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参院選で問うべき人口減少・少子化問題:「出生率至上主義」から脱却しよう!

 人口減少・少子化問題については、これまでにも何度も述べてきました。その主旨は、

 出生率の上下ばかりに注目した「出生率至上主義」とも言うべき議論は、「出生率が上昇すれば(具体的には、人口置換水準である2.07を上回れば)人口の減少は止まり増加に転じる」という誤解を生じさせ易いものである。
 
 出生数の増減は、当然ながら、出生率の上下だけでなく出産適齢期世代の人口の増減にも左右されるものである。40年ほど前から始まった出生率の低下と、その結果として20数年前から始まった出産適齢期世代人口の減少(そして急速に進む高齢者人口の増加)という長期的・構造的な変化を考えれば、出生率が大幅に上昇しても(たとえ直ちに2.07を上回ったとしても)、少なくとも今後数十年間は人口減少が確実に進む。したがって、人口減少を前提とした政策や対応を早急に考え実行しなければならない。

というものです。
 
 人口減少・少子化問題は、これからの国や地域のあり方に直接関わる問題であり、現在公示されている参院選においても、重要な争点としてしっかり議論すべきものです。しかし、昨日(7月15日)の朝日新聞でも採り上げられていますように、各党とも、抜本的な対策を打ち出せてはいないようです。

 なぜでしょうか?各党の政策をそれぞれ検証したわけではありませんが、共通する大きな理由として、「少子化対策=人口減少対策=出生率対策」という、正に前述した「出生率至上主義」に各政党の担当者が囚われてしまっていることがあるように思えてなりません。また、政党だけでなく、多くのマスコミの担当者も「出生率至上主義」から脱却できていないところに問題の根深さがあるように思います。

 例えば、朝日新聞を例に上げれば(※他の新聞も同様のようですが、一例として採り上げます)、今年の6月5日に厚生労働省が公表した平成24年の人口動態統計の概況について翌日に報じた記事の中で、「合計特殊出生率」について、「人口が維持できる水準とされる2.07と比べることで、人口が長期的に増えるか減るかを見る目安になる」と説明しています。また、同日の別面の記事では「人口規模を維持するのに必要とされる2.07を大きく下回り、このままでは人口が減り続けることは避けられない」と述べています。
 

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※平成25年6月6日朝日新聞記事(1面)※赤線は筆者

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※同(3面)

 この説明箇所は明らかに間違い、もしくは誤解を招く記述です。なぜなら、冒頭述べましたように、直ちに出生率が2.07を上回ったとしても、減少幅が少し緩やかになるだけで、当面、人口減少は止まらないからです。そのため、2.07と比較しても人口の増減を見る目安にはほとんどなりませんし、出生率の上下に関わらず、少なくとも数十年間は人口が減り続けるというのが事実上の「規定路線」なのです。

 前述の昨日の朝日新聞記事にも出生率のグラフが掲載されていますが、出生率ばかりに注目するために、このような誤解が生じてしまいます。大きく2つ理由があると思います。

 一つ目は、出生率を算出する際の分母である出産適齢期世代の人口の推移を見落としてしまうことです。言うまでも無く、出生率が上がったとしても、出産適齢期世代の人口が大幅に減れば、出生数はなかなか増えません。

 理由の二つ目は、人口を維持できる水準、つまり人口置換水準が指す「人口」とは、あくまでも出産適齢期世代の人口です。ですから、出生率が2.07となったとしても、より人口が多い高齢者の世代を維持するには十分な水準ではないのです。

 前述の6月5日に厚生労働省が公表した資料によれば、15歳から49歳の女性人口は最多で平成元年に約3118万人だったのが、平成24年には約2614万人と5百万人以上減っているのです。今後も暫くはそうした出産適齢期世代が減少する一方、高齢者は更に増加するのですから、出生率が多少上昇したとしても、人口増に転じさせることは当面不可能なのです。

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※厚生労働省「平成24年人口動態統計月報年計(概数)の概況」51ページ

 ですから、「出生率至上主義」、つまり、「少子化対策=人口減少対策=出生率対策」という考え方に囚われた昨今の対策が大きな効果を上げるはずも無く、故に、今回の参院選でも抜本的な対策や提案が示されていないことにつながっているのだと思います。

 従って、まずは「出生率至上主義」から脱却し、当面は人口減少が続くという現実を、今後の政策を考える上での大前提として受け入れることが不可欠なのです。

 実は、民主党政権では、そうした方向で政策を打ち出そうとしていました。例えば、国土交通省の国土審議会政策部会の中に長期展望委員会が設けられ、平成23年2月22日には「「国土の長期展望」中間取りまとめ」を作成しました。

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※国土交通省政策部会長期展望委員会「「国土の長期展望」中間取りまとめ」より抜粋

 「中間取りまとめ」は、少子化対策の優等生であるフランスが出生率を回復させたのと同じペースでこれから出生率を回復させたとしても、2100年頃の人口は今から4千万人減の約88百万人になるという推計を行なうなど、これまでにない取り組みでした。しかしながら、その翌月に東日本大震災が発生したことが大きく影響し、更に議論が深まることはありませんでした。

 参院選も残り僅かです。今こそ、「出生率至上主義」から脱却し「人口減少社会」を大前提とした政策を打ち出すべきですし、そうした政策に取り組んでいく政党を、私達は支持すべきだと考えます。

 お読み下さり、ありがとうございます。

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