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日本にGoogleやFacebookがどうしたら生まれるか?

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ちなみに日本の1960年代はどんな状況だったか?

米国でシリコンバレーやVCが始まった60年代、日本では現在でいうところのVCは存在していなかった。

現存するVCで日本最古と言われる、我が古巣のジャフコが日本合同ファイナンスとして設立されたのは、1973年と意外に古い。

しかしジャフコも含めて当時はVC投資というよりは、株式未公開の中堅優良企業に対する株式公開の「指南役」的な役割だった。

私が同社に入社した90年代半ばになってすら、既に億単位の利益を出している会社に上場を提案する仕事が多かった。当時はまだ未上場の優良中堅企業は少なからずおり、上場指南の見返り的に若干の株式を取得するだけで、十分な儲けがあったからである。

その後、日本でシード・アーリーステージへのVC投資が本格的に始まったのは、いわゆるドットコムバブルとIPOバブルが重なった歴史的時期である90年代の後半頃からである。

その頃から徐々に、銀行系や証券会社系のVCがアーリーステージ投資の比率を高め、そのうちコーポレートVCと呼ばれる事業会社系のVCも参入が出始めた。またそれらの大手VCを辞めて、私のように独立系のVCを立ち上げた人たちが、その後徐々に、米国のようなスタイルのVC投資を行うようになり、現在に至っている。

つまり、正味のところ日本におけるVCの歴史は、20年あるかないかである。

一方で米国は既述の通り、半世紀以上に渡るVC・スタートアップの歴史があるのだ。

ここから導き出される結論は、シリコンバレーは一夜にしてならず という事だ。

私は、残念ながら今すぐに日本にGoogleやFacebook級の巨大スタートアップを生み出す秘策は無いと思っているが、その理由は 歴史が熟成するところの生態系強さと大きさである。

既述の通り、シリコンバレーが半世紀にわたり、しかも幾何級数的に培ってきたスタートアップの生態系は、一朝一夕に再現できるものでは到底無い。

追いつくには成功のバトンリレーを何回転も繰り返す事でお金と人材の拡大再生産がなれる時間が必要だ。

しかしそうは言ったものの、半世紀と20年の差分の、あと30年かかるかといえば、そうも思わない

進化発展のスピードは日に日に早まっているし、特にインターネットコンピューティング産業におけるそれは著しい。

以下で議論するポイントを間違いさえしなければ、中期的に米国にキャッチアップする可能性は十二分にあると思う。

米国ではM&Aは「市場」として成立しており、日本では国が企業に重い「足枷」をはめている

Googleもマイクロソフトも過去100社以上企業買収を行っている。Facebookも毎月のように買収しているし、Twitterのような未上場の会社ですら頻繁に企業買収をおこなう。

しかも買収時のバリュエ―ションは二桁、三桁億円は当たり前、1千億円級もGoogleによるYou Tube、FacebookによるInstagram、YahooによるTumblrと数年おきで起こっている。

ゆえに、それ専門のM&Aコンサルタントもいる。彼らは単なるM&A仲介エージェントではない。

「Google やFacebookのBizDev(買収を直接行う部門)の担当者がどんな技術やプロダクトやIPを欲しがっているか」を熟知し、それをスタートアップ達 に「X社が欲しがってるのはそうじゃない」とか「こうすればY社買われるぞ」などと、生々しいアドバイスする人達である。

私 がメンターを行っているFounder Instituteや、500 Startupsなどのアクセラレータのシリコンバレーオフィスに行けば、そのようなM&Aコンサルタントが出入りしており、入居している数十のスタートアップ相手に上記のアドバイスを行っている。

つまり米国では、スタートアップにとってM&Aは「エグジットマーケット」として成立している

なぜか?

たしかに、既述の通り日本でスタートアップがIPOして調達できる資金は平均して10億円程度であるのに対して、米国では300億円もの金が調達できるので、その豊富な資金を使って米国企業は企業買収を頻繁かつ高額なバリュエ―ションで行う事ができる。

しかし、理由はそれだけではない。

むしろ、米国でM&Aが盛んで、日本がそうではない最大の理由は以下の二点だろう。

第一に、 買い手側の上場企業に高い時価総額が付いていることである。それにより、有利な条件で株式交換による買収が出来るためである。

30兆円の時価総額がついているGoogleにとって1千億円は0.3%に過ぎない。0.3%の自社株式を割り当てるだけで1千億円の巨額買収が可能なのである。

第二に、米国でM&Aが盛んで、日本がそうではない理由は、のれん代償却ルールの違いである。

わが国の会計処理ルールでは、M&A によって生じた「のれん」は償却資産として計上され、その償却費は販売管理費として計上する事を義務付けされてる。

一方で、米国や、IFRS(国際財務報告基準)を採用しているほとんどの先進国では、「のれん」の償却が不要である。

例えば、米YahooがTumblrを1千億円で買収した際の損益計算書(PL)上のコストはほぼゼロであるが、同じ事を日本の会社が行ったとしたら、1千億円を販管費としてコスト計上しなければならない。法的に認められている最大の20年で期間償却したとして、年間50億円の費用増となる。

