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元金貸しから見るドラマ半沢直樹

超絶おもしろさのドラマ半沢直樹だが、「銀行は所詮金貸しですよ」といった内容のセリフが出てきて、思わず、うんうん、うなずいてしまった。

もしかしたら、女性の視聴者なんかは、資金繰りに困るかわいそうな中小企業を、非情なバンカーではなく、なんとしてでも助けようとする半沢直樹がかっこいい、という見方をしているのかもしれないが、それはちょっと捉え方が違うのではないかと思う。

半沢直樹は主人公の最大の敵である常務と同様、種類は違えど、非情な部分を持ち合わせている。容赦をしない「倍返しだ!」といったセリフや、おかしな資金に融資金を使う企業には「即全額返済しろ」と迫ったりする。そこがリアルでおもしろいし、金融業としての本質をついているように思う。また敵である常務が「土下座なんかに何の意味もない」という言葉は優秀なバンカーである証だ。土下座なんかする暇あったら業績改善の手立てを考えろよと私でも思う。

私は銀行なんかではなく正真正銘の金貸し、大手サラ金A社で、不動産を担保に2年間で約10億円の融資を行った営業マンだった。私が働いていた1997年~1999年の頃は、銀行は金貸しとしてろくに機能していなかった時代だった。バブルの放漫融資、放漫投資のツケがすべて不良債権となり、金貸しとしての役割を放棄し、貸し渋り、貸し剥がしをしていたのではないか。

皮肉なことだが、この時代、サラ金がゴールデンタイムにばんばんテレビCMを流し、商工ローン会社が飛ぶ鳥を落とす勢いで成長したのも、銀行が金貸しとしての役割を十分に果たしていなかったことも一因だ。

ただ銀行とサラ金や商工ローン会社とでは、同じ金貸しだが決定的に大きな違いがある。それは銀行は未来も審査の対象になるが、サラ金や商工ローン会社は未来は審査の対象にしないということだ。

本当の意味でのバンカー、金貸しとしての銀行の社会的意義は、現状、業績があまり良くなかったとしても、未来に向けて好転できる材料がある企業や、今後の事業計画によって成長が見込めるような企業には金を貸すことだ。

ものすごく単純な区分けをすれば、半沢直樹は非情だけれども、今後の改善が見込める企業であれば、今はどんなに業績が悪くても融資するというスタイルであり、「敵」として出てくる銀行員は、リスクや責任をとりたくなく、今の業績がよくなかったらそれだけでノーを突きつけてしまう。だからこそ半沢直樹が恨んだり奔走したりするわけだ。

ただサラ金や商工ローン会社は金貸しだが銀行とは違う。未来は一切審査しない。大事なのは今、返せるかどうか。それに尽きる。

私がサラ金で融資担当をしていた時、借金まみれのある個人事業主は融資申し込みの際、将来はこんなに業績がよくなるといった、シミレーション的な表を持参した。金貸しとしてのサラ金をまったく知らなかった、22歳のペーペーの私は、これで融資の審査が通ると思い、嬉々として上司に書類を提出したのだが、将来シミュレーションの書類はまったく見ようとしなかった。

「なぜこの書類を見ないんですか?」と尋ねたら激怒された。「君はこの仕事のことを何もわかっていない!不確定な未来は審査しないんだよ!金貸しとしてのサラ金の常識だから!!」

未来はどうなるかわからない。どうなるかわからない未来、ましてや借金まみれで、金に苦しんでいる債務者が作った将来計画など、100万%、信じるに値しない、ただの紙くずに過ぎないのだ。そこが決定的に銀行と違う。

現状の返済能力しか審査しない。1カ月後に大きな取引先から何百万円の入金予定がある、なんて話も一切、信用しない。なぜなら本当に振り込まれるかわからないからだ。そんな非情なと思うかもしれないが、金が絡んだ時の人間の醜さ、おぞましさを知っていれば、このぐらいのことは当然のリスクヘッジだ。赤の他人に大金を貸すという商売がどれほどリスクに満ちあふれているか、自分が貸す立場になったらその慎重さが理解できるだろう。

