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内閣府「共助社会づくり」への大いなる疑問

1. 内閣府「共助社会づくりの推進に向けて」
平成25年5月28日、内閣府より「共助社会づくりの推進に向けて」という文書が出された。甘利大臣のもとに進められていた有識者懇談会の論点をまとめたものだ。その内容は以下のとおりだ。
 共助の精神によって、人々が支え合うことで活力ある社会を作ってゆくことが必要であり、こうした共助社会には企業、NPO、遅延組織、住民など多様な主体が参加することが大事である。そして、NPOやソーシャルビジネスを推進することで、地域において新たな資金循環を作るとともに、新たな需要や雇用が創出されるなど、地域の活性化に一定の役割をはたす。だが、こうした組織には運営面の課題があるので、人材面、資金面、信頼性の向上に向けて検討をしてゆく。

この内容は、どこかで読んだことがある。民主党の鳩山政権が「新しい公共円卓会議」として打ち出した提言文と先の内閣府の文章の内容がよく似ているのだ。だが、鳩山政権の提言文をめぐって異例とも言える事態が起きている。円卓会議のメンバーであった福原義春資生堂名誉会長、島田京子氏が連盟で、円卓会議として出された提言分は、自らの意見と異なると意見書を円卓会議の最終日に提出したのである。

2. 何が不可思議なのか
共助社会について異論を唱える人はいないだろう。だが、内閣府が提示した文章には違和感と疑問を抱かざるを得なかった。以下はその疑問点だ。

(1)共助社会は、国のカタチを問うもの
共助社会とは、そもそも、国のカタチを問うものではないのか。内閣府の文書にも「自助・共助・公助」と記されている。少子高齢化や財政状況に鑑み、これらをどう組み合わせ機能させてゆくのかを問うものではないのか。それは、今後、我が国が、自由主義、保守主義、社会民主主義のどれを選択するのかという議論にも通じるほど、重要なものである
 しかし、今回の内閣府の文書は共助社会を枕詞に挙げているものの、実際にはNPOとソーシャルビジネスの議論に特化しており、一挙に論理が飛躍する。ちなみに、麻生政権が2009年に共生社会をテーマに報告書を出しているが、これは、国のカタチを問おうとするものだった。

(2)見えぬ市民参加
内閣府は、共助社会はNPOや地縁団体、そして住民など多様な主体から構成されていると述べている。そのベースは、住民たる個人であるはずだが、本論では市民参加に関する言及がいかにも希薄だ。本来、NPOなどの非営利組織は社会課題の解決に参加したいと思う人々の受け皿としての役割を果たすものである。しかし、日本のNPOの4割はボランティアがおらず、5割強が寄付をまったく集めていない。NPOが、市民参加の受け皿としての役割を果たし切れていないという問題について、言及されていないのだ。
 ちなみに、休眠口座に加え、利息の一部をNPO寄付に投じるなど、寄付については度々言及されている。だが寄付者を資金源として捉える議論であって、寄付者を参加者として捉える視点ではない。

(3)雇用と市場の創出の可能性 
内閣府は、本論で、ソーシャルビジネスが新たな雇用と市場の創出を担うものであることを強調している。こうした活動はあり得るだろう。筆者は、80年代に米国のフォード財団でインターンを務め、米国内の貧困地域をめぐっていた。そこで、ソーシャルビジネス的な活動が貧困地域の再開発を担っている姿をいくつも見て驚いたことを今でも鮮明に覚えている。
 だが、日本の政策については大いに疑問が残る。平成22年度に70億円の補正予算を投じて地域社会雇用創造事業が実施された。社会的事業の起業について座学で学んだ後、ソーシャルビジネスを実施するNPOなどにインターンをつとめた者に対して10万円の補助をだし、その後、起業する者には最大300万円を支給するというプログラムだ。その後、「東日本大震災復興ソーシャルビジネス創出促進事業」が実施され、現在も続けられている。いわば、ソーシャルビジネスによる雇用創出の可能性について、壮大な社会実験が行われたと言えよう。だが、昨年、今年実施された行政事業レビュー(いわゆる仕分け)では、「事業目的・対象が不明確で、産業復興支援との違いがわからない、目的や効果が不明瞭」等の指摘を受け、廃止や抜本的改善が言い渡されている。特に、地域社会雇用創造事業については、計画書や実績報告書が一時はHPに掲載されていたものの、現在はHPから削除され、閲覧できなくなってしまった。まずは、これらの事業について検証した上で、地に足のついた議論をすべきではないか。

(4)NPOで働くだけではキャリア・パスにならない 
また、「キャリアパスとしてNPO等での経験が企業に評価される仕組みの構築」と記されている。この短文からは、企業に努めることがあたかも最終目的のようにも取れてしまう。おそらく、その真意は、雇用が流動化する中、NPOに勤務したことが自治体や企業に勤務したのと同様に評価されるべきというこどなのだろう。
 だが、NPOに勤務したから評価されるのではなく、勤務経験によってどのような能力を身に着けることができたのかが大事なのではないか。昨今、日本のみならず先進諸国の企業は社会人基礎力(コミュニケーション力、課題解決力、忍耐力、共感する力等)を強く人材に求めている。前回ブログで紹介した日本のNPO(Learning for All)が運営する寺子屋に参加した学生50人の中で、8人が超難関と呼ばれるコンサルタント会社に雇用されている。彼らはNPOで働いたことではなく、そこで身に着けた能力が評価されたのだ。
 ならば、NPOで働いたことだけでなく、そこで何を身に着けることができたのかを説明する力が求められているのではないか。

(5)NPOの信用問題はもっと深刻 
内閣府は、信頼性の向上として、休眠法人の整理や信頼を毀損する団体について対処の検討をすべきであること、NPOの会計基準の普及、民間による評価の取組の促進を掲げている。
 NPOの信用問題については、随分以前より指摘されていたが、この2年ほど公的資金がNPOセクターに大量に投入された結果、様々な問題が一挙に噴き出す結果となった。岩手の山田町で7億円もの委託金を独占状態で受けながら、ずさんな経営のために、地域住民を解雇してしまった大雪りばあねっと事件や緊急雇用対策基金の不正受給はごく一例に過ぎない。NPOの信頼性の問題についてはより深刻なものとして受け止め、先の公的資金の投入の仕あり方も含め、きちんと検証すべきではないか。内閣府の文章は、信頼性の問題を掲げながら、最も痛い問題を避けているように見える。
 また、エクセレントNPO評価はじめ、民間による評価の取組の整理するとある。ここで掲げられている評価は、いずれも第三者評価である。だが、第三者評価の前提にはより重要なものがある。それは、自己評価である。NPOのみならず、大学、政府も適切な自己評価なくして、第三者評価はありえない。NPOの発的な動きが伴わないと、評価は容易に「権威がNPOを裁くため」のものになってしまう。だが、内閣府の文章には自己評価について触れられていない。

以上、共助社会にかかる内閣府の文書にかかる疑問について述べたが、他にも首をかしげる点は数多ある。おそらくこの文章は、骨太方針に書き込まれることを想定して、急いで策定されたものと思われる。だが、せっかく「共助社会」という言葉を掲げたのならば、大局観をもってこの国のカタチから議論してほしい。また、ソーシャルビジネスの育成を行うというのなら、検証をしっかりと行い、HPから削除されてしまった地域社会雇用創造事業の実績報告などの情報を即刻、復活させるべきだろう。

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