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徴兵制で現代戦は戦えない

戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies, CSIS)が、中国軍についての報告書を発表しました。各国の防衛白書やレポートを踏まえた詳細なもので、大変信頼性の高いものです。国家航空宇宙情報センター(NASIC)が発表した弾道ミサイルに関するレポートのような直近の分析も反映されているので、網羅的に各軍の分析・評価を確認できる最新の資料となっていますね。

そんな中で興味を惹いたのは、マンパワー(人的資源)に関する人民解放軍海軍(PLAN)の変化についての部分でした。数字で見ると、1985年には35万5,000人いたPLANは、2013年には21万5千人まで人員を削減しています。数百万の民兵がいたりするので、「中国といえば人海戦術」というようなイメージがあるかもしれませんが、質より量を重んじる固陋な考えは、もはや人民解放軍にはありません。確かに、現在も徴兵の制度自体は残っています。しかし、人民解放軍は志願兵だけで定員が満たされていて、徴兵制は実際のところ名ばかりのものとなっています。

現代戦は、徴兵で集めて数年訓練しただけの新兵をじゃぶじゃぶ前線に送り出せば押し切れるようなものではなく、高度に専門的な技術や経験を積んだ職業軍人でないと務まるものではありません。PLANでも当然その認識があり、人員の訓練システム構築に多大な投資をしていることが報告されています。以下はPLANの人材育成についての記述です。

Chinese Military Modernization and Force Development: A Western Perspective (2013/7/25 CSIS)170ページ。

The requirements of fighting Local Wars under Conditions of Informatization and of using modern naval systems generate the need for high human capital within the PLAN. As a result, the PLAN has significantly reduced its manpower since 1985 and has initiated a campaign to develop a professional naval force. In addition, it has augmented investments in its human capital with military exercises and long-distance deployments. Figure 8.13 shows the historical manpower of the PLAN.

The PLAN‘s efforts to develop a professional force rest on three pillars: professional NCOs, academically-qualified officers, and improved advancement and educational opportunities for currently-serving enlisted personnel. Since 1999, the PLAN has reduced the conscription obligation from four to two years, while doubling the maximum years of service for NCOs from 15 to 30. Furthermore, now NCOs are taking over many of the shipboard jobs previously performed by officers or conscripts. The number of officers is shrinking as the PLAN aims to attract fewer but more qualified personnel. In order to realize these efforts, the PLAN has expanded reserve officer academic scholarships, increased technical training in the fleet, and targeted higher degree holders for officer positions. Regarding opportunities for currently serving personnel, the PLAN has developed on-the-job, short-term, and on-line training programs.

The PLAN has also utilized military exercises and deployments to measure and improve the leadership and combat skills of its personnel. Over the last decade, military exercises have become more realistic and integrated opposition forces. At least once a year, each fleet undertakes a major fleet-level exercise, and there are occasional multi-fleet exercises.


まず、“「ハイテク条件下の局地戦」で想定されるような現代の海戦においては、高いレベルの人的資本が求められる”と言及されています。事実、1985年以降、PLANは人員を大きく削減し、プロフェッショナルな海軍力の発展へと努めてきました。人員(コスト増の源)の数を減らす代わりに、質の向上を図ることに集中しているわけですね。

人材育成の三本柱として、(1)プロフェッショナルな下士官、(2)高学歴将校、(3)兵士への先進的教育機会を挙げ、これらのレベルアップを目指しています。徴兵(義務兵と呼ばれる)に依存するような体質でないことは明確で、1999年以降、PLANは徴兵義務期間を4年から2年へと減らしました。一方、士官は期間に分けて現役に服する制度となっており、第一、二期はそれぞれ3年間、第三、四期はそれぞれ4年間、第五期は5年間、第六期は9年以上と、約30年となっています。

さらには、予備役将校への奨学金制度の拡充、艦隊における技術訓練機会の増加、高学歴士官候補生の発掘、短期間の職場内オンライン訓練プログラムの実施等々、軍隊をプロフェッショナルな組織として育て上げる体制を築きつつあります。

日本では、自衛隊も徴兵制を採用すべし!という意見があります。しかし、尖閣有事などで、素人をプロフェッショナル集団にぶつけたところでまるで勝負にはなりません。現代戦における専門性の有無と練度の差は、根性なんぞで超えたり埋めたりできる類のものではありません。精神教育の場として自衛隊を使うなんて話は論外ですし。

他方、日本で徴兵制を導入するのは軍国主義復活で言語道断だぁ!と力んでしまう人たちも、まあ落ち着きましょう。自衛隊は志願倍率が高い(平成25年国防白書)ので、徴兵制を敷いて莫大な訓練費用をかける必要性などないんです。限られた予算を数年で入れ替わる新人に投資するのは効率的でなく、自衛隊の戦力向上に寄与するものでもないですから、徴兵制は自衛隊の方から願い下げでしょう。

石破茂自民党幹事長も日本に徴兵制は要らないと明言しておられます。

私は現在の日本において徴兵制をとるべきではないと考えています。
陸・海・空とも現在の自衛隊は複雑かつ精密なコンピューターの塊のような装備・システムで運用されており、適切な人員で相当に高い錬度を維持しなければその能力を発揮することは不可能です。

徴兵制、「新党」について(2010/3/12 石破 茂オフィシャルブログ)


日本と偶発的武力衝突の危険性をはらんでいる中国が、兵士の専門性や技術力を高めて質の向上を図ろうとする時勢です。これに対する我が国の方策が徴兵制でないことは明らかではないでしょうか。

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