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面白いぞ経済同友会の意見~その3

経済同友会の意見書は、企業側の採用を拡大させるための方策についても提言している。

経済同友会は、法曹有資格者の組織内弁護士への出願意向が低いとし、その解決策として、①組織内弁護士の働き方やニーズの理解が十分ではないから法科大学院で認知させるべき、②ビジネススクールと連携して共通科目を導入してビジネス感覚を養うべき、と提言する。

組織内弁護士の活躍は最近かなり報道されているし、昨今の、弁護士の法律事務所への就職難からすれば、組織内弁護士の求人があれば相当数の応募が殺到していると思われるので、①の提言は、現段階では、かなり的外れになっている可能性は高いと思う。

それでも敢えて①の提言をしているということになれば、経済同友会が求める優秀な法曹有資格者が組織内弁護士の応募者に少ないということなのだろうか?

いやいや、経済同友会は、「司法試験はあくまで入り口・通過点に過ぎず、法曹としての能力は合格後の実務経験で磨けばいい」と言っているのだし、(入学要件と卒業要件を厳格にすることを前提とする主張ではあるが、)法科大学院のプロセスによる教育を高く評価して、「司法試験は明らかに能力や資質の劣る者だけを不合格にして、原則として合格させればいい」とも言っている(同意見書p3)。つまり、経済同友会の意見は、法曹有資格者の実力(能力)は合格後に実際の社会で身に付ければいいし、法科大学院でプロセスによる教育を受けて卒業している以上、よっぽどの不適格者以外は、そのまま司法試験に合格させても良いだけの実力は持っていると判断して良いという主張のようだ。

そして、法科大学院側に言わせれば、適正な入学試験倍率を維持しているし厳格な卒業認定をしているということだから、(法科大学院の言い分を鵜呑みにすれば、)すでに、経済同友会が求める厳格な入学要件と卒業要件はクリアーされていることになる。

そうだとすると、法科大学院を卒業して、司法試験にも合格した人達について、少なくとも経済同友会に所属する会社は、入社試験段階にいたって、突然、この入社希望者はリーガルマインドに欠けるとか、優秀でないとか、言わないだろうし、ましてや不合格になんかするはずがないだろう。

経済同友会の意見を敷衍していけば、経済同友会に所属している会社が法曹有資格者の求人を出し、仮にその求人に応じた法曹有資格者が1人だけの場合、その会社はほぼ確実にその1人の応募者を雇用してくれることにならなければおかしいことになりそうだ。

しかし、そんなことがあり得ないことは、誰にでも分かる。

②の意見に関しては、そもそも司法改革の理念にそぐわないおそれがある。

司法制度改革審議会意見書には、法曹の役割、法曹に求められる資質について次のように記載されている。

『国民が自律的存在として、多様な社会生活関係を積極的に形成・維持し発展させていくためには、司法の運営に直接携わるプロフェッションとしての法曹がいわば「国民の社会生活上の医師」として、各人の置かれた具体的な生活状況ないしニーズに即した法的サービスを提供することが必要である。』

『(法曹に求められる)質的側面については、21世紀の司法を担う法曹に必要な資質として、豊かな人間性や感受性、幅広い教養と専門的知識、柔軟な思考力、説得・交渉の能力等の基本的資質に加えて、社会や人間関係に対する洞察力、人権感覚、先端的法分野や外国法の知見、国際的視野と語学力等が一層求められる』

このように、司法制度改革では、あくまで国民各人のための「社会生活上の医師」としての法曹が想定されている。人権感覚や語学力等は必要と想定されているが、「法曹にビジネス感覚が必要だ」とは明記されていなかったように思う。

少し話はそれるが、誰でも分かるように、人権感覚とビジネス感覚はときにぶつかり合うものだ。言っちゃあ悪いが、(やっていることは今までの弁護士とほとんど変わらないにもかかわらず、○○専門と大々的に営業を行って)今までの通常の弁護士費用と比較すると法外と言えるほど高額な弁護士費用をふんだくろうとする法律事務所も実は存在する(私の経験でも、実際に高額の費用を求められてそんな費用を準備できないということで相談に来られた方がいた)。そして、そのような法律事務所の売り上げがどんどん上がっているのであれば、そのやり方はビジネス感覚としては正しいと言えなくもないのだ。実際にそのような噂を聞く事務所の所長弁護士が経済誌に取り上げられたり、弁護士マーケティング本で成功者として取り上げられている可能性すらある。

経済同友会の意見は、さらに、③法科大学院を卒業したとはいえ実力未知数の従業員に高額の給与を支払うことはためらわれるので、教育期間を短くして司法修習も廃止すべき、④弁護士会費は企業内弁護士に関して減免を求める、⑤組織内弁護士にとっては公益活動義務を全うすることは困難なので柔軟な対応を求める(結局は公益活動免除の意図と思われる)等の主張を含む。

③については法科大学院のプロセスによる教育を評価していたはずなのに、給与を払う場面になれば急にその教育効果への評価は怪しくなる有様だし、④・⑤については、弁護士自治や弁護士法1条1項に規定されている弁護士の使命「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」の内容に抵触しかねない、徹頭徹尾自分勝手な御意見である。

経済界が戦後の日本を引っ張ってきた面があることは私も否定しない。しかし、今の経済同友会は、長期的な国民生活への展望を欠いた、あまりにも近視眼的且つ場当たり的な意見に終始しているのではないか、との危惧を拭いきれない。

2013年3月25日に、経済同友会から発表されている「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度に関する意見」と並べて読むとその危惧がより強く感じられる。

経済界のリーダー達の、懸命なご判断を期待するものである。

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