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「結論が決まっていること」について「結論ありきの議論」を目指す集中点検会合

「甘利経財相は20日、『浜田氏と本田氏からはちゃんと話を聞いてほしいと安倍晋三首相から話があった』と明かし、慎重論に気を配る姿勢を見せた」(21日付日本経済新聞「消費増税点検59人決まる 政府、慎重論に配慮 多数は賛成論」)

甘利経財相は政府が消費増税の影響を調べる集中点検会合に出席する有識者59人を決めたことについて、このように述べた。それにしても、「慎重論に気を配る姿勢」というのは随分と高飛車な表現を使ったものだ。

「内閣総理大臣(首相)を補佐する機関である内閣官房における役職の一つ。首相の相談役ともいえる役職であり、首相に対して直接意見を言ったり、助言を行う。首相により任命される役職であり、立場としては非常勤の国家公務員となる。」(「マネー辞典 m‐Word 」より転載)

これは「内閣官房参与」に関する解説である。「内閣官房参与」は、「首相により任命」され、「首相に対して直接意見を言ったり、助言を行う」立場にある。そうした立場にある浜田氏と本田氏から「ちゃんと話を聞く」は当然のこと。浜田氏と本田氏から「ちゃんと話を聞く」ことは、両氏が消費増税の反対派だろうが賛成派であろうが関係ないはずである。

それにもかかわらず、わざわざ両氏の名前を挙げたのは、11人いる内閣官房参与のうち、集中点検会合の出席者に名を連ねたのが両氏だけだという事情からかもしれない。「国際金融」を担当する内閣官房参与である両氏が出席するのに、「財政経済・社会保障」を担当する丹呉泰健氏は会合に出席しない。元財務省主計局長・元財務事務次官で消費増税賛成派である「財政経済・社会保障」担当の内閣官房参与を集中点検会合のメンバーから外し、慎重派の「国際金融」担当の両内閣官房参与を出席メンバーに加えたことが「慎重論に気を配る姿勢」ということのようだ。

「ただ、人数でみると賛成派が多い。増税による景気悪化を防ぐ対策に議論の重点を置く可能性もある」

日本経済新聞のこうした報道をみると、消費増税賛成派の筋書きは、消費増税の影響を調べる集中点検会合の出席者の顔触れにおいては「慎重論に気を配る姿勢」は見せ、「結論づけるべきではない」(甘利経財相)という姿勢を演出しつつも、「立場が不明な人も20人ほどいるが、数の上では賛成派が慎重派を上回るのはほぼ確実」な状況は堅持し、消費増税を既定路線として、あくまで「増税による景気悪化を防ぐ対策」を議論する場に持ち込むというもののようだ。

集中点検会合の出席者の顔触れは「賛成派が慎重派を上回るのはほぼ確実」な状況であるが、世論は「慎重派が賛成派を大きく上回る」状況になっている。

日本テレビがこの週末(8/16~18)に実施した世論調査では、消費税を予定通りに引上げることに賛成との答えが37.9%であったのに対して、反対は54.9%であった。また、産経新聞とFNNの合同世論調査でも、消費税の予定通り引上げに対して賛成が38.1%であったのに対して反対は57.4%と、ほぼ同様の結果が示されている。

集中点検会合の出席者が決定した20日、7月の全国百貨店売上高と全国のコンビニエンスストアの既存店売上高が発表された。百貨店売り上げは「日曜日が1日少なく、セール開始日を6月末に前倒しする百貨店が増えたことが響いた」ことで、前年同月比▲2.5%と3カ月ぶりのマイナスに転じ、コンビニエンスストアの既存店売上は「(月後半の)東日本などの天候不順が響いて」前年同月比▲0.8%と、こちらは2ヶ月ぶりのマイナスとなった。

日本経済新聞は「高額品は依然として好調で、美術・宝飾・貴金属は14.2%増と11カ月連続でプラスを維持した」との解説を加え、「消費は堅調」という印象を与えるよう報じているが、一方で「衣料品が振るわず、婦人服・洋品が7.5%減、紳士服・洋品が7.6%減」となっており、アベノミクスによる資産効果は残っているものの、消費の広がりは限定的になっていることが明らかになっている。

日本経済は、一見「消費主導の景気回復」を見せているが、その内実は、「セールの前倒し」や「月後半の天候不順」で直ぐにマイナスに落ち込んでしまうような「ガラス細工の景気回復」になっており、とても来年4月からの消費増税に耐えられるような状況にない。

日本で消費増税議論が佳境を迎える中、ドイツ連銀(中央銀行)が、8月の月報で4頁に及ぶアベノミクスの特集を組み、日本の経済政策「アベノミクス」による景気押し上げ効果は「わらに付いた火」のように、短期間で消え去るとの批判的な分析を示したことが話題になっている。ドイツ連銀はその理由として「景気刺激策が将来の需要を先取りしていることや、刺激策終了が14年4月に予定される消費税引き上げと重なり、マイナス効果が増幅する」ことなどを挙げている。

「財政健全化よりも経済成長を優先する」ことを確認した7月のモスクワG20で、日本と米国に「中期的な財政目標と日米両国に以前のコミットメント遂行」を求めて却下された「財政規律の権化」であるはずのドイツが、日本の消費増税による景気悪化を指摘するということは、消費増税による財政再建が第三者の目には極めて困難に映っていることの表れである。「消費増税の影響を調べる集中点検会合」において、是非「財政規律の権化」であるドイツ連銀の「慎重論にも配慮する姿勢」を示してもらいたいものである。

消費増税が景気にマイナスであることは、賛成派も認めている議論の余地もないことであり、反対派も含めて有識者59人も集めて議論するほどのことではない。

賛成派が主張する、「日本経済は好循環の流れにある」というのが正しいのだとしたら、消費増税を先延ばしにしている間も景気は拡大し、結果的に税収も増えるはずなので、急いで消費増税を実施して景気に冷や水を浴びせる理由はない。

一方、賛成派の「日本経済は好循環の流れにある」というのが間違っていて、日本経済は「ガラス細工の景気回復」であり、「わらに付いた火」のように直ぐに燃え尽きてしまう状況にあるのだとしたら、消費増税を実施できる経済環境にはないということになる。

つまり、賛成派の主張が正しかろうが間違っていようが、日本経済や税収を考えれば、今すぐに消費増税を実施するというのは得策ではないということ。こうした「結論が決まっている議論」に対して、59人もの有識者を集めて、消費増税実施という「結論ありきの議論」をすることに、どれほどの意味があるのだろうか。慎重派のガス抜きの場として使われないことを祈るばかりである。

残念ながら「有識者」ではない筆者には、官邸に招かれて意見を述べる機会はない(後輩が賛成派として意見を述べると報じられているが)。その代りという訳ではないが、個人的な見解をまとめた「それでも消費増税やりますか?~予断を持って議論することなかれ~」(Kindle版)という電子書籍を出版したので、興味のある方には是非目を通して頂きたい。消費増税に関する報道はバイアスがかかり過ぎており、賛成派の主張には余りにも論理の飛躍が多過ぎると感じており、消費増税賛成、反対を論じる前に、もっと客観的な情報を国民に提供した上で、議論すべきだという思いで書き下ろしたものです。

重要なことは、出来る限り客観的な情報に基づいて、論理的に結論を導き出すことであり、歪められた情報を駆使して結論ありきの議論をすることではない。残念ながら、今の消費増税論議には、この重要な部分が欠けている。

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