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【読書感想】ウルトラマンがいた時代


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ウルトラマンがいた時代 (ベスト新書)

内容紹介

ウルトラシリーズの中で最も時代相を映し出していた作品『帰ってきたウルトラマン』を語りながら、高度成長経済から停滞期へと入りつつあった時代の意味を明らかにする私的特撮もの評論。

自分が何になるのか、なれるのか、まだわからなかった1971年。

特撮・怪獣ものから、スポ根・難病もの、アニメ、流行歌、インスタント食品の思い出までを縦横無尽に駆け巡る。

懐かしくって、泣けてくる――


出版社からのコメント

時代の象徴的作品としての『帰ってきたウルトラマン』

高度経済成長が一息つき、70年安保闘争は挫折、公害問題が浮上し、オイルショックもあった70年代初頭。三島由紀夫や川端康成が自殺し、日本が自信を失っていたあの時代、特撮・怪獣ものの世界にも大きな転機が訪れていた。

全ウルトラ・シリーズの中で、『ウルトラセブン』の完成度の高さは論を俟たない。しかし、『帰ってきたウルトラマ ン』こそ、あの「暗い」時代の雰囲気を体現していた象徴的作品なのだ。

その象徴性を決して「論」じることなく、あの時代に沈潜しながら、自分史の一部として語ってみる方法を本書は試みた。



 小谷野敦さんの新書。小谷野さんらしい薀蓄満載の一冊なのですが、ちょうどこの本で語られている時代の最後のほう、1970年代のはじめに生まれた僕にとっては、自分の子供時代のことをあれこれ思い出してしまいました。

 当時は、特撮番組、とくに『ウルトラマン』シリーズは夏休みの朝や、夕方の「再放送の時間帯」に頻繁に再放送されていたので、僕ちょっと遅れてですが、著者と同じくらいの年齢で、ウルトラマンを観たのです。

 最近は、アニメとか特撮に関する本って少なからず出ているのですが、その大部分は「研究書」とか「それらを題材に、自分の思想を語ろうとしている本」なんですよね。それは致し方ないのかもしれないけれど、「娯楽として、毎週楽しみに観ていた」だけの無邪気な視聴者だった僕にとっては、なんだか自分の子供時代の楽しい思い出を「利用」されているように感じていた面もあって。

『ウルトラセブン』は、「論じ」やすい。「超兵器RI号」とか「ノンマルトの使者」とか、核兵器戦争や、侵略問題や、セブンが戦う相手は常に「悪」なのかという、その後『機動戦士ガンダム』あたりで浮上して、80年代に流行した、サブカルチャーをネタに政治も語れる、というモードにもよく合致している。同じころゴジラも、南方のラゴス島で、水爆実験のために小さな爬虫類が巨大化したことになっており、原爆の比喩だとか、大東亜~太平洋戦争で犠牲になった沖縄の呪いだとか、いろいろ「論じ」られた。

 私は、そういう「問題の回」が面白いと思ってきたが、あまりにそういう風に「論」じられるのと、現実に脚本家に訊いてみると様子が違うのとに、違和感を持った。

 たとえば、初期ウルトラの脚本家のうち、金城哲夫(1938‐76)と上原正三(1937‐ )は沖縄の出身で、金城がのち沖縄へ帰って早世したこともあり、80年代にはしばしば、ウルトラ初期の「思想」のあるドラマの書き手として論じられたりした。たとえば「ノンマルトの使者」などは、地球人が侵略者であり、先住民族がいたのではないかという話だ。だが、そこに沖縄人の、ヤマト民族に征服された怨念が籠められているのではないかという問いに、上原はきっぱりと否定している。自分のことというより金城のこととしてだが、そんなことはまったく考えていなかった、というのだ。


 切通理作や小野俊太郎は、「まず特撮ものが好き」というのがあるからいいとしよう。しかし最近の、イラク戦争などにひっかけたがっているような、ウルトラマン本には、あきたりないものを大いに感じる。それは、高校の「国語」の授業で、夏目漱石の『こころ』や、芥川龍之介の「羅生門」が、道徳の授業のような扱われ方をすることに感じる違和感に近いものがある。

 これらの小谷野さんの言葉を読んで、僕はすごく腑に落ちたのです。

 ああ、いま当時の特撮について語られているのを読むと、作品に込められたメッセージみたいなものばかりが取りざたされているけれど、あの頃僕は「制作者に説教されたくて特撮番組を観ていたわけじゃない」のです。

