記事

非正規労働者も襲うブラック企業-サービス残業・全国配転・パワハラ増-企業の指揮命令権に制約を

2/5

一人ひとりをどうつなげていくか

 そこで2つ考えなければいけないことがあって、1つはやはりそれぞれが一人きりで個別化されているだけではどうしようもないという問題です。つまり、若者がなぜネットスラングで書き込んでいるのかというと、今の職場に腹が立ってイヤなんだけど、どこにもその気持ちを言うところがないし、言える相手もいないので、どこにこの気持ちを持って行けばいいのかわからないので、ネットに書き込んでいるわけです。

 そうした一人ひとりが、やはりどれだけ社会とつながっていけるのかが大切になります。ところが、政治学などでもよく言われますが、いきなり個人対国家という図式で誰かに託して投票しようとすると、たとえば、橋下大阪市長のような人に託してしまって全体主義的な関係になってしまう。私はそういうことではなくて、個人と国家の間にどれだけ、いろいろな中間団体が社会運動を繰り広げられるのかが大事だと思うのです。多くの労働者がブラック企業の被害にあっているのなら、ブラック企業の被害に対して立ち向かうような中間団体がなければいけない。それがまさに労働組合だし、あるいは私たちのような労働NPO団体だと思うのです。

 もうすでに社会の中に広がっているブラック企業の問題を、先ほど言ったポテンシャルを生かしながら、一人ひとりの問題を労働組合運動も含めてどれだけ運動の側がすくい取れるのかということが一つの大きなポイントになってくるだろうと思っています。

社会問題としての提起を

 もう1つは、こうしたブラック企業という問題が出てきている中で、これをどれだけ社会問題として提起できるかということがカギになります。

 「ブラック」と言うと、言葉としてもとてもわかりやすくて、印象深い言葉なので、何にでもすぐ使えてしまうのですが、たとえば、今日の座談会のテーマでもある「ブラック公務」というのもブラック企業と同じような構造と背景を有しているものなので、十分つながる問題ではあると思うのですけど、いろいろくっつけないで、ブラック企業の問題にしっかり向き合うことが必要だと思っています。

 そのときに、このブラック企業の問題は、企業側がひとたび労務管理で若者を使いつぶして利益を上げようと思ったら、若者の命や健康が失われて働けなくなってしまう恐ろしい問題なのだということをベースに、若者の使いつぶしはダメだと強く言っていくことが大事です。それがなぜ力を持つかというと、たとえば上の世代からしても、自分たちの子どもがブラック企業に使いつぶされるのはたまったものではありません。子どもを持っている親は、今ブラック企業の問題に対して、すごく共感度が高くなっているんですね。私の著作『ブラック企業』は文春新書です。この文春新書を読む層というのは比較的中高年層が多いのですが共感が広がっています。さらに言うと、親世代だけではなくて、年金受給者にとっても、若者がどんどん使いつぶされてうつ病になっていくということでは、いったい誰が年金保険料を払ってくれるのだろうかという話にもつながっていくと思うんですね。

 つまり、誰にとってもブラック企業というのは利益がないんだということがはっきりしやすい問題です。シングルイシューで「若者を使いつぶすブラック企業はダメだ」と言っていくことで、多くの人の共感を呼べるのではないかと思うのです。

「ブラック企業肯定論」と「体罰肯定論」は同根

 それから、これまでの多くの若者論の中で、「若いやつはダメだ」という若者バッシングがずっと行われてきた問題があります。いま体罰の問題がありますが、私は「ブラック企業肯定論」と「体罰肯定論」は同根だと思うのですね。今の不景気や生産性の低下を若者の個人的資質に求め、若者を鍛え直すことが解決策とされて、ブラック企業の過労死ラインを超える労働も、そうした体罰の一種になっているような感じです。

 「ブラック企業は仕方ない。若いやつがもっと頑張らなきゃダメだ」という「ブラック企業肯定論」も「体罰肯定論」も、もっと若者を鍛え直さなければダメだという話で、いろいろな社会の問題があるのに、とりあえず基本的には若いやつを叩けばいいという話に還元してしまう。今の文部科学省の態度も同じです。キャリア教育と言って何を教えるかというと、小学生のうちから厳しいことを教えなさいというわけです。若者の多くがうつ病になってからだを壊して困っているのに、そこに小学生のうちから厳しいんだという精神教育をやればいいと平気で言っている大人たちがいるわけです。これは「体罰肯定論」と何が違うというのでしょうか。

世代間対立は分断の罠

 また、雇用・労働問題で気をつけなければいけないのは、世代間対立や正規と非正規の対立などがあおられることです。若者の利害と中高年層の利害の対立が根本問題であるかのように言う人がいますが、これは分断の罠だと思います。世代間対立をあおられて分断されている場合ではなくて、ブラック企業が若者を使いつぶしたり、若者をいじめて働くこともできなくしてしまうことを、若者個人の自己責任にするのではなく、若者が働き続けられないという社会問題として、あらゆる世代がみんなで若者を支えてブラック企業をなくしていく広がりを持てるかということが勝負のカギだと思っています。

 ですから、労働組合には、ブラック企業に苦しめられている若者をどう支えて、つながっていけるかを具体的に検討し実践してもらいたいですし、私たち労働NPO団体や弁護士、研究者などとも連携しながら、社会問題としてブラック企業をなくしていくとりくみを進めて欲しいと思います。

ブラック企業をなくすための労働組合の役割

――今野さんの問題提起を受けて、三木さん、どういった意見をお持ちでしょうか。

 ◆JMIU(全日本金属情報機器労働組合)書記長・三木陵一さん なぜブラック企業がいま増えているのかという原因や背景についてしっかり議論するのは大事だ思います。少し挑発的なお話をさせていただくと、たとえば今野さんの著作『ブラック企業』の第7章では「日本型雇用が生み出したブラック企業の構造」という言い方になっていて、日本型雇用とブラック企業との関係で、日本型雇用のある意味延長線上でブラック企業は出てきたのではないかという仮説を出されているのではないかと私は読みました。

 そのときに思ったのは、JMIUの関係でいうと、先ほどの日本IBMのように、ブラック企業にあげられるのは外資系、IT産業、それから新興企業で、ある意味では従来の「日本型雇用」から一番遠いところなんですね。そう考えると、「日本型雇用」の延長線上でブラック企業が出てきたのではないかという仮説をどう考えていったらいいのか、さらに、そもそも「日本型雇用」というのをどう考えるのかというところにいくと思うのです。

 私は、今野さんのお話を、「日本型雇用」の特徴である年功型賃金と終身雇用を、その片方で極めて強い企業の指揮命令権を、バーターとして、日本の労働者が受け入れているのではないか、というイメージで受けとったのですが、私は果たしてそうなのだろうかと疑問を持っています。

あわせて読みたい

「ブラック企業」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。