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日本にGoogleやFacebookがどうしたら生まれるか?

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このところ米国でベンチャーキャピタル(以下「VC」)が集まるカンファレンスに参加したり、米VCとの協調投資案件がいくつか続いたりして、彼らの考え方や実情を色々アップデートする機会があった。

そこで改めて 「本当のところなぜ、米国だけに何度も世界規模の巨大なスタートアップが生まれてきたのか? なぜ日本にはGoogleのようなメガスタートアップは生まれないのか?」につき、私がふだん活動している東南アジアや、過去6年間働いた日本のVCでの経験とも照らし合わせ、考えてみた。

この議論は、今まで色々な人が色々な角度から論じてきたし、今回改めてそれらをひも解いて調べてみたりもした。

それらはどれもそれぞれに正しい面があるようにも思えるが、一方で正直どの説にもいまいち、しっくりと腹に落ちるものを見つけることが出来なかった。

ゆえに改めて、以下に自説を展開してみる事にした。
皆さんも同様に、もし以下の論に腹に落ちない点や不足があればご指摘いただき、ぜひ日本に将来メガスタートアップが生まれるための議論を盛り上げていければと思う。

「お金の量」 や「リスク許容度」 は答えではない。

まず、スタートアップに注がれるお金の量は、米国では日本や他のどの地域よりも桁違いに大きい

そこで良く聞くのが 「米国でスタートアップが大成功する理由は、スタートアップ投資に投じられる資金量が大きいからだ」 という説だ。

私はこれについては、陳腐なだけでなく、全くの誤りですらあると思っている。

なぜなら答えは簡単だ。それは、結果であって、理由ではないからだ。

米国では大成功するスタートアップが数年おきに必ず生まれてきた、つまり数年おきに誰かが桁違いの大儲けをしてきた。ゆえに「次の誰か」になるために金が集まるのは当然であり、結果に過ぎない。

次のFacebookを逃すわけにはいかないから、わざわざロシアから投資家ユリミルナーはシリコンバレーにやってきてY Combinatorの参加者全員に一律に投資するのであり、その中からDropboxやAirBnBという次の大ホームランが生まれるのである。

大儲けの可能性がある、つまり期待収益率が高いからお金が集まるし、リスクも取れる。これは投資のイロハだ

そうではなくて、「ではなぜそのような大成功が米国では何度も再現されて、日本ではなかなか生まれないのか 」というのがこの議論の本質である。

逆も真なりで、 「日本で米国のように大きなスタートアップが育たないのは、VCの未整備やシード期のリスクマネーの不足が原因だ」というのも、全くもって見当違いの議論である。

仮に日本に素晴らしいスタートアップ投資環境があるのに日本のVCが未成熟であったなら、今頃とっくに米国のVCがやってきてガンガン投資して儲けていただけの話である。もちろん事実は全くそうなってはいない。

(そもそも昨今ではだいぶ、日本にシードステージ(創業期)のアクセラレータやVCなどのリスクマネーの提供環境は整いつつあると思う)

ゆえに問題の本質はそこ(VCの資金量)には無い。

むしろ、お金の量で言うなら、VCマネーの量よりも、米国とその他の国で圧倒的に違いがあるものがある。

それは、株式市場にあるお金の量だ。

下図をご覧いただきたい。これは、各国の証券取引所の時価総額合計の世界全体に占める国別シェアである。

リンク先を見る

(本年5/22時点  出典:Bispoke Investment)

ご覧の通り、アメリカの株式時価総額の合計が、全世界合計に対して34%と 1/3超を占めている。

しかしそれより注目すべきは、2位の日本以下すべての国が一桁%で連なっている事実である。

GDP分布、つまり実態経済の分布では米国は2位の中国との差は2倍しか離れておらず、米国一強の時代はとうに終わっている。

しかしながら資本市場の分布においては未だに極端なアメリカ一極集中であり、その他の国は全て極小のロングテールをなしているのだ。

米国のVCは、毎年数兆円という単位でスタートアップに湯水のように莫大な資金を投じているが、そのお金をがぶっと呑みこんでおつりを返す(投資家にリターンを返す)事が出来る巨大な市場は、この世界で唯一の巨大市場である米国株式市場しかない事を示す、VCマネーと表裏一体の数値とも言えよう。

