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社会保障制度改革国民会議報告書について(4)

医療・介護分野の国民会議の報告書の内容についてですが、率直に言えば方向性として素晴らしいと評価します。まさに少子化対策のコントラストで言えば、医療・介護分野は極めて政策誘導による部分が大きいため、政府の役割も大きなものになります。あとはそれをどこまで制度化する覚悟があるか?です。逆説的に言えば、絵に描いた餅になる可能性が大いにあるということです。

報告書での議論は大きく3つに分けることができます。(1)医療・介護に関する社会保障給付費の効率化、(2)病院完結型から地域完結型への医療・介護の転換、(3)医療保険制度の地域への移管です。

医療・介護制度そのものが、進みゆく高齢化に後手後手でパッチワークで制度の創設と改正を繰り返していることは疑いのない事実です。その中で大きな医療費の負担となっているのが入院医療費。その入院医療費を効率化することが最大の眼目となっています。しかし、単純に平均入院日数を減らすだけの削減策では、救急車のたらい回しに代表される医療難民・医療崩壊を引き起こすだけであることは既に経験済みです。

従って、それを支える制度として病院完結型から地域完結型、いわゆる在宅医療・在宅介護の充実となってくるわけです。私は、在宅医療・在宅介護の重要性は十分に認識しつつ、その受け皿の拡充は容易ではないし、都市部においては住宅事情も含めて引き続き施設医療の重要性は高まっており、無理に在宅医療に寄せることによって結果的に質の低下を招くということをずっと主張して来ました。

ではどうするのか?報告書では、「緩やかなゲートキーパーを備え付けた『かかりつけ医』の普及は必須」とし、そのためには国民の協力と国民の意識の変化が必要と言っています。分かりやすく解説すれば、ちょっとお腹が痛い、あるいは風邪をひいたという場合において、いきなり大病院に行くのではなく、地域の担当かかりつけ医にまず診てもらうという仕組みを作り、かつそう言う意識付けが必要だと言うことです。

緩やかとあるのは、イギリスが一時厳格なゲートキーパー制度を設けた結果、すぐにでも救急車で病院に搬送しなければならない状況であるにも拘らず、まずはかかりつけ医に診てもらわないと病院に行けない事態が発生して問題となったことから、病院にいきなり行くことも出来るけど、紹介状なしで行くと高い診療費を取られることとするなど、敷居を高くするということを意味します。

この方向性は正しいと思います。但し、国民の協力と意識変化が必須で終わっていては何も解決しません。この点の解決策としては、かかりつけ医を制度的に担保する「総合診療専門医」の育成、紹介なしで大病院で診察を受ける場合の一定額の自己負担制度などは必要であり、早急に整備する必要があるでしょう。また、地域医療を充実させる観点からは、地域ごとの医療資源が偏在化しないような取り組みも重要です。

報告書では、医療資源を都道府県に報告させることによって、自治体・政府が医療資源の存在を把握できるようにすること、及び地域医療ビジョンを都道府県ごとに策定して方向性を作ることとありますが、これは正直伝統的な行政手法の域を出ず、実効的な効果があるのか疑問です。

報告書にある通り、日本は医療従事者が圧倒的に民間の担い手によって整備されていることから、診療報酬などのインセンティブ措置や地域医療計画に基づく病床数のコントロールなどで間接的に資源配分の調整を行わざるを得ず、地域的な偏在の是正は難しいのです。

次に、医療保険制度の地域化についてですが、報告書では、国民健康保険の責任主体を都道府県が担うべしと提言しています。かなり大胆な提言に見えますが、私はこの点も方向性としては正しいと思います。しかし、現実に都道府県が担い手となり得るかという点においては二つの観点から難しいのではと考えています。

一つは、都道府県が人口単位の区割りではないため、人口60万人を下回る最少の鳥取県と、1,300万人を超える東京都では差がありすぎ、結果的に財政的な補填や調整などを行わなければならず、運営主体としては難しいのではないかということ、もう一つは、国民健康保険は市町村は運営主体としての実績があるものの、都道府県にはその機能はなく、移管しうる受け皿があるのかという点です。

この点報告書では市町村と役割分担を行うと述べ、また全国知事会も「責任を担う覚悟」があるとの見解を引用していますが、高度医療までを担える3次医療圏の医療圏を基本としながら、都道府県にこだわらず、広域連合の仕組みを活用しながら都道府県横断的に人口が平準化される枠組みを創設した方が良いのではないかと思います。具体的には人口300万人単位で一区切りとし、日本全体で40ほどの保険者の枠組みを構築するという考えです。

そして国が個々の国保の財政的な支援を個別で行うことにより、地域ごとの偏在が自ずと是正に向かう調整機能が働くと思います。過剰に医療機関が集まっていればその分競争が厳しくなるからです。しかしそうすると東京の23区のようなところはどうなるんだという論点が発生します。私は大学病院などの高度医療研究機関が都市部に集まることは医療資源の偏在とは文脈が異なるので、そうした高度医療機関に対する財政支援を保険によるインセンティブとは別の制度で行うべきだと考えます。

次に順番が前後しますが社会保障給付費の効率化について触れます。報道では一番注目された点ですが、具体的には(1)70~74歳の高齢者の医療費が法律上は2割であるのに暫定的に1割負担となっている点の是正(2)後期高齢者医療制度の存続です。私は(1)については法律に従って元の通りに是正せざるを得ないのではないかと思います。また、後期高齢者医療制度については、政治的に後から付け加えた匂いがプンプンと漂います。国民会議の議論がより抜本的な視点から論じられているのであれば、わざわざ存続を強調する必要はないからです。

むしろ効率化で一番言いかったことは、最初に述べた緩やかなかかりつけ医制度ともう一つ、介護制度全体を重度要介護者に重点化していくということではないかと思っています。在宅介護の言葉それ自体にも、出来るだけ経度な人はデイサービスなどで自分で何とかして欲しいという意思が強くにじみ出ており、そこに存在する家族側の負担、仕事との両立の困難さなどについては触れられていないままであり、効率化を示しつつ、それを実現するための具体的かつ有効な解決策を提示しているわけではありません。

最後に、抜本的な提言として重要だと思うのが、医療法人・社会福祉法人制度の見直しに言及している点と、尊厳死も視野に入れた終末期医療のあり方に踏み込んでいる点です。前者は業界の死活問題、そして後者は倫理問題に絡み、一つ間違うと虎の尾を踏むことになりかねません。特に後者は必ずしもすぐに制度化に結びつく訳ではありませんが、こうした点を省かずに論じている点は評価される点だと思います。

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