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「今のアイドルブームはそう簡単に終わらない」 タワレコ嶺脇社長が語る音楽業界のこれから

インターネットの普及で苦境に立たされている業界はいろいろあるが、音楽のCD販売店もその一つだ。今年1月に報道された英国HMVの経営破綻は、その象徴といえる。そんな中、厳しいCD不況を生き抜いてきたタワーレコードの嶺脇育夫社長が6月21日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見を行い、音楽市場の現状と同社の「生存戦略」について語った。フラッグシップ店である渋谷店の大規模リニューアルやアイドルを軸にした自社レーベルの立ち上げなど、これまでの取り組みを紹介しながら、昨今のアイドルブームにもコメントした。【取材・構成/櫻井和樹】

タワーレコードの嶺脇育夫社長。 写真一覧

オリコントップ100のうち7割が「アイドルもの」だった

まず、国際レコード産業連盟の調査で昨年、日本の音楽ソフトの売上高が約43億ドルで、初めて米国(約41億ドル)を上回ったことに言及。2012年は国内だけを見ても音楽ソフトの生産額が14年ぶりに前年を上回る「好調な年だった」と振り返った。

その背景について、「非常に大きいのが、日本のメーカーがCDを売るために、世界ではあまり類を見ない『付加価値』をつけて販売していること」と説明し、「昨年のオリコンチャートのトップ100のうち72タイトルが『アイドル』というジャンルでくくっていいものになっている」と指摘する。

72タイトルの内訳は、AKB48やモーニング娘。を含む女性アイドルグループが34タイトル、ジャニーズが26タイトル、そしてK-POPが12タイトルだったという。「こういった商品を購入すると、握手できたり、限定版でボーナスDVDがついてきたりする。そうしたレコードメーカーの営業努力もあって、10年ぶりにCD生産高が対前年比を上回ったといえる」と分析した。

もう一つ、音楽市場を支えた要因として嶺脇社長があげたのが、40代以上の「CD世代」の顧客だ。「2012年に最も売れたアルバムはMr.Childrenのベスト盤(2タイトル)で、これがマーケットを引っ張った。ほかにも、桑田佳祐さんや山下達郎さん、松任谷由実さんら日本のベテランのベスト盤が非常に売れた。これらが、CDを買うことに抵抗感のない40代50代に受けた」。

10億円かけて旗艦店を改装「今期は700回ぐらいのインストアをやる」

こうした環境下で、タワーレコードはどういう戦略をとってきたのか。「CDは置いておけば売れるものではない」という考えだという嶺脇社長は、音楽好きの客を店舗に呼ぶために、さまざまな仕掛けを施している。

昨年は約10億円かけて、タワレコのフラッグシップである渋谷店を改装した。リニューアルのテーマは、「エンターテインメント性を高めること」と「ライブ」だ。「ほとんど毎日のようにインストアイベントをやっている。今期は700回ぐらいのインストアをやろうと、目標を掲げている」と嶺脇社長は語る。

さらに、リアルだけでなく、ネットとの融合も強く意識している。地下を含む9フロアのすべてにUSTREAMでネット生中継ができる設備を整えたのだ。「SNSを最大活用して、タワーの渋谷に来たことない人に、タワーが今どういう状況にあるかということをきちんと伝えていかないと、今は店に人が来てくれない。ライブやサイン会の様子をネット上でも表現することで、タワーへの来店を促すことを目的にしている」。その狙いはあたっているようで、来客数は前年比130%と大きく伸びているという。

「店舗にくれば、ネットで調べるよりもたくさんの情報を得ることができる」という嶺脇社長。「音楽好きによる音楽好きのためのお店を作る」という理念を掲げ、音楽に詳しい店舗スタッフがそれぞれの店ごとに品揃えを考えているという。「いわゆる、本部で決めたものをやっているわけではない。そこで働いている人間がチョイスしたCDを並べて、値段も決めて売っているのが、他のチェーンと大きく違うところ」と説明した。

さらに、「HMVさんは、どちらかというとチェーンオペレーションが強いチェーンだった。タワーレコード創業者のラス・ソロモンは『ブランドはグローバルに、ビジネスはローカルに』と言っていた。僕らはそれを忘れずに、大阪には大阪にあった品揃え、渋谷には渋谷にあった品揃え、新宿には新宿にあった品揃えということを意識している。金太郎アメのようにどこの店に行っても同じという店は、なかなか成功しないんじゃないかと思っている」と持論を述べた。

「AKB後に出てきたグループは、まだピークが来ていない」

このように店ごとに工夫を凝らした運営を心掛けているというタワーレコードだが、CDの売れ方も音楽市場全体とは違った動きを示しているという。「アイドルはマーケットでは売れているが、タワーレコードでのシェアは実はそんなに高くない。AKBさんもマーケットほど売れているわけではない」と内情を明かす。

「タワーレコードが強いのはインディーズ。日本のインディーズバンドのCDが非常に大きなシェアを占めている。Mr.Children、RADWIMPS、9mm Parabellum Bulletといった、オルタナティヴなロックミュージックを得意とするチェーンだといえる。流行にあまり左右されない商品が売れるのは強みかなと思っている」

一方で、タワーレコードでは2011年から、アップアップガールズ(仮)やバニラビーンズなどのアイドルグループも所属する自社レーベル「T-Pallete Records」を展開している。「CD販売がより厳しくなる今後を見据えて、「実験的なものとして取り組んでいる」という。アイドルのレーベルをてがけることについては、「作詞作曲を本人がやってない、いわゆる作家ミュージックなので、我々でコントロールしやすいというのがある」と理由を語った。

アイドルといえば、嶺脇社長自身も、ハロー!プロジェクトやさくら学院などを応援する熱心なアイドルファンであることで知られている。そんなことから、記者からは「今のアイドルブームは、いつまで続くと思うか」という質問も飛んだ。

「立場的に、ブームで終わってほしくないっていうのが凄くあるけど、こういった大きいピークが長く続いているのは稀な時代だなと、アイドルファンとして見ている」という嶺脇社長だが、ブームの行方については楽観的に見ているようだ。

「以前のモーニング娘。がブームだったころと違って、いろんなタイプのアイドルが出てきているので、そう簡単にこのブームは終わらないと見ています。『そろそろもうピークなんじゃないの?』と見る人も多いけど、アイドル層が厚くなっているような気がしている。多少は淘汰があるとしても、AKBがブレイクした後にブレイクしているグループは、まだまだピークにきていないと思うので、あと数年はいけるのではないか」

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