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「やっぱり、近現代史は勉強しなきゃいけないですね。」 〜田原総一朗インタビュー

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8月15日、68回目の終戦記念日がやってきた。戦争体験者が高齢化する中、戦争を知らない世代にいかに語り継ぐかが、深刻な問題になってきている。例年通り政治家の靖国神社参拝をめぐる動きがメディアを賑わせたが、そもそもあの戦争とはなんだったのか、A級戦犯とは…と言った議論がなされる機会はあまり多くはない。教育現場における近現代史領域の歴史教育不足を指摘する意見も多い。8月放送の「朝まで生テレビ!」で、この問題に真正面から斬り込んだ田原総一朗氏に話を聞いた。【取材・構成:大谷広太(編集部)】

"自虐史観"ではない近現代史をちゃんと教えるべき

田原:近現代史を日本の学校で教えないのは、単純に定説がないからでしょう。
1990年くらいまで、学校の教員たちは、いわゆる自虐史観を持っていました。明治以降の歴史、つまり日清戦争も日露戦争も侵略戦争であったし、第一次大戦以後のヴェルサイユ体制、ワシントン体制の下で、植民地獲得のための帝国主義的なやりかたは改めるべきだという風潮が高まる中、日本だけがアジアの国々を侵略し、満州事変、日中戦争をやったと。それが決定的に破綻したのが太平洋戦争だった、という考え方ですね。

しかし、そうではないだろうと。僕は92年、「SAPIO(小学館)」誌での連載を「日本の戦争 (小学館文庫)」という本にまとめたんだけど、書くときに参考資料として読んだ本はほとんど役に立たなかったんです。それらはいわゆる左翼史観で、日本の近現代史イコール侵略の歴史だった、時代の風潮に逆らった帝国主義的な歴史だった、ということになっていました。

19世紀、ちょうど日本が幕末に入るころ、イギリスでは帝国主義というのは、"理想の形"でした。それまでは、発展途上国に進出し、労働力や資源を搾取し放題でした。そういう国々ににきちんと行政機関や教育機関をつくり、きちんとした行政、教育をやって、政府を作るべきだ、これが帝国主義です。だから当時は確かに"理想の形"でした。

さらに言えば、日本が帝国主義だったというが、じゃあ帝国主義じゃなかった先進国ってあるのか。アメリカもイギリスもフランスもドイツもイタリアも、全部帝国主義でした。力のある国が、力の無い国を植民地にする。それが世界の常識でした。ハッキリ言えば、植民地にするかされるかの時代でした。そんな中で幕末・明治の時代を迎えた日本も、植民地にされないためには植民地を作るしかない、ということになった。つまり「遅れてきた帝国主義」だったんです。

たとえば、なぜ日清戦争が起きたか。1894年、朝鮮半島で東学党の乱(甲午農民戦争)が起きました。朝鮮政府は中国に軍隊を派遣して乱を抑えてくれと頼みました。つまり、朝鮮半島は事実上中国の支配下にあったわけです。当時、日本と清の間には天津条約というのがあって、朝鮮半島に派兵するときは知らせるということになっていたから、清は日本に兵を派遣するぞと言ってきました。ときの外務大臣は陸奥宗光。彼は当然日本も軍を派遣すべきだといった。これに対して、首相である伊藤博文はためらいました。朝鮮半島に軍隊を派遣したら清ともめるんじゃないか、もし清と戦争になったら負けるんではないかと思ったんですね。その伊藤以上に反対したのは明治天皇です。大反対。日本人を一兵たりとも犠牲にするのは良くないと。明治天皇は平和主義者だったので日露戦争にも大反対でしたね。

ここが伊藤のような明治維新の"第一世代"と陸奥のような"第二世代"との違いでもあるんだけど、陸奥は、望むところだと。派遣して、戦争になればいいじゃないか、という主張をする。このままでは本当に朝鮮半島は清国の支配下になってしまう。そうなると、日本の安全保障上とても危ない。日本としては、朝鮮半島は、あくまでも、自立していてくれていないと困る。自主独立させるべきだと。これが陸奥宗光をはじめとした、維新の第二世代の考え方でした。清をやっつけて朝鮮半島を取るための、侵略戦争かというと、そうじゃなかった。

その後、清と日本が派兵することになりますが、その頃には東学党の乱は収まってしまった。清は朝鮮政府の撤兵の要求を受け入れようとしたが、日本は断固反対。そこで日本は、皇帝の父親で、失脚していた大院君を謀略でもって引っ張りだして、日本は朝鮮半島の自主独立のために清と戦えと宣言させる。これで日清戦争が起きる。
戦争は伊藤博文の予想に反して連戦連勝。戦後、まず日本は朝鮮半島の自主独立という約束を取り付けた。次に、遼東半島を取ることにしたら、ロシアとフランスとドイツが冗談じゃないと言ってきた、「三国干渉」ですね。言葉の上では"干渉"だけど、もし反対したら、ぶっつぶすぞ、ということです。これはおかしいことだけど、当時、とにかく力の強いものが、力の弱いものを押し付けるのが当たり前の常識だったから。

次に日露戦争に勝ったら、インドやアジアの国々がみなヨーロッパの植民地になっている中、アジア人が白人に勝った、我々も独立できるんじゃないかと、独立運動をしているアジア各国の連中が大勢日本にやってきた。

だから、日本の帝国主義だけが悪くてヨーロッパやアメリカは悪くないという"自虐史観"ではない近現代史をちゃんと教えるべきだと思う。

日本による朝鮮半島併合の歴史を見ると、ある意味で真面目すぎたとも言える。併合して、完全に日本のようにしようとしたからです。たとえば、京城帝国大学を作りましたね。さらに、日本人と同じ生活をしてもらおうとして、創氏改名をやりました。今からすれば、朝鮮の人々の名前を変えるなんて、とんでも無いことです。イギリスはインドを植民地にしましたが、オックスフォードやケンブリッジも作らない、創氏改名もしなかった。日本が帝国大をつくり、日本のようにしようとしたことが、今に至るまで、朝鮮半島の人々の深い怒りを買っているんです。

台湾には、環境の問題がありました。蒋介石率いる国民党が、中国共産党に負けて台湾に移ってきた。だから、台湾は反共なんですよ。反共であるがゆえに、反共の自由民主党と極めてうまく行ったのです。だから台湾の人々は、朝鮮半島の人々ほど日本に反感を持ちませんね。

こういうことは、近現代史を知らないとわからないんです。

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