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障がい者の自立した生き方を~乙武批判した車椅子ユーザーインタビュー

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(写真は本人から提供。取材は都内のホテルにて2013年7月14日実施)

「乙武氏以外に障がい者として情報発信する人が必要。乙武氏=障がい者代表という見方をするから、先日の騒動のようにおかしな方向に行ってしまう場合もあるのではないか」
そう語るのは、身体障害一級で車椅子ユーザーという立場から、乙武氏への批判を展開したブログを立ち上げ、ネット上で話題になった、まるみえ星人こと柴野恭兵さん(30歳)だ。

柴野さんは生まれつき障がいを持って生まれた。五体はあるが、手は使えない。足はあるが歩けない。それで車椅子を使っているのだが、足でパソコンのキーボードを打ったり、スマホを操作するなどして日常生活を送っている。

乙武氏批判をぶりかえすために、柴野さんにインタビューしようと思ったのではなく、乙武騒動をきっかけに、障がい者を取り巻く環境や、健常者がどう接したらよいかなど、今後のプラスになるような話を、障がい者の立場から話を聞きたいと思った。

「障がい者として生きる道は、おおざっぱに言うと2つあると思います。1つは、障がい者であることを“売り”にして生きること。もう1つは、健常者と同じように会社で働くこと。でも僕はそのどちらも違和感を覚えて違うと思った」と柴野さんは言う。

<その1:障がい者であることを“売り”にして生きることについて>


「『障がい者であることを武器にした方がいい』とアドバイスする人もいます。確かに障がい者アピールすれば、かわいそうだからという理由で、仕事をもらいやすくなることもあります。

でもそうすると、仕事の能力を正当に評価されなくなってしまう。仕事ができるから仕事をお願いされたんじゃなく、障がい者だから仕事を与えてやったんだみたいな。だから今は仕事をする時、別に隠すわけではありませんが、わざわざ障がい者であることを言わないようにしています」

柴野さんはこうした思いを子供の頃から何度となく感じていた。絵を描いたら、先生からほめられた。でもよくよく考えてみると、絵自体がうまいというより、「足で絵を描いたことがすごい!」ことがほめられていただけだった。それに気づいてヘコんだという。障がい者だからほめられているだけではないかと。でもそれは、障がい者にやさしいふりした逆差別ではないのかと。

「障がいを売りにすれば、障がい者だからという理由で、手助けしてくれる人は多くいます。もちろん、自分がどう努力してもできない、身体的な機能の欠損部分をサポートしてくれることはうれしい。でもあれもこれもやってくれるみたいな形になってしまうと、障がい者自身でできることがどんどん少なくなってしまう。

だから障がい者はきちんと分けて考えなくてはいけない。健常者とは違う身体的なハンデによって、自分がどうがんばってもできないことは、甘えていいと思うけど、自分でできることまで甘えてしまうのはよくない」

「だから乙武氏のツイートにそれは違うと思って批判ブログを書いたんです。予約の時に車椅子であることを言えよ!と。それは自分でできることなんだから」

<その2:健常者と同じように会社で働くことについて>


「健常者と同じ環境で会社で働くことも考えましたが、現実的な選択肢ではないとの結論に達しました。別に障がい者でなくても、健常者だって就職に苦労する時代。健常者だって就職できない人がいるのだから、障がい者で就職するのはもっと大変。そこに労力を使うのはもったいないのではないかと。

仮に就職できたとしても、障がい者ということで、責任ある仕事を任せてもらえたかったりする。もちろんそれでも健常者と同じ環境で、会社で働ければいいという考え方を否定するつもりはないが、僕はそれでは満足できない」

「それに会社側にとっても障がい者にとっても、費用対効果に見合わないのではないか。僕が会社で働くなら、キーボードは足でしか打てないので、健常者とは違う低いデスクを用意してもらわなければならない。トイレをはじめ、オフィスのあらゆる場所をバリアフリーにすれば、かなりのコストがかかってしまう。障がい者にしても会社に通勤する移動コストや労力は大変ですし。

『いや、それでも障がい者が健常者と同じように働けるようバリアフリーにすべきだ』ときれいごとを言う人はいるし、もちろんそうなればいいとは思うけど、ではそのコストを負担するために、自分の給与が安くなってもいいという人は、どのぐらいいるのでしょうか?自分の給与が下がってでも障がい者を雇いたい人は、現実には少数なのではないか。

あらゆる施設がバリアフリーになり、健常者と同じように何もかもが不便なくできるようになるのは、理想としては素晴らしいし、そうなればいいけど、目の前の現実がすぐに変わるわけではない。生まれた時から障がいがデフォルト(初期設定)だった僕にとっては、理想のバリアフリー環境にしてほしいと活動することに力を注ぐより、目の前の不便な現実にどう対処するかの方が重要だし、現実的な生き方だった。

そう考えると、苦労して障がい者が会社で働く必要があるのか、疑問に感じた。そこで、自分に何ができて、何ができないのかを徹底的に分析し、自分ができることにリソースを集中した方が効率がいいと考え、就職せずに個人で自宅でIT関係の仕事をすることにした」

「障がい者といってもいろんな障がいを持つ方がいて、人によって状況が違う。だからこそ自分の能力と現実の社会をマッチできる、生き方や働き方を戦略的に考えることが大切ではないか」

柴野さんの話を聞いていると、何も障がい者だけに限ったことではなく、あらゆる人に通ずる話ではないかと思った。なんとなく生きていたら、なんとなく生きれるかもしれない。でも甘えられるうちはいいが、なんとなくでは、厳しい現実が目の前に立ちはだかった時、自分で対処できなくなってしまう。

障がい者に限った話ではなく、一人一人が、自分に何ができて何ができないのかをしっかり分析し、ないものねだりではなく、今ある現実の社会の中で、どう自分が生きていくかを戦略的に考えることが重要なのではないかと思った。

また柴野さんの言うように、いろんな障がい者の方が情報発信した方がいいと思う。なぜなら「俺たちのことをわかってくれない」と嘆いたところで、社会的な少数派(マイノリティ)が自ら声をあげない限り、多数派は少数派の気持ちなどわかるわけがないのだ。

だからこそ、障がい者の味方のふりして、現実を考えずに、できもしない理想を振りかざして、いい人ぶっているだけで、実は障がい者の心を傷つけたりすることも起こる。

そのような意味で、自ら発信している乙武氏の功績は大きい。ただ乙武氏の言うことがすべて正しいわけでもなければ、いつも障がい者の多数の意見を代表しているとは限らない。だからこそいろんな障がい者の方の情報発信が増えれば、健常者の障がい者に対する理解も深まるのではないかと思う。

・まるみえ星人こと柴野さんのブログ
http://d.hatena.ne.jp/marumieseijin/

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