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「著作権」の重さを改めて感じる一事例〜ディスプレイフォントの使用をめぐって

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パッと見た限りでは、それなりに創作性がありそうで、何らかの形で投資インセンティブを保護する必要性もあるように思われるのに、判例上は「著作物」として認められておらず、それゆえに著作権法の保護も受けられない“コンテンツ”は、決して少なくない。

「印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。」

という最高裁判決(最一小判平成12年9月7日)の下、事実上ほとんどのものについて、著作権法上の保護が否定されることになった「文字フォント」などは、その典型ということができるだろう。

この判決に対しては、当然ながら異論も出されたところであり*1、それが未だにくすぶっている面もあるのだが、最高裁判決が出た今となっては、そういった“異論”も、個々の文字の書体に対して著作権による保護を認めよ、という方向よりも、「一組の書体の集合体たるタイプフェイス」についての権利主張であったり、著作権法の枠外での立法的解決を求める主張に向かわざるを得ないのが実情といえる。

そんな状況下で、フォントベンダーが、自らの製作したフォントを番組テロップに用いたテレビ局と番組制作会社に対して損害賠償請求訴訟を提起する、という事件が起きたようで、第一審の判決が最高裁HPにアップされている。

「著作権法による保護を求めるものではない」という前提の下で争われたこの事件(ゆえに請求原因も一般不法行為で構成されている)は、“保護されない知的創作物”について議論する上でいろいろ興味深い内容も含んでいるように思われるので、ここで紹介しておくことにしたい。

大阪地判平成25年7月18日(平成22年(ワ)第12214号)*2

原告:株式会社視覚デザイン研究所(フォントベンダー)

被告:株式会社テレビ朝日、株式会社IMAGICA

判決冒頭で示された概要から引用するならば、本件は、

「フォントベンダーである原告が,テレビ放送等で使用することを目的としたディスプレイフォントを製作し,番組等に使用するには個別の番組ごとの使用許諾及び使用料の支払が必要である旨を示してこれを販売していたところ,原告が使用を許諾した事実がないのに,前記フォントを画面上のテロップに使用した番組が多数制作,放送,配給され,さらにその内容を収録したDVDが販売されたとして,番組の制作,放送,配給及びDVDの販売を行った被告テレビ朝日並びに番組の編集を行った被告IMAGICAに対し,被告らは,故意又は過失により,フォントという原告の財産権上の利益又はライセンスビジネス上の利益を侵害したものであり,あるいは原告の損失において,法律上の原因に基づかずにフォントの使用利益を取得したものであると主張して,主位的には不法行為に基づき,予備的に不当利得の返還として,原告の定めた使用料相当額の金員(主位的請求には弁護士費用が加算される。)の支払を求めた事案」(2-3頁)

ということになる。

元々、原告は、平成7年~平成10年までの間にいくつかのタイプフェイスを制作し、それをデータ形式にしたソフトウェア(旧フォントソフト)を販売していた。

そして、旧フォントソフト購入者との間で締結した使用許諾契約においては、使用期間や用途等の制限は存在せず、ソフトを正当に購入したものは、旧フォント及びフォント成果物を自由に使用することができ、テレビ放送等に旧フォントを使用する場合でも、別途料金を支払うことを要しない、とされていた。

ところが、原告は、「使用料」を「新たな収益源とするビジネスモデルへの転換」を考えたようで、平成12年5月15日付け書面で、被告テレビ朝日を含む放送事業者に対し、

「ソフトウェア使用に関する同意書」,及び旧フォントの購入状況や外注先のテロップ製作業者について回答書の提出を求め,同意書を提出した場合には,特例として,旧フォントを無料で使用できることを通知」(22頁)

した。

皮肉なことに、上記の書面を出した約4か月後に、残念な最高裁判決が確定することになってしまったわけだが、それでも原告は、

平成14年ころ フォントソフトの販売とは別に、デジタルフォントのアウトラインデータの一文字単位での販売も開始

平成15年3月3日 同日付書面で、放送事業者に対し、3年間にわたって実施してきた無料サービスを終了すること、同年4月1日以降、テレビ番組等の映像媒体で原告が製作したフォントを使用する場合には、所定の手続と商用使用料金の支払が必要となること等を通知<

と、着々と自らの“ビジネスモデル”構築の布石を敷き、さらに、平成15年5月には、上記タイプフェイス(旧タイプフェイス)の一部に変更を加えた新たなフォントソフトを販売し、その際、使用許諾契約において、

「本件フォントをテレビ放送等に使用する場合には、本件使用許諾契約と別に、個別の原告の許諾及び原告への使用料の支払が必要である」(5頁)

という条件を定めるに至ったのである。

原告はデザイン会社らしく、「書体見本」付きの華やかなHPを開設しているが(http://www.vdl.co.jp/)、そこでも、「テレビ番組・映像製作」向けのリースフォントのサービス説明ページへのリンクが目立つところに貼られており*3、この分野を強く意識したビジネスを行っていることは間違いない。

著作権の保護は受けられなくても、いや、保護を受けられないからこそ、「契約」によるビジネスモデルの構築が、この会社の目指すべき道だったはずで、旧タイプフェイス時代から、テレビ番組のタイトル等に原告の製作したフォントを使っていた放送局が、この誘いに応じてくれれば、万事OK、になるはずだった。

だが、そこは、権利関係については百戦錬磨(?)の大手放送局のこと、被告テレビ朝日は、原告の度重なる書面通知に対して、

「字種を組み合わせて用いることに対し,フォントベンダーが権利を行使する余地はなく,正当な方法で入手したタイプフェイスに含まれる字種を組み合わせることは使用行為であり,原告の要求はこれを越えるものである」(25頁)

と書面で敢然と反論する。

判決に表れているところによれば、テレビ局側でも本件フォントのような派手な文字を使った「番組のテロップ」の作成は、外部の専門業者に委託することが多かったようであり、放送局側で使用するフォントの選択等を明確にコントロールすることは難しかったようだ。

それゆえ、テレビ朝日側で「トラブルを避ける趣旨」で、「テレビ番組の制作担当者らに,原告のフォントは使用せず,ノートパソコン等に原告のフォントをインストールしないよう,注意喚起をした」にもかかわらず、現実にはいくつかの番組のテロップの文字に本件フォントが使用されてしまったこと(そしてそれを原告が目ざとく発見したこと)がきっかけで、不幸にも本件訴訟が提起されることになったわけだが、そもそも、原告と被告テレビ局側とで、「フォントの使用行為」に関する認識が全く異なっており、かつ双方とも自らのビジネスモデルを維持したままフォント販売/番組制作を続けていた以上、紛争が燃え上がるのは時間の問題だったように思われる。

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