私はサラ金の中でも最低でも500万円、平均で約1000万円、多い時には4000万~5000万円貸す、大型融資の部署にいた。不動産を担保にとるから、借金まみれの債務者でも、高金利で大金貸すことが可能なのだが、当時の審査は銀行以上にある意味、厳しかった。いくら不動産の担保評価があっても、毎月の返済能力がなければ審査が通らないのだ。

「ふざけんなよ。不動産担保ローンの意味ないじゃん。第一、銀行並みに、いや銀行以上に審査厳しくして、銀行の3~5倍もの金利で貸すなんて、誰に融資ができるんだよ!」と、よく審査部に対する愚痴をこぼしていた。融資の担当者は、融資した金額で査定が決まる。だから何が何でもお金を貸したい。しかし審査は厳しい、金利が高いのでは、客はどんどん逃げていく。

でも連帯保証人をつけるとあっさり審査が通り、融資ができる。借入本人の債務者が収入がなく、ろくでもない人間だったとしても、毎月給料が入ってくるサラリーマンか、年金収入のある親が連帯保証人に入れば、そこから着実に返済が見込めるので、融資ができるのだ。サラ金なんかより当時は商工ローン会社がひどくて、何人も連帯保証人とったりしていた。未来を審査しないといえばかっこいいが、単に連帯保証人をつけるという「人質」融資に過ぎなかった。

それでも資金繰りが行き詰まり、ろくに将来の改善計画など立てれない事業者などにとっては、融資してくれるだけで、神様仏様サラ金様といわんばかりに喜んでくれた。その先に地獄が待っていたとしても、一時チャンスを与えられるわけだから。

だから半沢直樹を見て銀行が金貸しだというセリフを聞いた時に思うのは、かわいそうな中小企業だから貸してあげちゃうというのは、本当の金貸しではないし、実は中小企業のためにもならない。別に自殺なんかする必要はない。資本主義とは素晴らしいことに、借金を踏み倒せる権利が与えられている。個人だけではない。企業も国家でさえも、破産、破綻しちまえば、借りたものを返さなくていいというとてつもない傲慢な権利がある。だから無理に金借りてさらに傷口を広げるより、破産してやり直した方がはるかに賢い選択肢だ。

そしてもう1つ、このドラマを見て思うこと。今の銀行は金貸しとしての役割をきちんと果たしているのだろうかということだ。

近年、銀行が力を入れているのは金貸しではなく、まがいものの金融商品を売って手数料稼ぎをすること。投資効率が悪く手数料がバカ高い投資信託などがその筆頭だ。もはやバンカーではない。将来不安、年金不安を煽って、客が損をしようが、自分たちが手数料でボロ儲けするためだけに、まがいものの商品を売りまくる、投資詐欺話と変わりないことを平然としている。

試しに聞いてみたらいい。「そんなに素晴らしい金融商品なら、あなたも投資しているんですか?」と。投資するわけなんかない。だってコストが高いし、儲かる見込みがないからだ。

また大企業が内部留保をためこんでよく問題になるが、それは銀行がいざという時、役に立たないという危機意識があることも理由の一つだ。企業の業績が悪くなくても、金融危機のようなことが起これば、銀行が融資をしなくなるかもしれない。一時的な業績悪化にしか過ぎないとしても、銀行はそれを機に貸しはがしにかかってくるのではないかという恐怖感がある。だから大企業は内部留保をためこむ。肝心な時に銀行が金貸しとして機能しない恐れがあるからだ。

銀行とは社会でどんな役割を担うべきなのか、金貸しとしての銀行とは何なのか、かわいそうだから融資すればいいのかとか、そんな観点からドラマ半沢直樹を見ると、よりおもしろいと思う。

今日も倍返しだ!

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