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「はだしのげん」が反戦コンテンツとして弱い理由

松江市教育委員会による「はだしのげん」閉架問題の争点は、残酷描写を子供たちに見せても良いのか、という点にある。

 (一部に極右団体構成員の陳情を受けて、行政が判断を変えること自体を問題視する向きもあるが、ここでは措く。)

 見せてはいけない派の論拠は子供には刺激が強すぎるので、教育上望ましくないということで、同一線上には「エロマンガの表現規制」や「ゲームの暴力表現規制」があると思われる。

 一方、見せる派は戦争はそもそも残酷なものだから、戦争の悲惨さを伝達するためには閲覧規制は適切ではない、と説く。

核兵器の残虐を視覚化したマンガが教育上必要かどうかはわからないが、まず大前提として、それを同時代に直接・間接的に体験していない我々は骨身にしみて「わかる」ことはできない、という点を無視するわけにはいかない。

「はだしのげん」の表現する理不尽な暴力や差別に対する無垢な生命の抵抗は、「作品」としてよくできているし、現代に通じる教訓を得ることができるが、核兵器による過剰な暴力そのものを「わかる」ことはできない。

 言い方を変えれば、戦争の悲惨さを現代日本人は直接感じることはできないが、その理不尽な暴力をより一般化した形で知ることは出来る。

 例えば、当人に何の落ち度もない被爆者が家族からも疎まれ、近隣住人から迫害されるエピソードや正しいことをしているつもりでも、いつのまにかヤクザの鉄砲玉に仕立て上げられてしまうエピソードは、法や公衆衛生知識の不在といった現代社会の枠組み内で理解することができる。

そういった知識は無意味ではない。

残虐表現はただの残虐表現でそれを(当事者と同じように)感じることは出来ないが、知識は理解できる。

「はだしのげん」の残虐表現は、別に反戦思想を前提としているわけではなく、ただ写実的に表現しているだけだろう。それはそれで、是非もないが、惜しむらくはこのコンテンツが提示する知識が反戦のエンジンとしては弱いことだ。

 強いエンジンをもったコンテンツを挙げるとすれば、山本七平の「日本はなぜ敗れるのか」(角川oneテーマ21新書)や田中小実昌の「ポロポロ」(河出文庫)を数えることができる。

これらの本には残虐表現はないが、豊富な知識がある。

 例えば、船齢27年、最高時速5ノット半のスクラップ船に3000人の兵を押し込み、敵に制海権を完全に掌握された海域に放り込む。魚雷で吹き飛んでも、同じことを何度も何度も繰り返す、といった話(「日本は・・・」)や背嚢に岩塩を詰められ、鉄砲も飯盒もない状態で、延々敵中を行軍。汗で重くなった塩を捨てれば処刑。(「ポロポロ」)といった話が提示する知識は僕をとてもイヤな気分にさせる。

 僕をイヤな気分にさせるのは、戦争が内包する理不尽な行動の強制であり、肉体の破壊といった残虐さではない。

反戦思想をタダのイメージではなく、現代の我々の内奥によみがえらせるのは、残虐表現ではなく、知識だと思うが、やはり、視覚表現はインパクト強いんだよね~。

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