも増えています。このようにQoSを必要とするトラフィックがものすごく増えたので、どのビデオのトラフィックが、別のビデオのトラフィックより重要か? というビデオ・トラフィック間での優先順位付けが、とても困難になってきています。また通信会社の立場からすれば、プレミアム価格を喜んで払ってくれる法人ユーザーのトラフィックも、そうでないトラフィックと同じに扱われている場合があります。また社会的に重要度の高いトラフィック(たとえば災害支援)を、他より優先することは容易ではありません。

SDNでは、トラフィックの優先経路を動的に決定することで、これらの問題を解決しようとしているのです。

そのために先ずやらないといけないことは、ネットワークをデータ・プレインとコントロール・プレインに分離することです。既存のスイッチやルーターはデータ・プレインに存在し、コントロール・プレインには、管理を司るサーバを置きます。その管理サーバが、それぞれのスイッチやルーターに指示出しをするわけです。ファイアウォールのようなソフトウェア機能も、現在はネットワーク・ハードウェアの中に組み込まれているバイが多いですが、将来、それはコントロール・プレインから管理されることもあると思います。

そしてコントロール・プレインのもう一段、高い階層にマネージメント・プレインを設け、ビジネスの観点からユーザーの使用感とそれに対して幾らのお金を支払う準備があるか? というトレードオフの管理を出来るようになることが究極の理想の姿です。

以上がSDNの考え方ですが、現在は未だそれは黎明期であり、零細な業者が好き勝手に自分のアプローチを追求している段階です。だから標準化されたソリューションのようなものは、未だありません。これはSDNの業者の中から、1社や2社は大成功する企業が現れるかもしれないけど、その他大勢は敗れ去ることを意味します。

またSDNはフル活用されていないネットワーク上のキャパシティをプーリングし、有効活用できるようになるので、昔のように闇雲にハードウェアをどんどん増やす事でキャパシティの増強を図る必要が減ることを意味します。これはシスコ、ジュニパー・ネットワークスをはじめとした、既存のネットワーク機器の会社にとって、ビジネスのパイが縮小することを意味する可能性も無いとは言い切れません。

SDN周辺の関連企業としてはBTIシステムズ、インチューン・ネットワークス、ニューエイジ・ネットワークス、ホットリンク、プレクシ、プラムグリッド、プラリバス、シンプリヴィティ、ピカ8など、数々のスタートアップがあり、その大半は未だ株式を公開していません。株式を公開している企業の中にはサイアン(ティッカーシンボル:CYNI)があります。

リンク先を見る

サイアンは「ブルー・プラネットSDN」というソフトウェアと、光学パケット・ハードウェア・プラットフォームを提供しています。同社の売上高は急増していますが、未だ赤字であり、しかも売上高の約半分がウインドストリーム(ティッカーシンボル:WIN)というクラウド・コンピューティング・サービスの会社に依存しています。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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