 なんかすごい怪獣が出てきて、ワクワクしたり、ちょっと後味が悪い気分になったりするのが、ただ、楽しかったんだ。学校とか家のなかの「直面するにはつらかったこと」を忘れられたから、好きだったんだ。

 この新書、本当に「当時、子供のころ考えていたこと」がかなり忠実に再現されています。

 多くの「懐古本」の「子供時代の記憶」って、どうしても大人になるまで、なってからの思考の変遷の影響を受けて、記憶が「上書き」されてしまっているのです。本人は、なかなかそれに気づかないものなのだけれども、小谷野さんは、それをちゃんと知っている人なんだよなあ。

『ウルトラセブン』について、どの雑誌だったかがカラー特集を組み、当時光の国だったかウルトラの星だったかM78星雲だったかの様子を描くという、大伴昌司あたりが構成したのだろう企画で、ここにはレッド族、シルバー族、ブルー族、グリーン族などがいるとされ、ウルトラマンはシルバー族、セブンはレッド族で、この二族は戦闘要員で、ブルー族とグリーン族はセブンの体の色が青と茶色になった絵が描かれ、工場労働者などをするとあった。今だったら、人種差別になるからこういうことは書けないだろう。


 こういうのって、当時の「ウルトラマン大百科」とか学習雑誌の付録とかに、たくさん載っていたような記憶があります。それにしても、よくこんなこと記憶しているものだなあ。

 あれこれ思い出してみると、本当に、いまの世の中だったら「差別」として糾弾されかねないようなことが、当時は「子供向け」に堂々と書かれていました。おおらかすぎた昔と、ちょっとした表現にも神経質になっている時代の、どちらが「正しい」のかは、なんともいえないところはありますが。

 ちなみに、この新書では、『ウルトラセブン』の幻の第12話についても、当時の記憶をまじえて採りあげています。

 著者は、「古き良き『ウルトラマンがいた時代』」を美化するのではなく、当時も、もしかしたら今以上にドロドロとしたものや「大人の世界の影響」が子供向けのはずの番組にみられていたことにも言及しています。

『ウルトラマンA』は、高峰圭二(1946‐ )と星光子(1949‐ )の二人が、合体して変身するという、考えようによってはちょっとエロティックなものだったが、第28話「さようなら夕子よ、月の妹よ」(石堂淑朗脚本)で、星の演じる南夕子は、月の世界のお姫様だったことが分かって月へ帰ってしまい、あとは高峰の北斗星司が一人で変身するようになった。私は、子供の当時はさほどに思わなかったのだが、後になって、星光子は美しかったなあと思うようになった。

 だが、この星がいなくなったのが、本人にはだしぬけの降ろし(どうも私はこういう時に「降板」という野球用語を使うのが、野球嫌いであるため、気に入らない)だったことが明らかにされる。つい最近、DVDが出て分かったのだ。確かに、一年間放送するウルトラは、次第に視聴率が落ちてくるので、三クール目あたりで大技を使って視聴率を稼ごうとする。『帰ってきたウルトラマン』など、レギュラーだった岸田森と榊原るみがナックル星人に惨殺されるという荒業を使ったし、星の場合もそれだったろう。

 2012年、『ウルトラマンA』40周年で、レギュラーだったTAC隊員を演じた俳優が一同に会するイヴェントがあった。みな60代になっていたが幸い元気で、星はその時、脚本を渡されて初めてそのことを知り、来週になったら、夕子を連れていったゾフィーが迎えに来て、夕子が帰ってきたという話になるのだろうと思っていたが、呼び戻されることはなかったと語っている。そして、30数年たって、迎えに来たのはゾフィーではなく、あの当時『ウルトラマンA』を観て、感動して、一緒に戦ってくれた子供たちでした、と言った。私が目頭が熱くなった。私もその一人である。


 僕もこれを読み、こうしてキーボードでこの文章を打ちながら、目頭が熱くなりました。

 それにしても、当時の「子供向け番組」は、けっこうあっさり人、それも主要登場人物が死んでいたものですよね。けっこう「残酷」だったよなあ。

 懐かしかった物やテレビ番組を紹介した本はたくさんあるのですが、当時の記憶がこれほど生々しく「保存」されている文章は、かなり珍しいのではないかと思われます。これを読んで興味を持たれた方は、ぜひ、書店で手にとってみてください。


付記:
Amazonのレビューでは、事実誤認、誤記が多いことを問題にしているレビュアーもいらっしゃるようです。「資料集じゃなくて雑談的な思い出話なんだから、多少間違っているくらいはしょうがない。むしろそういうもんだよね」というくらいのおおらかな気持ちで読める人におすすめです。

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