毎年50億円ものPL上のコスト増を許容できる上場企業は日本にはほとんどない。やった瞬間に業績大幅下方修正、株価は下落に陥る会社がほとんどだろう。つまりそんな事は経営者としてやれない。

これが、日本で大型買収が無い理由である。

※正確には1千億円と簿価との差額がのれん代だが、スタートアップの簿価は大抵たかがしれている。Tumblrの場合は過去の累計資金調達額が$125ミリオンとのことなので、それが丸っと現金で残っていたにしても買収価額は簿価の8倍になる。実際はほとんど使い果たしているだろうから限りなく買収価額全額に近い金額がのれん代となる。

より厳密に言えば、IFRSの導入は日本で認められている。ゆえに導入すればこの問題は解消する。

現に導入して1千億円近く利益が上がった日本たばこ産業などの例もある。

しかしながら実情は、IFRSの導入は莫大なコストや手間がかかる事などから超大手以外の導入はほとんど進んでいないし、ほとんどの上場企業にとってそれは現実的な選択肢として存在しないも同然である。

現に、ネットサービス系でIFRS導入済みの日本の会社は、楽天とDeNAのたった2社のみである。

これは誠に信じがたい話だ。

なぜ日本だけが他の先進国と違うルールでもって、企業成長の常套手段の一つであるM&Aを著しく阻害するような法制度を強いているのか。

これでは 「既得権をもったどこかのおエライさんたちが新興の成長企業の足を引っ張ろうとしているのでは」 と勘繰りたくもなる。

そう勘繰られないためにも、直ちにこの足枷は外すべきだと思う。

「アップサイド」の圧倒的な大きさ

ここまでの議論をいったんまとめると

  • 米国では株式市場が世界中のどの地域にも存在しないレベルで巨大な資金量を持つ。
  • その市場は、未上場時に巨額のVC投資を受けたスタートアップのIPOにおける巨額の公募増資・売出を十分に吸収する。
  • 巨額の資金をIPOにより調達し、高い時価総額が付いた上場企業は、豊富な資金や自社株との株式交換を利用して、高額なM&Aを頻繁に行う。 他方で日本のみがのれん代償却ルールにより大型買収が実質的に不可能化している。
  • ゆえに米国では巨大なIPO市場だけでなく、巨大なM&A市場も存在し、日本では存在しない。

つまり一言で言うと、米国では投資家のエグジット時(IPOとM&Aの両方)における「アップサイド(期待収益率の上方可能性)が大きい」のである。しかも米国以外とは桁が二つ、三つ違う大きさである。

するとこうなる。

  • アップサイドが米国以外の市場より桁違いに大きいので、投資家もまた桁違いに強気な投資を行う、つまり高いバリエーションで巨額の資金をスタートアップに投じる。
  • 桁違いのお金がスタートアップに入るので、世界中から優秀な人が集まり起業を志し、優秀なエンジニアやマネジメントを高い給料で雇う事ができる。
  • 優秀なファウンダーが優秀な社員と共に桁違いの果実(巨額のIPOや買収エグジット)を目指して、桁違いのお金を使って開発やマーケティングを、世界市場に向けて行う。
  • ゆえに世界を席巻する巨大なインターネットサービスが誕生し、巨大な収益を生む。
  • 巨大な収益を生むので、時価総額も巨大となる。ゆえにそれに投資をした人や創業メンバーが巨大な利潤を得る。

つまり米国では、投資家のみならず起業家や幹部社員などの、スタートアップに参加する人全員の「期待収益」が巨大なのである。

もちろん、お金だけが全てというつもりは毛頭ない。

冒頭述べた通り、今までたくさんの人が論じてきた「シリコンバレーをシリコンバレーたらしむる理由」は、歴史や文化、教育から法制度まで重層的かつ有機的にある。

特に米国が歴史的に積極的であるところの移民政策がスタートアップの繁栄に与えてきた影響は大きい

ジョブズはシリア人2世であるし、Yahoo創業者ジェリーヤンは台湾生まれ、Googleのセルゲイブリンはロシアで生まれたユダヤ人である

Yahooのヘッドクォーターに行くと、日本の国立大ほどの巨大なキャンパス(本社社屋)を闊歩する社員のうちざっと半分くらいがアジア系の人々である事に目が行く。

しかしそれらとて突き詰めると、既述の通り資本市場の圧倒的な強さに裏付けられる経済的なインセンティブが優秀な人材を国内外から惹きつけている面が大きいはずだ。

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