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【佐藤優の眼光紙背】韓国国会議員の竹島上陸に対して日本政府が抑制的対応をする理由

岸田外務大臣と安倍首相。(6月、AP/アフロ) 写真一覧
佐藤優の眼光紙背:第151回
 8月13日、韓国の国会議員が竹島(島根県)に上陸した。
韓国の最大野党、民主党の金ハンギル代表ら同党国会議員12人が13日、ヘリコプターで竹島に上陸した。同党が明らかにした。日本の植民地支配からの解放を記念する15日の「光復節」を前に、島の実効支配を誇示するとともに、歴史認識をめぐり日本政府に対応の変化を迫るのが狙い。

 韓国の閣僚や国会議員は過去にも竹島にたびたび上陸してきたが、昨年8月には李明博前大統領が韓国元首として初めて上陸。これを機に日本国内では竹島問題に関し韓国への反発が一層強まっており、野党代表らの上陸は日韓関係に悪影響を及ぼしそうだ。

 今回上陸した12人には民主党職員や韓国記者団も同行。竹島に約1時間滞在し、常駐の警備隊を激励するほか、金代表が日本に向けたメッセージを読み上げる。韓国では光復節を前に、歴史問題などでの日本政府の姿勢に批判が高まっている。(8月13日「共同通信」
 竹島は日本固有の領土であるというのが、日本政府の一貫した立場だ。日本の立場からすれば、韓国国会議員は日本の領土に不法上陸したことになる。

 しかし、本件に対する日本政府の対応は抑制的だ。<韓国の国会議員らが島根県の竹島を訪問した問題で、外務省の下川真樹太アジア大洋州局参事官は13日、韓国の金元辰駐日公使を同省に呼び抗議した。>(8月14日『朝日新聞デジタル』)。

 この抗議に対して、「なぜ大使を呼びつけないのか。日本政府の対応は弱腰ではないか」という見解もあろうが、外交の相場観に照らした場合、この対応が普通と思う。

 日本や韓国を含む大多数の国家で外交は政府の専管事項であるといういうのが、国際関係の通常のあり方だ。今回、竹島に上陸したのは、韓国野党の国会議員であり、外交に関して国家を代表する立場にない。従って、日本外務省のアジア大洋州局長が駐日韓国大使館の特命全権大使を呼び出して抗議するよりも一段低いレベルの抗議を、日本政府は意図的に行ったのである。裏返して言うならば、韓国政府関係者が竹島に上陸するようなことがあれば、これより高いレベルで抗議をするというシグナルを日本政府が韓国政府に送ったことになる。

 確かに安倍政権の外交は、参議院選挙後、韓国に対して、とりわけ抑制的になっている。これに関しては2つの見方が可能だ。

 第一は、安倍政権が韓国に対して弱腰になっているという見方だ。韓国が慰安婦問題で攻勢を強め、とくに麻生太郎副総理兼財務相が憲法改正のからみで「ナチスの手口に学べ」と述べて以降、米国で韓国ロビーとユダヤロビーが「反ファシズム、反ナチズム」という観点で提携を強めている。このような状況で、韓国を刺激するのは得策でないと考え、日本政府が静謐戦術をとっているという見方だ。

 このような見方をする人は、安倍外交の戦略性を見誤っている。安倍政権は、地政学的均衡を考えているのであり、決して韓国に阿ったり、弱腰になっているわけではない。

 そこから第二の見方がでてくる。安倍政権は、主敵を中国に定めている。その関連で、中韓の分断を戦略的に行っているという見方だ。

 安倍政権は、現実的な価値観外交を展開しようとしている。その場合、鍵を握るのは韓国だ。韓国は、政治指導者が国民の選挙によって選ばれる民主主義国である。この点が、民意と隔絶した共産党や人民解放軍のパワーエリートが権力を独占する中国とは本質的に異なる。

 国家の礎は領土だ。韓国は竹島を不法占拠しているが、近未来に韓露がわが領土を追加的に奪取する可能性はない。これに対して中国は本気で日本の尖閣諸島を奪おうとしている。中国は現実的脅威だ。それだから、中韓の間にくさびを打ち込んで、対中外交に日本の国力を傾注できる態勢を整る必要がある。

 この観点から、竹島問題、慰安婦問題、戦時下韓国人労働者への日本企業の賠償問題については、日本が韓国に対して大胆な妥協をする必要があると安倍政権は考えているのであろう。それだから、今回の韓国国会議員の竹島上陸に対して、日本政府は抑制的対応をしているのだと筆者は見ている。(2013年8月14日脱稿)

プロフィール

佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。 2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に、「国境のインテリジェンス」など。

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