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非営利組織としての自治体の可能性――『自治体のエネルギー戦略』インタビュー

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大野は二度死ぬ!? 2013年5月に出版された『自治体のエネルギー戦略――アメリカと東京』(岩波新書)の著者・大野輝之氏は、東京都による「ディーゼル車NO作戦」「キャップ&トレード制度導入」などを牽引された方だ。国による議論がなかなか進まないなか、なぜ東京都が革新的な環境政策をおしすすめることができたのか。自治体にはどんな可能性があるのかなど、環境エネルギー政策研究所の古屋将太氏、山下紀明氏によるインタビューをお送りする。(構成/金子昂)

東京都の革新的な施策

古屋 ぼくは大野さんの『自治体のエネルギー戦略――アメリカと東京』が出版されると聞いたときに、読む前から「これは必読書になるに違いない」と思っていました。というのも、環境政策にかんする書籍はたくさんありますが多くは政策や制度そのものの話が中心で、現場の人たちが何を考えているのか、どういうステークホルダーがいて、どんなプロセスを経て実現させたのかを書いている本はあまりないんですね。この本はそういったお話を書いてくださっている、かゆいところに手の届く本になっていると思いましたし、実際にそうでした。

まずは簡単に大野さんの経歴をお話いただけますか?

大野 ぼくは都庁で34年間仕事をしてきました。最初はいろいろなことをあれこれやっていたんだけど、中盤は都市計画・都市づくりの仕事に携わり、最後の15年間は環境にかんする仕事をしてきました。

最後の15年間は、まず前半に、ディーゼル規制の企画から実施までを、後半は気候変動対策をやりました。都庁で、新しい施策を作って実施するいい仕事ができたかな、と思っています。

古屋 東京という大都市で革新的な施策が実現できた理由がこの本には書かれていて、内容はもちろん、お書きになったこと自体にたいへん意義があるとぼくは思っています。

企業などのCO2排出量の上限(キャップ)を決め、その枠内におさめることのできた企業は超過削減量を売り出し、枠内におさめることのできなかった企業がその枠を取引(トレード)する、いわゆる「キャップ&トレード制度」を、東京都は2010年度から導入しています。残念ながら知らない人も多いと思うのですが、この制度は革新的で、かつ合理的な制度になっています。

どういった経緯でキャップ&トレード制度は導入されたのでしょうか?

大野 CO2はいろいろなところから出るため、なにから手をつけるのかを決めるのが難しいのですが、われわれはまず一番主要な排出源から、つまり大規模なビルや工場を対象にした制度を設計することにしました。

藪から棒にこの制度を導入したわけではなく、まず各主体に自発的に計画を作ってもらい、CO2の削減をボランタリィでやってもらう制度を作っています。このやり方にも一定の意味はあったのですが、都は2006年12月に、「2020年までに2000年比でCO2を25%削減する」という独自の目標を定めました。

この高い目標を達成するには、とてもじゃないけれどボランタリィでは達成できません。そこで環境にマインドのある企業や人がやるだけではなくて、みなに同じ削減義務を課して競争条件を同じにして、さらに自主的にも一層CO2を減らしてもらうような制度を作らなくちゃいけない。そこで提案したのがキャップ・アンド・トレード制度だったんですね。

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電力制度改革にむけて

古屋 キャップ・アンド・トレード制度を導入しようとしたときに、さまざまな「政策の壁」があり、それを崩す四つの力――「誤謬を正す政策論争の徹底」「地域に適した実効性のある仕組みの構築」「知と信頼のネットワークの形成」「スタッフ集団の力の蓄積」――があったとお書きになっています。

この本を読んでいて、当時すごく感動したことを思い出したのですが、一部の経済系ステークホルダーが恣意的に海外の専門家の発言を操作して反対キャンペーンを展開していて、東京都は、彼らが言及する海外の専門家の話を一次ソースまで掘り下げて調査し、経済系ステークホルダーの話が間違っていることを明らかにしていました。

多くの自治体はなかなか「誤謬を正す政策論争の徹底」ができません。なぜ東京都はできたのでしょうか?

大野 東京都の場合は、ディーゼル車排出ガス対策の経験もありました。あのときも「ディーゼル車は燃費が良いので地球温暖化対策の観点から推進すべきだ」という意見もありました。しかし、日本のディーゼル車の排出ガス規制は、当時、欧米に比べてまったく遅れた水準にあった。このころは、仕事のなかでインターネットを使い始めた最初のころだったけども、欧米の規制の内容や、排ガス浄化技術の最新動向など海外の情報をどんどん収集して、発信し議論していきました。

さらにこの本に書きましたが、いろいろな組織からのサポートも大きかった。とくに海外の情報にかんしては、2007年に「キャップ&トレード制度」の旗をあげてからEUやNGOからコンタクトがあり、海外にネットワークを広げることができ、有用な情報を手に入れることができたんです。

別に東京都だからできたわけではないと思います。いまはインターネットがあるので、それを活かせばいい。ぼくが係長だった昭和60年代なんて、海外の情報を手に入れられるのは、各国に大使館などをおいている中央政府の特権みたいなところがあったんですよ。地方自治体は、ただ中央政府が言っていることを信じるしかなかった。でもインターネットの時代になって、そういう情報格差がなくなった。多くの自治体はこの可能性をもっと活かすべきですね。

「誤謬を正す政策論争の徹底」は、これから電力制度改革が正念場になるとき、同じようなキャンペーンが展開されるだろうと予想して、東京都の教訓を参考にしてほしい、という気持ちもあって書きました。

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国と地方自治体の違い

古屋 2007年に東京都の気候変動対策方針を読んだときの「これはすごいことが起きるぞ!」と思ったことをいまでも思い出します。

国の議論はいつもゆっくりで、逆流していることも多いなか、東京都はどんどん前に進もうとしていた。なぜ東京都は前進できたのか、そしてなぜ国の動きはこんなにも遅いのでしょうか。

大野 いろいろ理由はあると思いますが、地方自治体の場合、議会も含めて地域経済にいいことは、やっていこうという点で一致できます。都議会議員の皆さんも企業とのかかわりはありますが、経団連のなかの重厚長大産業のような勢力が大きな影響力を持っているわけではない。それに地域経済にとっていいことなんだとわかってもらえれば、ちゃんと手を組むことが出来るんですよ。

07年にキャップ・アンド・トレード導入のために、ステークホルダーを集めて会議をしたとき、経済団体はすべて反対していました。でも何度も何度も議論を重ねることで、東京商工会議所が賛成にまわってくれた。これが転機でしたね。そこから次のプロセスにいき、東京都と経済団体の共通の土台をつくることができ、みなが同じ方向を向くようになったんですね。

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