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「刑務所に入る障害者」たちに見る、加害者の持つ「被害者性」

累犯障害者問題について扱ったノンフィクション。長崎新聞の取材チームが丹念に記した名品です。累犯障害者問題については、以前別の記事でまとめています。

前科44犯の障害者。マスメディアが隠蔽する「触法障害者」問題を知っていますか – ihayato.書店 | ihayato.書店

加害者は被害者でもある

なかでも印象的なのは、「獄窓記」「累犯障害者」を記し、この問題を世に投げかけた当人である山本譲二さんのインタビュー。

私自身、服役するときは、刑務所の中にはどんな悪党がいるのかと戦々恐々としていたが、実際は障害のある人で溢れていた。刑務所が福祉の代替施設になってしまっていたのだ。

『獄窓記』や『累犯障害者』を出版するたび、福祉関係者から「まずは被害者になる障害者のことを書きなさい」と言われたが、もしかしたら彼ら塀の中の障害者は、「社会に居場所がないがゆえに受刑者に成り果ててしまった」という意味で、世の中における最大の被害者かもしれない。社会からもっとも排除される人たちだ。

「累犯障害者」問題においては、本来掛かるべき福祉の網から漏れ、社会から排除された結果、「生きるために」犯罪に手を出してしまった障害者たちの存在が語られます。驚くべきことに、さい銭泥棒や無銭飲食、万引きを繰り返した結果、人生で44回、刑務所に入った障害者もいるのです。

彼らは表層だけ見れば「加害者」ですが、内実を詳しく見れば、文句なしの「被害者」です。「犯罪者」というるレッテルを貼って社会から排除してしまうと、その被害者性を見落とすことになります。

この種の「加害者が、実は何らかの被害者でもある」という状況は、累犯障害者問題に限らず、多様な場面で見受けられるものです。

たとえば職場にいるめんどくさい上司。何をやっても部下を叱責するばかりで、人望はゼロ。部下をいじめるのが趣味だとしか思えない。

たとえばネットで誹謗中傷を繰り返す匿名アカウント。特定のユーザーに長年粘着し、あることないこと流布します。業務妨害で訴えてもおかしくないレベル。

たとえばいじめを繰り返す子ども。ターゲットの子どもを執拗に攻撃し、学校に来れなくすることに力を注ぐ。ターゲットが自殺してしまえばいい、とすら願っている。

彼らのような加害者は、得てして、何らかの被害者でもあります。

ぼくに「死ね」「消えろ」などと絡んでくる匿名アカウントの方々なんかも、プロフィールとツイートをよく見ると、何らかのストレスで心を病んで療養中であることがわかったりします。

なんだかヒロイックで気持ちわるいですが、そういうときは甘んじて彼らの攻撃を受け入れるようにしています。その攻撃は、彼らにとって何らかの癒しにもなっているのでしょうし。

終身刑受刑者の更生プログラムを描いた名著「ライファーズ」でも、同様に加害者の持つ被害者性と、それに気づくことの重要性が指摘されています。

「ヤク中」「犯罪者」「極悪人」というレッテルを貼られたレジデントたちの多くが、実はかつての「被害者」だったわけだが、フアンを含むレジデントのたちの多くが、それを認めたり、人に知られたりすることに、強い抵抗感を抱くからである。

アリス・ミラーも指摘しているように、辛い記憶に蓋をして、被害自体をなかったことにしたり、自分のためを思って親は自分を殴ってくれたと歪んだ解釈をしたり、もしくは子ども時代を完全に美化して生き延びている人がいかに多いか。

リンク先を見る ライファーズ 罪に向きあう
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坂上 香
みすず書房
2012-08-21

被害者性があるからといって、加害者の罪が帳消しになるとは思いません。が、少なくとも加害者が今後の人生をより良く生きていくために、被害者性についての何らかの配慮は必要でしょう。

累犯障害者問題は、まさにそうした配慮の欠如によって生まれた悲劇です。誰かが罪を犯した障害者たちの被害者性に気づき、何らかのケアを提供していれば、犯罪を繰り返すこともなかったでしょう。

日々、重罪を犯した人たちのニュースが飛び交っています。そこでは加害者の持つ被害者性がピックアップされることは、ほとんどありません。メディアに期待するのも不毛ですから、ぼくら市民は加害者を見る際に、逐一彼らの被害者性について、逡巡する必要があるのでしょう。

というわけで、累犯障害者問題というのは、日本的な社会がもたらす悲劇の典型だと思います。ぜひ多くの方に手に取ってもらいたい書籍です。

リンク先を見る 居場所を探して―累犯障害者たち
posted with ヨメレバ
長崎新聞社「累犯障害者問題取材班」
長崎新聞社
2012-11
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Kindle 楽天ブックス

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