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講演・佐藤一斎の教え(1)福井昌義

 6月29日(土)慶應義塾大学での日本論語研究会の福井昌義氏(日本論語研究会・事務局次長)講演録です。
これはためになります。
壮にして学べば、則ち老いて衰えず。

皆さん、こんにちは。福井昌義です。
早いもので去年4月7日の発表から1年弱が経ちました。
また、こうして発表の場を頂いたことに田村先生はじめ皆様方に感謝申し上げます。テーマが前回と同じ佐藤一斎ですので、話す内容が重なる点が多々ある事については、ご容赦下さい。今回も緊張していますので、どうぞお手柔らかにお願い致します。
それでは、なぜ再び佐藤一斎について話すのか、そこから始めます。
学問に終わりはありません。
継続して学ぶことが大事なんです。私が再び発表しようと思い立った動機は、そのことに尽きます。
それを端的に表しているのが、三学戒『言志晩録』第60条になります。

せっかくですから、私に続いて読んで下さい。点のところで区切ります。

・少くして学べば、則ち壮にして為すことあり。
・壮にして学べば、則ち老いて衰えず。
・老いて学べば、則ち死して朽ちず。

 ご協力ありがとうございます。
 現代語訳にしますと、
・少年時代に学んでおけば、壮年になってもそれが役立ち、何事かを成し遂げることができる。
・壮年期に学んでおけば、老人になってからも気力が衰えることはない。
・老年期になってなお学ぶことができれば、世の中の役に立って死んだ後もその名は残る。
――となります。

 この言葉からもわかる通り、人間、学ばなくてよい時期など1つもありません。
 生まれてから死ぬまでが勉強です。

 三学戒については、中曽根康弘元総理が昭和59年6月米国のジョンズ・ポプキンス大学から名誉学位が贈られたときのお礼の挨拶で引用しています。         当時次のように述べています。

「日本の江戸時代の儒学者佐藤一斎の言葉に『少くして学べば、則ち壮にして為すこと  あり。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず。』というのがあります。人類文化の平和と繁栄に関する私の学位論文はなお未完成である。本日の栄誉を出発点として、なお弛みなく努力を続けたいと思います。」

大勲位と呼ばれていますが、平成9年に「大勲位菊花大綬章」を受章されています。
現在95歳を迎えていますが、毎日毎日が勉強の気持ちを、今でも持ち続けられている
ことに、頭が下がります。


 小泉純一郎、吉田茂両総理はなぜ長期政権になったか

また、小泉純一郎元総理も平成13年5月衆議院での教育関連法案の審議中に引用しています。
このことからも長期政権を築いた総理は、古典をよく勉強されていることがわかります。
昨年12月26日安倍晋三氏が2度目の内閣総理大臣に就任しました。
いわゆる世間で言う、再登板です。私も2回目の発表ですので、再登板です。
この総理大臣再登板は、昭和23年以来、64年振りで戦後の総理大臣では2人目です。
ではもう1人は誰かと申しますと吉田茂元総理です。

吉田元総理と言えば皆さんは、麻生太郎副総理兼財務大臣のおじいさん、サンフランシスコ講和条約、バカヤロー解散と言ったフレーズを思い浮かべることでしょう。
バカヤロー解散ですが、昭和28年2月28日の衆議院予算委員会で西村栄一議員の質問に対し「バカヤロー」と小声で言ったことが原因で同年3月14日、衆議院が解散されたため、こう呼ばれています。

余談ですが、このとき質問した西村栄一議員の息子が西村眞吾衆議院議員です。
5回の組閣数は歴代第1位です。昭和42年10月20日、89歳で亡くなりました。 
戦後に国葬となった人物は吉田元総理ただ1人です。
その国葬ですが、昭和42年10月31日、日本武道館にて執り行われました。
官庁や学校は半休、テレビ各局は特別追悼番組を放送し、故人を偲びました。
初孫である麻生太郎副総理は、著書とてつもない日本の中で、祖父吉田茂から「日本人のエネルギーはとてつもないものだ。日本はこれから必ずよくなる。
日本はとてつもない国なのだ。私はいま、その言葉を思い出している。」と語っています。
忙しい公務の合間をぬって、一緒に動物園に出かけたり、落語を聞きに行ったりしています。
また孫太郎に対して、「歴史書を読むと、人の行動がよく読める。歴史を知らない国民は滅びる。」とよく言っていたそうです。
 その割には、麻生副総理マンガをよく読んでいるそうですね(笑)。

