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江戸の仇は長崎で・・・か。

29日付けの日経の法務面に掲載された「内閣府の消費者委員会が消費者契約法の改正に向けた論点整理案をまとめた」というニュース*1

記事の中にメインで掲載されているのが、専ら「ネット取引に関する消費者保護ルールの整備」だったこともあり、一瞬読み流してしまいそうになったのだが、「約款規制」というフレーズを見かけて、待てよ・・・と、内閣府のサイトを検索してみることにした。

それで見つけたのが、「「消費者契約法に関する調査作業チーム報告書」概要」(http://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2013/126/doc/126_130716_shiryou1-1_.pdf)なる資料である。

ところどころに微笑ましいイラストが盛り込まれていたりするなど、この手の資料にしては、何となく凝ったつくりのこの「概要」。

本論の書き出しから、「消費者契約法の人的・物的適用範囲」について丹念に論じられるなど、現在の消費者契約法の大胆なリフォームを意識した野心的なレポートであるのは間違いない。

・・・で、気になるのはやはり、「約款規制」のくだりである。掲載箇所は、この概要の5ページから7ページ。

まず、問題提起としては、

「約款の有する隠蔽効果がもたらす当事者意思の希薄化と合意による正当性保障の欠如に対して、何らかの手当が必要ではないかという意見は少なくない。約款問題は、消費者契約に限られない問題を含んでおり、少なくとも通則的規定は民法典に規定されるとしても、個別の補完が必要な場面では消費者契約法に規律を設けることが望ましく、その点についてさらに検討すべきではないか。」(5頁)


というところで、ここまでは一般論としては分からなくはない。

だが、この後に続く「具体的検討課題」を見て、自分はかなりの既視感に襲われた・・・。

(1)約款が契約内容となるためのいわゆる組入れの要件および効果を定める規定を設けることを検討してはどうか。

(2)「不意打ち条項」については契約内容として効力を有しないとする規定を設けることを検討してはどうか。

(3)約款中の条項や実質交渉を経ていない条項の解釈準則について、消費者の合理的な期待や理解の扱いを定める規定を設けることを検討してはどうか。

(4)契約条項の定め方について、消費者契約法3条1項を改め、努力義務ではなく義務とする規定を設けることを検討してはどうか。


(1)~(3)については、債権法改正の審議の中で提案されていた約款に関する各項目とほぼ同じ(もちろん、(1)の前提として、「約款の定義」の問題にも言及されている)。

しかも、「組入要件」について、

「(ア)約款によるという点についての消費者の同意・意思が鍵であること、(イ)「約款による意思」の前提として約款の特定や消費者の認識をどこまで確保するべきか、またそのために事業者にどのような行動が求められるかという問題として「開示」をとらえること、(ウ)消費者契約における約款の場合、約款の冊子を交付されても消費者はそれを読み、吟味して判断するのが困難である点に問題がある。したがって、「開示」があれば当然にすべて契約内容となるというものではなく、契約締結意思を左右する重要な条項については、個別の条項や内容についての明確な注意喚起や説明が必要である。」(6頁)


と、単なる「開示」を超えた個別条項についての“注意喚起”や“説明”にまで言及するなど、内容についてはさらに踏み込んでいる感もある。

冷静に考えれば、債権法改正の部会資料の内容にも、こちらの検討のメンバーと層的には重なる民法の先生方がコミットされているのだから、当たり前、と言えば当たり前なのだが、「債権法改正」という土俵上で、約款に関する規定の要否について、“がっぷり四つ”の争いが繰り広げられる中、消費者契約法の領域で上記のような提案が出てきている、ということを目にしてしまうと、なんだか力が抜けてしまうわけで・・・。

また、債権法改正の分野では、既に姿を消しつつある上記(3)の「解釈準則」にしても、こちらでは、

「端的に条項使用者の相手方や消費者に有利な解釈による、というのではなく、約款中の条項や個別に交渉されていない条項の意味について疑義が存する場合においては、その意味は、その条項が事業者によって提示されたことを踏まえ、消費者の利益を顧慮して解釈するものとする旨の規定を設けることも考えられる。」 (7頁)



と、堂々の検討項目になっている。

「概要」の書きぶりを見れば明らかなとおり、ここでの提案は、あくまで、「約款一般について民法に規定が設けられた場合」をも想定してなされているものであるから、債権法改正の帰趨が、今後の消費者契約法の議論全てに影響を与えるものではない、というべきなのだろうが、法制審部会を舞台に長々と繰り広げられている議論が、場所を変えてまたここで一から繰り返されることの不毛さを考えると、債権法改正の枠の中でさっさと妥協してしまった方が良いのでは?と考える利害関係者が出てきても不思議はないだろう。

正直、債権法改正の議論の中で、「約款規制」の問題がこの先どう扱われていくことになるのか、現時点では全く見通しが立たないところではあるのだが、個人的には、そこで議論が尽くされた結果、約款に関する規定を設けるのは適切でない、という判断が仮になされるのであれば、消費者契約法改正の議論において、「江戸の仇を長崎で」的な仕打ちを事業者側に対して行うようなことは避けられるべきだし、逆に、「長崎で仇を討たれるリスク」を前面に出して債権法改正の議論における「妥協」を事業者側に迫るようなことも断じてなされるべきではない、と思うのであるが・・・。

他にも、「契約内容の適正化」として、これまた債権法改正議論から消えた「グレイ・リスト」明記の提案、それも比較的抽象的な文言でのリスト作成を志向するような提案がなされるなど(15~16頁)、事業者側の視点で見ると、いろいろと思うところが多いこの「概要」。

この先、どういう形で議論が深められていくのか、は分からないが、法改正が実務の混乱を招き、かえって消費者にとっての不利益につながった、などということにならないように、ここは是非、一面的な物の視方にとらわれない、慎重な議論をお願いしたいところである。

*1:日本経済新聞2013年7月29日付け朝刊・第17面。

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