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一億総「非正規雇用」社会の到来

■「正社員」という肩書きは必要か?

 総務省が発表したところによると、2012年度の非正規労働者数は2000万人を超えたらしく、全労働者に占める割合も40%に迫る勢いであるらしい。
 この分だと、半数である50%を超えるのは時間の問題とも言えそうだが、そんな時代を迎えることになると、正規労働者(正社員)雇用という制度で成り立っていた企業年金制度なども、ほとんど機能しなくなるだろうことは想像に難くない。

 年金は国家公認の「ねずみ講」だと言われることがあるが、企業年金も、制度的には同じ「ねずみ講」のようなものでもある。年金制度は人口が増えていく前提で創られたものだが、企業年金制度というものも、正社員が増えていく(または維持される)ことを前提に創られたものであるので、このことは否定の仕様がない。

 年金制度は国がお金を刷って騙し騙し継続していくことは可能だが、企業年金となると、まさか企業がお金を刷るわけにはいかないので、年金制度のように破綻を先延ばしすることはできない。先延ばしするためには、景気が良くなり、企業業績が上がり、企業年金が適用される正社員数を維持していくしか方法が無く、日本に再度、高度経済成長時代でも訪れない限り、クリアするのは相当の難題だと言える。

 現代の日本では「正社員」という何時何時(いつなんどき)剥奪されるかも分からない肩書きを、まるで一生安泰に過ごせるパスポートだとでも思い込んでいる人々が大勢おり、半ば身分制度のようなものだという捉え方が一般化してしまっている感がある。
 現在、正社員として雇用されている人々も、勤めている企業の業績が低迷すれば、正社員という肩書きどころか、職を失い、収入すら失うリスクもある。無論、退職金や企業年金を満額得る機会も喪失するリスクも常に抱えているというのが、現代を生きる大部分の労働者が抱えた現実でもある。

 そんな不安定な社会で必要なことが、「正社員」という肩書きを手に入れることになっているというのは、どう考えても可笑しな風潮だと言える。喩えて言うなら、企業自体がタイタニック号のように事故で沈む可能性が高くなっている時代に、タイタニック号の乗車券を手に入れて最終目的地に到着したかのような錯覚に喜んでいるようなものだとも言える。

■最も優先順位の低い「正社員」という肩書き

 現代の労働者に対し、次のようなアンケートを取れば、どんな結果が出るだろうか?

 「あなたにとって最も必要なものは次のどれですか?

 1、「正社員」という肩書き
 2、どこの会社でも務まる「能力」
 3、一生暮らせる「お金」
 4、「景気」が良くなること

 このアンケートで「1」を選択する人がどれだけいるだろうか?
 私なら迷わず「2」か「3」を選択する。ハッキリ言って「1」などはどうでもいい。「1」を選ぶぐらいなら、アンケート項目にはないが「健康」を選ぶ。
 「2」の能力が有ったとしても、その能力を活かす仕事が無ければ話にならないので、労働者にとっては「4」も非常に重要になる。この「4」が政治経済的に叶えられないとなると「3」を望むしかなくなるが、「1」は現在勤めている企業でしか通用しないものなので、優先順位は必然的に最も低くなる。

 マクロ的に言えば、「景気」→「能力」→「お金」→「健康」→「正社員」という順番になると思う。
 「健康よりもお金の方が大事なのか?」という疑問は多いと思うが、この場合のお金というのは「最低限のお金」という意味である。ある程度のお金が無ければ、健康を維持することはできないし、その「ある程度のお金」も基本的に仕事が無ければ得ることができない。大金は必要なくとも、最低限のお金は必要だ。
 昔から「衣食住足りて礼節を知る」と言うように、「お金足りて健康を知る」とも言える。「健康であってこそ仕事ができる」というのは正論だが、その逆もまた然りである。

■労働者全員を非正社員にするという逆転の発想

 現代の多くの正社員サラリーマンは、仕事が忙しかろうが暇であろうが、時間通りに出勤し、有給休暇は実質無し、どれだけ仕事をしてもほとんど収入が変化しないという、どこか共産主義社会のような労働体系の中で過ごしている。そんな社会が継続可能であれば、それも良しかもしれないが、先程述べた企業年金と同様、そんな夢(悪夢?)のような制度が永遠に続くとは到底思えない。

 日本では、企業側が「正社員」という肩書きを労働者に与えるという行為は、その労働者がその企業にとって必要な人間(辞めてもらっては困る人間)という意味合いで与えられる称号のようなものとされており、長らくその制度は普遍的なものであると思われてきた。ゆえに、その身分を得ることに異常なまでの執着を燃やすことになるわけだが、本来、肩書きだけで食べていけるのは、今も封建制度の中で生きている公務員だけである。民間企業で働く労働者が「安定」というものを手に入れるために必要なことは「仕事をする能力」であって「肩書き」ではない。こんな当たり前のことが当たり前で無くなっているのが、現代の日本の労働環境である。

 景気が悪い(仕事が無い)から、仕方なく正社員という肩書きを追求するということなら、まだ筋が通るのだが、問題は景気の良し悪しとは無関係にそうなっているということである。

 率直に言えば、正社員制度というものが有るという前提で話を進めても、一向に何も変わらない(良くならない)のではないかと思う。既に4割近くもの労働者が正規雇用制度から外れており、今後もその割合が改善することなく拡大していくと仮定するならば、労働者全員を正社員にするよりも、むしろ労働者全員を非正社員にすることを考えた方が理に適っているような気もする。

 一応お断りしておくと、ここで述べていることは「下山の思想」ではない。「正規」や「非正規」などという言葉や区切りを無くし、もっと自由度の高い労働環境に移行した方が良いのではないかという単純な提案だ。学歴や年齢に拘るのは公務員の世界だけにして、民間企業はそういった制度から離脱し、“能力”や“やる気”という仕事をしていく上で最も必要なものを優先する雇用制度にした方が良いのではないか?という当たり前の話である。

 そんな当たり前のことができずに、俎上にも載せることができなくなっていることこそが、非正規労働論の最大の問題点なのだろうと思う。

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