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Winny開発者の訃報

Winny開発者の金子勇氏の訃報に接した。
それを否定する情報はないので、事実なのだろう。

お会いしたことはなかったけれど、何という人生……

弔辞にかえて、
2004年5月24日の京都新聞に載せてもらった文章を再掲しておく。

少し言葉足らずなところや、
いまでは状況が変わったこともあるが、
そのまま再掲しておく。



「強まる一方のデジタル著作権 Winny事件」

 パソコンのファイル共有ソフト「ウィニー」を開発した東大助手が、京都府警に逮捕された。開発者の行為が著作権法違反幇助に問えるのか、逮捕までする必要が本当にあったのか、逮捕の根拠になっている著作権法が、そもそもどういうものなのかについて、議論が広がりつつある。

 この事件で、「ウィニー」による違法なファイル交換が減り、短期的には音楽・映像業界にいくばくかの利益をもたらすかもしれない。しかし、長い目でみれば、今回のような逮捕は、誰の得にもならないだろうと、わたしは考える。

 第一に、「ウィニー」の利用者のことを考えてみよう。一説では、「ウィニー」の利用者数は、日本国内だけで百万人とも二百万人ともいわれている。京都市の全人口にも匹敵する数のひとびとが、違法とされる「ウィニー」でファイル交換をしていたことになる。つまり、それだけの数のひとが、パソコンを使ってファイルを交換するという行動パターンを持っていて、デジタル著作物への需要があるということだ。

 違法なファイル交換がはやるのは、多くの消費者がいまの音楽・映像ソフトの値段を高いと感じているからだ。ソフトの流通が独占的で、利益が「著作者」にではなく、流通の中間にいる「著作権者」に吸収されている実態が、高価格の背景にある。これらの問題に手をつけない限り、消費者の利益、さらには「著作権者」ではない「著作者」の利益は損なわれたままだし、違法なファイル交換への需要は減らない。

 ところが、法律は消費者の利益からかけ離れる方向に、変わっていく。著作権の保護期間は延ばされる一方だし、いまの国会で審議されている著作権法の改正案では、廉価な輸入盤CDまでもが、市場から排除されることになる。

 第二に、権利者のことを考えてみよう。この事件でソフト開発者が萎縮してしまうと、技術のイノベーションや、そこからのあらたなビジネス展開には、あきらかなマイナスになる。最近増えてきた音楽ファイルのダウンロード・サービスにしても、もとは音楽の権利を持たない者が作って成功したものだった。そこに利があるとみた権利者が違法サービスを潰し、似たようなサービスを有料ではじめるという構図を持っていた。つまり、違法とされる行為も、マーケット・リサーチの意味で権利者の役に立ったのだ。

 「ウィニー」は優れたソフトウェアだし、権利をクリアした著作物の共有方法として、あるいは新ビジネスの基盤として、多くの可能性を秘めていると思う。捕まるかもしれないという理由で、革新的なソフトを開発する意欲が鈍ってしまうことが恐い。

 この事件の背景にあるのは、著作権法という法律である。わたしたちは、この法律にもっと敏感にならなければならない。著作権法の改正案は、文化庁の文化審議会著作権分科会の法制問題小委員会で審議されている。ところが、この小委員会は、権利者側の利益を代表する委員が、圧倒的な多数を占めている。

 著作権の保護を定着させようとするならば、著作権のあり方もまた、広く国民のあいだで議論されなければならない。そのようなときに、この委員構成は、本当にわかりにくい。

 事実、ここ十数年の著作権法改正の歴史は、度重なる権利強化の歴史でもあった。「ウィニー」で問題になっている公衆送信権にしても、デジタル時代に備えた権利強化の流れのなかで、平成九年に付け加えられたものだ。

 著作権がイギリスで誕生してからまもなく三〇〇年になる。これまでも、既得権者はいつも「著作者」の権利を後ろ盾にして、できるだけ永く権利を独占しようとしてきた。一八世紀後半にイギリスであった裁判で、著作権の永久独占が否定され、一定年限を過ぎた著作物が公有になることが確立された。その裁判を闘ったのは、なんと海賊版の出版者だった。無法者と蔑まれたひとが、結果的には文化を独占から守ったのだ。著作権をやたらと保護することばかりが文化を守ることではないこと、ときには違法とされる行為もまた文化的な意味を持つことが、歴史の事実としてある。

 この逮捕劇を通して、わたしたちは、ひとつの教訓を学んだ。インターネットは、もはや仮想でも匿名でもなく、そこでの不用意な書き込みを口実にして、現実社会の公権力が介入してくるということだ。今回のことで、ネット社会は変質していかざるを得ないかもしれない。その変質が「成熟」であることに、わずかな期待をかけたい。

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