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これからぼくらの生活はよくなっていくのだろうか

世界は新たな時代に向かおうとしている。先進諸国は当然のことながら、新興国も急成長の時代が終わり、各国の成長スピードは鈍化している。日銀は、経済・物価情勢の展望レポートにおいて、消費税引き上げの影響を除く2015年度のCPI上昇率は1.9%になるとして、インフレ率目標の2%をほぼ達成できることを記載している。実際この数値目標が達成可能なのかどうかもさることながら、金融緩和によって国が豊かになるかどうかは、大きな疑問が残るところだ。

人類は歩んできた歴史の中で、生産性を高めるために資金を賢く使う方法を学んできた。生産性の改善は、低インフレで高成長を達成するための唯一の方法である。しかしながら人口動態や経済環境に即した生産性向上は、ときにひとびとに痛みを伴うものとなるだろう。なぜなら構造改革を実施することによって、柔軟性の低い労働者は行き場を失い、失業に追い込まれるかもしれないし、政府が資金を捻出するために増税や社会保障費縮小を行うかもしれないからだ。

指導者、もしくは指導者の側近に位置する知性あふれるひとたちは、生産性向上におけるプロセスに、こうした影の影響がつきものだということを誰もが理解している。だからこそ人間の本質とも言えるかも知れないけれど、歴史から学んできた厳しい道ではなく、より安易な方を選択しがちだ。

アメリカの住宅バブルを炊きつけ、2008年の大恐慌を引き起こした過剰流動性は、現在も市場を混乱させている。これは各国中央銀行が、安易な道を選択し、失業率を強引に押し下げ、成長率を引き上げようとして、金をばら撒いてきた結果だ。こんなことが長続きするはずもなく、最近はこうした資金の多くが、銀行を通じて国内の新規事業にまわされるのではなく、投機色の強い原油先物や世界主要都市の高級不動産、生産性のかけらもない投資商品に流れ込んでいる。新興国では、どこもかしこもインフレ問題が発生して、生活必需品である電気やガソリンを買うために、所得の大部分をつぎ込まなくてはならなくなり、世界中の消費者の購買力が奪われている。

さすがのアメリカも打出の小槌を使い果たしてしまった。莫大な景気刺激策の結果、ついにGDP比における政府債務は、2011年に90%を超え、成長の重しになっている。金融緩和により、債券価格を吊り上げ、債券市場から資金を追い出し、あらゆる資産価格上昇を引き起こした政策だけれど、こうした恩恵をうけたのは、残念ながら預貯金以外の資産を多く保有している富裕層だけだった。

賃金下落と景気後退が起こることによって、デフレになることは常識的なことだけれど、金融緩和によるインフレ率上昇が景気回復に向かうというのは、あまりにも強引な論理だ。

日本での90年代後半において、金融緩和が足りなく、需要不足を招き、通貨高、債券高をまねいた経験が脳裏にこびりついているのかもしれない。結局G7において、日本の金融緩和は追認され、新興国の利下げも相次いでいる。世界中の金利が押し下げられている状況は異常で、デフォルトリスクが極端に下がっていることにより、市場参加者はリスク選考に動くだろうし、既に動き出している。これは日本の財政破綻を憂慮する以上に危機的な状況で、ジャンク債が活況を向かえ、受け入れ先がなくなったときに祭りは終焉することになるだろう。

金融緩和が過ぎ去ったあとには、格差拡大という重要な社会問題が発生するはずだ。。6月19日、FOMC(米国連邦公開市場委員会)後の記者会見でFRB(米国連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長は、「QE3(月850億ドルの証券購入策)の縮小を年内に開始し、来年半ばには停止するであろう」と表明した。FOMCの生命は景気下振れリスクの後退を認め、同時に公表した経済予測のサマリーでは、向こう2年間の失業率の見通しを0.2%ポイント下方修正し、2013年末で7.2~7.3%、2014年末で6.5~6.8%とした。

金融緩和に関してはいろいろな意見があると思うけれど、少なくともぼくらの生活水準は一向に上向く気配がない。新生銀行は1979年以来、30年以上にわたり、サラリーマンのお小遣い調査を実施している。それによるとサラリーマンのお小遣い金額は、昨年の39,756円から1,299円減って38,457円であった。これはバブル崩壊後のワーストであった2011年の38,855円より低くなり、かつ、1979年の調査開始以来の2番目に低い金額だそうだ。

また「最近感じている不安」というアンケート結果では、上位から「自分の将来」54.8%、「老後」53.5%、「年金」41.8%、「給料・ローンなどの金銭面」38.3%となっており、社会全体に対する言い知れぬ不安を読み取ることができる。

ただ昨年末に政権交代を果たした「日本の政治」に対する不安は、2010年37.8%、2012年28.8%、そして今年は14.4%と急激に減少している。さらに「景気」に対する不安も、昨年の29.2%から、今年は24.1%と減少し、ひとびとがアベノミクスという政策に大きな希望を抱いていることが理解できる。ただこの世界が注目する大いなる社会実験の結果がでるのは、もう少し先のことになるだろう。黒田総裁率いる日銀が長期金利を金融政策によってコントロールしようというあまりにも無謀な賭けに負けることになり、需給バランスが崩れて長期金利が上昇し、脱デフレによる需要拡大どころか、財政規律にヒビがはいることになれば、ひとびとの預貯金は食いつぶされ、不安と怒りが爆発することになるだろう。

ギリシャの暴動をまるで映画の世界で起きていることのように、テレビ画面で眺めていたぼくたちが、同じようなことを実際に自分の手で行なうことになるのも、そう遠くないのかもしれない。


参考文献

新生銀行お小遣い調査

ブレイクアウト・ネーションズ
画像を見る インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?
画像を見る

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