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ネットだけで議論して世の中は変えられるか~ハフポストはどこへ行く?

今年5月に日本版を開設したアメリカ最大級のニュースサイト「ザ・ハフィントン・ポスト(ハフポスト)」。その日本版サイトの編集長をつとめる松浦茂樹氏が7月16日、アカデミーヒルズで講演し、LINE株式会社執行役員の田端信太郎氏と対談した。

「団塊ジュニア層」を主要ターゲットにし、コメント欄を通じて「良質な言論空間を作る」。そのように宣言するハフポストは、どのようにして目標を実現しようとしているのだろうか。2人の対談から、今後のハフポストの方向性を探ってみたい。【取材・構成:渡辺一樹】

(左から)田端氏、松浦氏
(左から)田端氏、松浦氏 写真一覧

ハフポストは誰の声を代弁しようとしている?

田端:ひとくちに団塊ジュニアといっても、男も女も、学歴もさまざまです。例えば少子化問題では、都市に住んでいる高学歴・高収入の女性にもっと子どもを産んでもらおうと思えば、シンガポールや香港みたいに移民のメイドさんに来てもらった方が効果的かもしれないですよね。

でも、日本のメディアはこれまで、「だから移民OKにすべきだ」という風には、なかなか言い切ってこなかった。この点はハフポストに期待する部分でもあるのですが、そういう部分には踏み込んでいきますか?

松浦:踏み込んでいきますよ。移民問題も扱います。団塊ジュニアというのはあくまで「大きな的の中心」でしかありません。ポイントを絞って、影響力がある人に向けた発信をしていこうとしています。

田端:日本の大手メディアは立ち位置をあまり明確にしませんが、みんなの声を等しく代弁するというのは不可能で、偽善でしょう。団塊ジュニアのどういう人の意見を代弁しようとしているのですか?

松浦:こちら側で一方的に争点を設定するのではなく、みなさんが抱えている課題を、最大公約数で捉えようとしています。まずは問題をどんどん投げかけて、ユーザーの声を集めてくるような形をとりたいですね。その反応を見て、方向を決めるというスタイルになるでしょう。

5月に行われたローンチイベント。
5月に行われたローンチイベント。 写真一覧

コメント欄で世の中は変えられるのか?

田端:ハフポストでは「良質な言論空間」を掲げ、コメント欄をすごく重視して、わざわざ手間をかけて編集しているようですが、コメント欄がなぜそんなに大事なのですか?

リスクをとって問題提起をするのは、明らかに、最初に記事を書いている側です。コメント欄で騒ぐ人が背負うリスクは、執筆者よりもはるかに少ない。記事に乗っかって、安全地帯から行うコメントで、世の中の方向性を変えられますか?

松浦:確かに、単に記事の下にコメントが並んでいるだけでは、次の動きにつながるかというと疑問ですね。それだけでは、他のニュースメディアと何ら変わらないでしょう。

ハフポストは他のメディアと比べて、コミュニティのプラットフォームという部分が強いと思っています。記事が主というのはその通りなのですが、コメントは批判も含めてそれを補足し、盛り上げるために機能しています。集まってきた意見を抽出し、可視化して提示することも、ハフポストがメディアとして果たす役割の一つです。

田端:いま、コミュニティという言葉が出ました。コミュニティって、所属すること自体が目的の、居場所的な意味合いもありますよね。連帯感を味わいたいだけなら、コメント欄でぬるいやり取りをしているだけで十分です。参加者にとって居心地の良いコミュニティであることと、世の中を変えるメディアを目指すことの間には、矛盾する部分があると思います。

例えば、みんな楽しく野球をする草野球チームも大事ですが、それは本気でメジャーリーグを目指すというのとは全く違いますよね。ハフポストでは、強権発動で議論に相応しくない人を追い出すこともあるのでしょうか。

松浦:それはあってしかるべきでしょう。コメント欄はディベートの場だと考えています。ディベートの成立を妨げる人に退場してもらうことは、現実世界でもあるでしょう。

ハフポストでは議論の場を成立させるため、コメントはすべて事前チェックで確認していて、それを「空間の編集」と呼んでいます。あえてぬるい場を作る時もあるし、きつめの場を作る時もありますが、日本では現状、コメントが掲載されるためのハードルはアメリカよりも高いですね。

田端:そうなってくると、あまりコミュニティっぽくはないのでは?

松浦:口コミサイトのようなCGM(消費者生成メディア)を見ると、少数のコアユーザーから広がっていく部分がある。僕はどちらかというと、そちらの視点で見ています。ハフポストでは、今やっとコアユーザーが固まりつつあります。あとは、そこに周辺クラスタができあがれば……という段階ですね。

田端:ネットだけでギャーギャー議論して、それで世の中は変わるんですかね?

松浦:そこは変わると言い切りますよ。我々の根本に関わる部分ですからね。変わるように頑張ります。でも「ネットだけで」とは言わない。長い目ではリアルも大事になってくると思います。ラジオなどを見ても、長寿番組はリスナーとの接点を作るのが上手いです。ハフポストも、ユーザーやブロガーを呼んで、リアルに討論をする場の形成もしていきたいですね。

プロフィール

松浦茂樹(まつうら・しげき)
ザ・ハフィントン・ポスト日本版編集長。
1974年北海道札幌市生まれ。東京理科大学工学部経営工学科卒業後、大手自動車会社の宇宙開発事業部にて人工衛星のシステムエンジニアとしてキャリアスタート。その後ライブドアではポータルサイトの統括、コンデナストで日本版「WIRED」のウェブエディター、グリーで「GREEニュース」などを担当。2013年3月より現職。

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田端信太郎(たばた・しんたろう)
LINE株式会社執行役員広告事業グループ長。
NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げ、R25創刊後は広告営業の責任者を務める。その後、ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後には執行役員メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、BLOGOSなどを立ち上げる。2010年春からコンデナスト・デジタルへ。VOGUE、GQJAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年6月NHNJapan株式会社執行役員広告事業グループ長に就任。livedoor、NAVERまとめ、LINEなどの広告営業を担当。

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