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孤独なニュータウンの近未来――もし、アメリカの後を追いかけているとしたら

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地方にこもる若者たち 都会と田舎の間に出現した新しい社会 (朝日新書)

  • 作者: 阿部真大
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2013/06/13
  • メディア: 新書

 生活環境を語るアングルとして「都市」「地方」という二分法が有効だった時代が過去のものとなり、中核都市でも過疎地域でもない「郊外」が台頭してきて、数十年が経ちました。全国一律な国道沿いの風景――いわゆるファスト風土――の成立も相まって、郊外に造成されたニュータウンは、日本人の新たな故郷、そして標準的な生活空間になりつつあります。

 昭和時代のニュータウンは、地域のしがらみから開放された自由な新環境で、そうした自由を多くの人が夢見ていました。もちろん「マイホームを持ちたい」という夢は、ダイワハウスや積水ハウスのような住宅業者、鉄道沿線の宅地開発に関わった業者によって“煽られた”夢ですが、そうした“煽り”が成功するだけの余地や潜在的ニーズがあったからこそ、人々は長大なローンを組み、埼玉県・神奈川県・千葉県といった地域に、広大なニュータウンを成立せしめたのでしょう。

 しかし、生まれながらニュータウンに育ち、幼い頃からジャスコやヤマダ電機に通っていた世代にとって、ニュータウンとは夢でもなんでもない、所与の生活環境です。彼らにとって、ニュータウンの自由とは求めて獲得したものではなく、生まれながらに与えられたものでした。生まれながらに与えられたからこそ、新しい世代にはニュータウンに即した社会適応のかたちと精神病理が育まれ、ニュータウンで育たなかった世代にはみられない運動や葛藤が生じてもいます。冒頭で紹介した『地方にこもる若者たち』は、そうしたロードサイドの新世代の社会適応にアプローチした書籍でした。

 では、この自由きわまりない、しがらみの希薄なニュータウンの暮らしはどうなっていくのか?このテーマについて参考になりそうなアメリカの本を読み、思うところがあったので、自分の頭を整理する一助としてここにまとめておきます。

日本より先に進行したアメリカの郊外化・ニュータウン化


 アメリカ合衆国は、昔から自由の国といわれてきました。そのアメリカが歴史的に培ってきた自由と、ニュータウンの自由とは、似ても似つかない何かです。19世紀のフランス人、アレクシス・ド・トクヴィルは、

 アメリカ人は全ての年代で、生活の中の至る所で、そしてどんな傾向を持っていても、ずっと組織を形成し続けている。それは、全ての者が参加している商工業組織に限らず、その他無数の種類がある――宗教的、道徳的、真面目な、あるいはどうでもよい類のもの、非常に幅広いものもあれば、非常に狭いものもあり、巨大なものもあれば、非常に小さいのもある……私の見たところでは、米国では、知的、道徳的組織が最も注目を集めているようである。

 トクヴィル『アメリカの民主主義』*1

 と評しています。トクヴィルが見たアメリカの民主主義、そしてアメリカ人の自由の姿とは、「個々人が積極的にコミュニティやインフォーマルな組織に参加し、その活動を介して社会を耕していく」ものでした。こうした草の根レベルのコミュニティ参加は、しがらみや面倒、意見や利害の対立や調整を伴う営みですから、ニュータウンの自由を特徴づける「しがらみや摩擦を最小化しながら、自分の好きなことだけやって過ごす」とは全く異なります。旧来の日本の地域社会のような、強制的な共同体参加とも違っているのは言うまでもありません。

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孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生

  • 作者: ロバート・D.パットナム,Robert D. Putnam,柴内康文
  • 出版社/メーカー: 柏書房
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 単行本

 ところが1960年代以降、伝統的なアメリカの自由が変質してきているというのです。アメリカの政治学者、ロバート・D・パットナムは『孤独なボウリング』のなかで、アメリカ人のコミュニティ参加は減少の一途を辿り、孤独になってきていると指摘しました。パットナムは膨大なデータを提示しながら、そうなっていった背景として1.電子メディア*2の普及、そして2.郊外化に着眼します。

 民族誌学者のM.P.バウムガードナーがニュージャージーの郊外コミュニティに住んでいたとき、彼女が見出したのは1950年代の古き郊外に起因する強迫的な連帯感よりも、細分化した孤立、自主規制、そして「道徳的最小主義」の文化だった。郊外の特徴というのは小さな街のつながりを求めるのではなく、内側に閉じこもり、近所に何も求めず、お返しも何も期待しないというものだった。「郊外とは、最新型の私事化(プライバタイゼーション)であり、その致死的な完成形ですらある」と、都市建築かのアンドレス・デュアニーとエリザベス・プラター-ザイバークは論じる。「そして、それは伝統的な市民生活の終焉をもたらす」、と。

 パットナム『孤独なボウリング』P254-255より抜粋

 アメリカは日本に先んじてモータリゼーションを完遂し、いち早く郊外化・ニュータウン化を成し遂げた国でもあります。『孤独なボウリング』中、郊外に触れたパートには、ハイウェイ、長距離通勤、巨大ショッピングモール、スプロール現象といったおなじみの言葉が並んでいますが、これらも世界に先駆けてアメリカにおいて進行したものでした。 ここに書かれている郊外化の特徴は、日本のニュータウンにありがちな「しがらみのない自由」によく似ています。

 私事化が進行し、社会との接点が乏しくなっていけば、人間関係にまつわる摩擦や抑圧からは解放されます。そのかわり、しがらみにかわって孤独が、安心にかわって不安が、信頼にかわって猜疑心が首をもたげやすくなります。インフォーマルな社会的繋がりやコネクションの乏しい社会になった、ということでもあります。“ちょっと顔が利く”程度の人間関係でさえ、仕事の斡旋、友人の紹介、感情の共有といったメリットを生じ得るものですが、郊外のニュータウンでは、そうしたメリットも最小化され、控えめに言っても、デフォルトの恩恵として誰もが与れるようなものではなくなりました。

 昨今、こうした“顔の利く人間関係”や人脈は社会関係資本(ソーシャルキャピタル)と呼ばれ、注目を集めています。日本でも、醤油や味噌を近所同士で貸し借りするような付き合いが珍しくありませんでしたが、これも立派な社会関係資本ですし、東日本大震災の際にみられたように、そうした関係が有事に思わぬ力を発揮することもあります。しかしニュータウンでは、しがらみや摩擦が最小化される代償として、まさにそうした社会関係資本が最小化されているのです。

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