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監査が杜撰(ずさん)だからこそ?発覚した経理担当者の横領事件

7月9日、広島県のウッドワン美術館は、経理担当の男性職員(41)が少なくとも約5000万円を着服したため5月20日付で懲戒解雇したことを公表しました(今後は刑事告訴の予定だそうです たとえば毎日新聞ニュースはこちら)。約10年間にわたり、経理担当者としての地位を利用して売上の一部を帳簿から消していたり、経費を実際よりも多めに計上していたとのこと。東証1部のウッドワン社の保有する美術品等を所蔵する地元では有名な美術館なのですね。

実際の入館者数と売上金額とが食い違っていたこと、予算と決算額にかい離が認められたことなどから、今年5月の理事会で疑惑が浮上し、その後社内調査によってこの経理担当者の会計不正が発覚したそうです。読売新聞ニュースによりますと、経理担当者は「監査がずさんだったため、ばれないと思った」と供述しているそうで、このような供述内容を知りますと、組織側としてもなんともかっこ悪いところかと。ちなみに美術館のトップの方々も理事会で辞任の意向を示されたそうです。

さて、こういった記事を読みますと、「監査がしっかりしていたら業務上横領事件は防げたのではないか、組織側の怠慢ではないか」との声が聞こえてきそうです。しかし不正調査の実務に携わる者として、ときどきこういった横領事件に遭遇するのですが、本当に監査がきちんとできていれば横領を発見できたかというと、それほど甘いものではないと思っています。

よく、クレッシーの法則である「不正のトライアングル」を引用して、動機、機会、正当化根拠がそろった場合に不正事件は発生するといわれます。本件にあてはめて考えますと、この経理担当者には、遊興費欲しさという「私利私欲のため」という動機があります。また、経理担当者という立場で、帳簿を勝手に書き換えることができる「機会」が存在します。さらに、報道によるとすでに被害額5000万円は返還しているとのことなので、「いつでも返そうと思えば返せる(これは一時的な流用なのだ)」という正当化根拠もそろっています。ということで、この経理担当者が横領行為に走る要件はそろっていたといえそうです。

では、監査がズサンだったという理由は、どのように事件の中で位置付ければよいのでしょうか。一見すると横領を行う「機会」が存在したことの要件として取り上げることが素直に思えてきます。しかし、私は「監査がズサンだった」というのは、むしろ手口が次第に大胆になっていったことの理由として位置付けるほうが妥当ではないかと推測します。こういった経理担当者の不正取得事件というのは、最初はとても小さな金額から始まります。少し様子をみてバレないと安心すると、次第に1回の不正取得の金額が増えてきます。そのうち1回10万円だった金額が、1回で100万円ほどの大胆な不正取得に変わります。おそらく、この一気に取得金額が高まるときの自分の犯行への言い訳として「監査がズサンだからバレない」と言い聞かせていたのではないでしょうか。

少し逆説的な言い方かもしれませんが、監査がしっかりしていたら、経理担当者のチョロチョロとした横領行為は今でもバレていないのかもしれません。決算書に潜む数字の不自然さは監査によっても感じることができなかった可能性があります。むしろ監査がズサンだったからこそ、彼は一気に横領額を増やしたのであり、また大胆になれたのであり、だからこそ理事会が違和感をもって不正調査を開始するに至ったのではないでしょうか。10年で5000万円とすると年500万円の着服があったと想像できますが、実はそうではなく、最初の1年はお小遣い程度だったのが、最近は年に着服額が1000万円以上に膨らんでいた・・・というのが結構リアルな実態ではないかと。こういった事案を読みますと、いつも「監査の限界」というものを感じるところです。

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