記事

「消費」のために働くというライフスタイルを超えて -“幸せ”もたらす暮らし方 - 土堤内昭雄

先日、靴や鞄を扱う東京・表参道の高級ブランドショップに行った。素晴らしいデザインの靴が広々とした空間に並んでいる。靴の裏をみると、私のような中高年には拡大鏡がないと判読できないほど小さな数字で値段が書かれている。私が想定する靴の価格とは、どれもひと桁違っているようだ。

ひとりの女性客がソファにゆったり腰を下ろし、ひざまずく店員となにやら楽しそうに会話しながら靴選びをしていた。ここの靴一足の価格はとても高いが、お客は靴とともに、豪華な接客の雰囲気や特別な商品情報など、高い付加価値のついたサービスと満足感を購入しているのだろう。

消費行動はモノやサービスを手に入れるだけではなく、最も簡便に「承認欲求」を満たす方法でもある。特に欲しいものがなくても、人が買い物を好む理由のひとつだ。その意味において対面形式による消費行動への欲求は、たとえ欲しいモノやサービスがなくなっても消えることはないだろう。

さて、かつて消費は「家族消費」と言われるような、家族が共通して求めるモノやサービスに人気があった。今は「個人消費」が中心で、消費志向は多様で個別化している。そこでマーケティング業界は、消費行動をいくつかのセグメントに分け、それに“ライフスタイル”という名をつけて様々なモノとサービスを提供してきた。消費者が自分で選択したと思っているライフスタイルも、実はあるカテゴリーに分類された消費行動のパターンのひとつに過ぎないのかもしれない。

これまで人間の欲求を満たすのは「消費」が中心だと考えられてきた。そして欲しいモノやサービスを買うために人は働くと・・・。しかし、本当にそうだろうか。もっと自らが主体となるライフデザインはないのだろうか。「消費」というお金の“使い方”で欲求を満たすのではないライフスタイル、例えば、自然や地域と共生しながらゆったりと暮らすスローライフや、過剰な消費主義を捨てて、生きるペースを緩めた「ダウンシフター」(減速生活者) * *の暮らし方などである。

今、日本社会は過剰なほどモノやサービスが溢れている。ここで人間の根源的な欲求を満たすには、市場にデザインされた消費行動の類型に嵌め込まれながら「消費」のために働くという生き方ではなく、自分が選択した働き方そのものが満足の源泉となるような生き方が必要ではないだろうか。なぜなら、主体的に選択した働き方・生き方には、人間の“幸せ”につながる自己肯定感や達成感が内在しているからである。“「消費」のために働くというライフスタイル”を超えたところに、本当に豊かな時代の“幸せ”もたらす暮らし方があるように思う。

  「他人から認められたい」という感情
**高坂勝『減速して生きる~ダウンシフターズ』(幻冬舎、2010年)

あわせて読みたい

「消費」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    何をやっても批判される「老夫婦とロバ状態」の日本

    内藤忍

    08月02日 11:52

  2. 2

    コロナはインフルエンザ程度?インフルエンザで死ぬかと思った24歳の時の話

    かさこ

    08月01日 09:14

  3. 3

    コロナ軽視派「6月で感染者数減少」予想大ハズレも、重症者数が大事、死亡者数が大事とすり替え

    かさこ

    08月02日 10:29

  4. 4

    「幻の開会式プラン」を報じた週刊文春が五輪組織委の"圧力"に負けずに済んだワケ

    PRESIDENT Online

    08月02日 10:36

  5. 5

    新型コロナ感染者数が過去最多も 病院のひっ迫状況を強調するだけの尾身茂会長に苦言

    深谷隆司

    08月01日 17:19

  6. 6

    この1週間を凌げば、オリンピックが終わります。もうしばらく我慢しましょう

    早川忠孝

    08月02日 14:37

  7. 7

    日産の小さな高級車「ノート オーラ」に中高年の支持が集まる理由

    NEWSポストセブン

    08月02日 10:43

  8. 8

    男性視聴者の眼福になっても女子選手が「肌露出多めのユニフォーム」を支持する理由

    PRESIDENT Online

    08月02日 15:27

  9. 9

    五輪もパラリンピックも中止にするべきではない。強いメッセージは経済対策・法改正で出すのが筋

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    08月02日 08:25

  10. 10

    「日本人の給料はなぜ30年間上がっていないのか」すべての責任は日本銀行にある

    PRESIDENT Online

    08月01日 16:13

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。