実はその吉田茂を育て上げたのが、佐藤一斎の孫娘の士子なんです。
吉田茂は土佐出身の政治家・竹内綱の五男として、明治11年9月22日横浜で生まれました。生まれてすぐ同じ横浜の実業家・吉田健三の養子としてもらわれました。
その吉田健三の妻が士子で、佐藤一斎の三男・立軒の次女になります。
士子は武士の娘らしく気位の高い女性で、それが息子である茂に大きな影響を与えています。
養母・士子は折に触れ、祖父一斎の生き方を語り、幼い茂を教育しました。
吉田元総理の筋を曲げない性格は、士子の教育による部分が大きいでしょう。

 吉田元総理は母について、「母は学者の家に生まれ、学問の素養があることを心秘かに誇りとしていたらしい。そのためか、気位の高い人であった。ところが、その養母が私については、『この子は気位の高い子だ。』とよく言っていた。しかし、私は母の方がよほど気位の高い人だったように思う。不思議なもので、気位の高い子だとしばしば言われていた  せいか私はいつか本当に気位の高い子になってしまった。」と述べています。

また、日本の国際政治学者で元京都大学法学部教授の高坂正堯氏は、著書である『宰相吉田茂』の中で次のように指摘しています。
「彼の信念体系というべきものは、彼の養母で有名な漢学者佐藤一斎の孫娘にあたる吉田士子のしつけに始まって、杉浦重剛の日本中学における教育で完成したと考えられるが、杉浦重剛は東宮御学問所で倫理学を進講したこともある人で、皇室に対する強い崇敬の念を持っていた。吉田茂が皇室に対して強い崇敬の念を持つようになったことは当然のことであった。」

吉田元総理は明治憲法・皇室典範が発布された年、明治22年10歳で漢学教育を主体とする神奈川県藤沢の耕余義塾に入学します。この学校の選定にあたっても、士子の意見が大きかったようです。当時を振返り吉田元総理は、次のように述べています。     
「私は初め、漢学の塾に寄宿した。これは私の性格にどれだけの影響を与えたか知らないが、とにかく、一通り漢文が読めるようになったのはいいことだと思う。中国人は生活の達人であって、我々が生活していく上で遭遇する大概の経験が漢籍で扱われているし、またさらにそういう経験について我々に教えてくれる。」
こまめに手紙を書いており、確認されたものだけで1,300通以上あります。達筆と漢文の見事さは、耕余義塾に学んだ成果と言えます。耕余義塾は、この慶応義塾大学に倣って、義塾と校名につけられています。

 先程、小泉元総理が歴代3位の1980日の長期政権を築けたのは、一斎の言志四録等古典を学んでいたからと話しましたが、2位がいま話した吉田元総理の2257日なんです。やはり幼少時から養母である士子から一斎の話しを聞かされ、教育されたことが、後の内閣総理大臣・吉田茂として大きな足跡を残すことができたと考えます。
 吉田茂の総理としての姿勢は、次の言葉がぴったり当てはまるのではないでしょうか。

言志録第89条
当今の毀誉は懼るるに足らず。後世の毀誉は懼る可し。一身の得喪は慮るに足らず。
子孫の得喪は慮る可し。

現代語訳にしますと、
現世で、悪く言われたり、誉められても気にすることはない。それより死んでから批判されるほうが怖い。弁明もやり直しもきかないからだ。
自分が損しようが儲かろうが、心配するにあたらないが、子孫に迷惑をかけることは考えなくてはいけない。

 昭和26(1951)年9月サンフランシスコ平和条約及び日米安全保障条約を締結し、戦後日本を復興させたときの吉田元総理にこの姿勢を見ることができます。

言志録第89条は、現代の政治家等上に立つ者に最も求められる、あるべき姿ではないでしょうか。(続く)

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