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対シリア武力行使と「保護する責任」

英仏米をはじめ国際社会が、シリアの化学兵器使用を理由に、国連憲章2条4項で定められた主権国家の(1)内政不干渉、(2)武力不行使、(3)領土不可侵を超えて介入(intervention)する根拠としては、本ブログでも何度か取り上げている「保護する責任」が挙げられる。
このこと関しては、フランスのオランド大統領が8月27日、各国の駐フランス大使を前に演説し、化学兵器使用者に対して「適切な対応をとることがわれわれの責任だ」と述べている。
また、ホワイトハウスのカーニー報道官は同日、記者会見で、化学兵器使用について「なに内も対応しなければ国際基準が崩壊する」とまで言及している。
この2人の発言は、今日の国際秩序を守るためには、化学兵器使用による市民の殺害という行為に対して毅然とした対応をとるという意思を示したものだと言える。
ロシアも中国も、この点に関しては意義を挟むことができないだろう。
以下では、その国際介入の正当性について、5つの観点から検証してみる。

1.介入行動の国際法的根拠
国際社会には1993年1月に署名され、97年4月に発効した化学兵器禁止条約が存在する。同条約には2012年12月で188カ国が締約しており、国際行動規範として定着していると言える。
ただし、シリアはエジプトとならんで未署名である(中東地域ではこの他にイラク、イスラエルが未締結である)。したがって、シリアには同条約を順守する義務はなく、この点では正当性が不十分との見方もできる。
例えば、イラクやリビアへの武力介入では、国連安保理決議に基づくものである。一方、1999年のユーゴスラビアへのNATOによる空爆は安保理決議がないまま実施された。
現在のところ、国際社会は英国を中心に安保理での決議採択に向けた努力を行っている。また、安保理での採択がロシア、中国などの反対により否決されることが考えられるため国連総会での採択(強制力はない)により正当性を得ることも検討されている。
米国をはじめ関係国の国民世論を考慮すると、なんらかの国際承認が必要だろう。

2.シリアの周辺国の賛同

アラブ連盟(21か国、1機構)は27日、カイロで緊急会合を開催し、「シリア政府に責任がある」として「国際社会はシリアでの人道的悲劇を止めるため厳しい姿勢で臨むべき」との声明を発出している。
ただし、同声明にはシリアの隣国であるレバノンとイラクは賛同していない(なお、アルジェリアも賛同していない。また、シリア問題の調整役であるブラヒミ国連・アラブ連盟共同特別代表も国連決議が必用と述べている)。
つまり、シリアの隣国である5カ国の態度は分裂しており、ヨルダンおよび非アラブのイスラエルとトルコが英仏米と協調行動をとっており、レバノン、イラクはこれとは異なる立場である。

3.介入は最後の手段か
オバマ大統領はシリアに対し「レッド・ライン」を超えるなという警告を行ってきた。仮に、化学兵器を使用したのがアサド政権であったとすると、この警告が無視されたことになる。
米国は8月25日の時点で(1)被害者の症状、(2)目撃者の証言、(3)国連による現地調査への要請にもかかわらず5日間も現場への砲撃を続けたこと(証拠隠蔽工作の可能性)を理由に、アサド政権が化学兵器を使用したと暫定的に判断していた。
その後、米国の外交専門誌「フォーリン・ポリシー」に27日、米国情報機関がシリア国防省高官と化学兵器担当司令官の会話を傍受できていたとの記事が掲載された。
オバマ政権は、また、関係国の情報機関の協力で得た情報も含めて情報資料の公開を行う方向である。
アサド政権が化学兵器使用者かどうかを検証し、そのことが確定すれば、国際社会は、警告にもかかわらずアサド政権が国際規範を守る意思がないと判断し、最終的に武力行使を政策選択することになる。

4.介入の目的と方法 イラクやリビアの事例から、英仏米は介入の目的をアサド政権の打倒においているとの見解を、ロシア、中国、イランは共有している(研究者の中にも同様の分析をしている者がいる)。

その理由として、(1)英仏米が国連の調査団の査察結果を待たずに武力行使を計画していること、(2)反体制勢力内がまとまらず、アサド政権が戦局を有利に動かそうとしている時期であることが挙げられる。
特に(2)については、最近、反体制勢力に加わっているイスラム過激派とクルド人との対立が深まり、イラクに大量の難民が出るなど、分裂状態が悪化している。
したがって、ロシア、中国、イランは、今回の軍事介入はリビアの時と同じく、シリア軍の主要軍事力をたたくことで反体制派を支援しようとしていると見ている。
こうした見方に対し、現在、報じられている介入方法は次のようなものであり、この点からすれば政権打倒を直接目指すものであるとは言い難い。
(1)攻撃目標は、化学兵器貯蔵施設を避け、それを運搬する部隊や兵器である(化学兵器貯蔵施設への攻撃は周辺住民に被害が出る恐れがあるため)。
(2)攻撃日数は2~3日であり、その方法は巡航ミサイル攻撃および爆撃機による空爆である(地上での大規模な部隊の展開はない。ただし限定的な特殊部隊の活動はある)。
仮に、こうした攻撃目標と方法で作戦が実施されるとすると、短期的には化学兵器の再使用の阻止という目的との整合性があると言える。
一方、空爆が長期化するなど過度になった場合は、介入目的と結果の整合性が著しく乏しくなってくる。
したがって、報じられている期間で作戦行動が停止されるかどうかが注目される。

5.介入後の適切な見通し
英仏米が軍事介入したとして、アサド政権もしくはその支援者の化学兵器使用を完全に阻止できるかといえば、その蓋然性は低い。
むしろ、アサド政権やその支援者側が「レッド・ライン」を超えたことへの懲罰的な介入だと受け止め、その懲罰に対する報復を行う可能性がある。その場合、報復をシリア国内ですぐには実施せず「時間をかけた報復」「国外での報復」を行うことも考えられる。
また、レバノンのヒズボラ勢力やイラン、さらにはロシアなどがアサド政権への支援を続ける限り、戦局の急激な変化はないだろう。
ただし、アサド政権側も英仏米および周辺の協調国に反撃する蓋然性はそう大きくないだろう。
したがって、短期間の攻撃作戦に留まるならば、英仏米は化学兵器使用への対応、市民の保護という規範を示すという目的は達成できるといえるだろう。

以上、見てきたように、現在、新興国の台頭などによりこれまでの国際秩序が崩壊しつつある中で、新たな規範をだれが、どうのように構築するかが難しい時代になっている。
例えば、「人権」や「民主主義」「大量破壊兵器拡散防止」などの価値にともなう国際協調の形成では、欧米と新興国の間で対立が見られている。
「レッド・ライン」という言葉はイランの核開発問題でも使われている。「レッド・ライン」をどこに引くのか、環境問題も含め様々な問題でグローバルガバナンスのあり方の再考が求められている。

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