それについて実際データが教えるところは以下である。

米国では昨年 128社がIPOする事によって 450億ドル、つまり約4兆円強を調達している。

これに対して日本では、東証が自らのHPで公表しているとおり、昨年のIPO社数は29社でIPO時の資金調達額はわずか320億円である。

繰り返すが、東証で去年一年間のIPO全体でたったの320億円しか調達がなされていないのである。

これを1社あたり平均にしてみると、

日本のIPO時の資金調達額の平均は11億円米国は320億円、実に30倍以上の開きがある。

では東証マザーズが米NASDAQ並みに大きくなりさえすれば、日本に数兆円規模のスタートアップが生まれるのか?

否、もちろんそう単純な議論ではない。

そもそも企業の価値(株式時価総額)は多少の山谷はあれど、長期的には収益力に収斂されるわけだから日本に収益力が高い企業がたくさん輩出されないかぎり日本の時価総額は高くならない。

(もちろん上場企業を増やせばある程度は市場の時価総額は増えるし、逆に新規上場を絞れば小さくなる。これは大きな問題で、後に論じる)

例えばFacebookが上場申請したときは既に利益で1千億円近くあった。

日本でIPO前にそんな巨大な収益規模を持ったスタートアップは過去一社も無いし、今後とも当面は出ないだろう。

とすれば、仮に十分な株式市場があろうが無かろうが、日本に今すぐ米国並みのメガスタートアップがたくさん誕生する事はありえないという事になる。

では、どう日本にメガスタートアップが生まれるか?

以下にもう少し詳しく見てみよう。

スタートアップの拡大再生産の歴史の結晶が、シリコンバレー

IPOでは、会社が資金調達を行う「公募」と同時に、「売出」も行う。

売出(うりだし)とは、創業者やVCなどの既存株主がそれまで保有していた持ち株を市場で売り出すことである。

例えば昨年上場したFacebookの場合、実に7000億円を超える巨額の資金が売出により創業者たちや幹部社員、そしてVCやエンジェル投資家のポケットに入った (ロックアップといって、一定期間売り出しが出来ないルールに該当する場合もあるので、多少の時差はあるが)。

この「売出」こそがまさに、スタートアップのエコシステムを形成するうえでの「ガソリン」となる。

一生かかっても使い切る事の出来ない大金がIPOによって一人や二人ではない複数の個人やVCの銀行口座に入る。

これらの人々はその金を、自分たちが経験したのと同じ事を数年後に再現するかもしれない現在のスタートアップ達に投じる。

問題はその歴史の長さである。

シリコンバレーの起源とされる8人の裏切り者によるフェアチャイルドセミコンダクターの設立は1957年である。

60年代には「世界最初のVC」と言われるアーサーロックがインテルに投資をして大成功に導いた。以来、70年代にはAppleやマイクロソフトに資金を投じてその上場で儲けた人たちは、その金を80年代にオラクルやサンに投じ、それを90年代にはネットスケープやYahooやAmazonに、2000年代にはGoogleやFacebookへ、といった具合に雪だるま式に富が連鎖してきた。
もちろんこれらのビッグネームはどれも「場外ホームラン級」であり、その他に無数のホームランやスマッシュヒットが存在する。
ここで重要な事は、このような大成功の規模も社数も、そしてそれにかかわる人々やVCの数も、世代を重ねるごとに幾何級数的に増えていくという点である。

一つの成功が100名の成功者を生み、彼らがシリアルアントレプレナーや投資家となってそれぞれがまた100個の成功を創出する、といった具合のネズミ算が半世紀続けば、いかに巨大な金と人材の蓄積がなされるかは想像にたやすい。

もちろん失敗もあるので、本当に乗数倍という計算にはならないが、一方でFacebookのIPOでは1,000人以上の億万長者が生まれたと言われている。(目論見書の株主名簿からの類推で、実際に売ったか・幾らで売れたかは正確ではないが)。

兎も角も、そのようなエコチェーン(有機的連鎖)の結果が、現在のシリコンバレーなのであり、ひいては米国の資本市場なのである。

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