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ゲンロンカフェで『佐々木俊尚×東浩紀トークショー』を聞いて来た

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■幻想

東氏:

国民国家は神がいなくなった世界に生きる必然性の物語を与え(ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』*6が参考になる)、全人格的承認を人に与える。一時期の日本の会社もそうだった。『レイヤー化する世界』では、全人格的承認を与える存在がない。だとするとやはり社会は安定しないのではないか。

佐々木氏:

近代も、再帰的近代*7の段階に至り、人々は生きる目的を喪失しているわけだが、国民国家が生まれたからポストモダンが生まれたと見ることも出来るはず。ゴールがあってそこに向かって進むべき、内と外をつくり、進歩/成長を志向するべき、という近代モデルが出来たが、それ故にまた、今のような必然的な行き詰まりを内包していたともいえる。

東氏:

国民国家は幻想であることはわかっているが、だからと行って手放せるだろうか。恋愛と似ている。恋愛は幻想だが簡単には手放せない。人間は簡単には幻想を手放せない存在

佐々木氏:

幻想を手放せないから生きていて苦しいというこもあるのでは?

東氏:

ナポレオンは国民国家という幻想が凄い力を発揮することを発見した。一時期の日本企業もそう。

佐々木氏:

それはわかるが、今では国民国家が与える幻想を維持することが難しくなっている。『外』に仮想敵を作るようなことでしか維持できなくなっている。

東氏:

人間には、所属するという感覚を与えるものが必要で、それ(幻想)なしでは生きていけない。テクノロジーは幻想を与えてくれない。ここに包摂されているという幻想が必要ではないか?

佐々木氏:

所属が不要と言っているわけではない。何らかの中間共同体は必要。ただ、強い求心力がないと維持できないようなコミュニティでは息苦しくて維持できない。息苦しくならずに維持できるコミュニティはできると思う。

著書では、意識高い系だけではなく、コミュ能力が弱い人も、自分の見せ方を少し変えるだけで生きていけることを示したかった。誰もが、リアルとネットが融合する社会をどう生きるか考えるべき時が来ている。

■宗教的なもの

東氏:

自分が今ここにいることには、偶然と必然の両方の要素あるが、人間は別の可能性はあったのに、たまたまここにいるのはどうしてなのか、意味を求めてしまうもの。そのギャップを埋めるために、物語や幻想を必要とする。

ロックやホッブスは、社会契約は合理の集合体と考えたが、ルソーは無意識の集合体ととらえた。文学者ルソーの面目躍如。いわばすべて幻想。ルソーは、恋愛/運命/国家等、幻想の装置を一気につくった。皆、近代民主主義の原義を忘れている。そもそもすごくやばいもののはず。幻想がすべてなくなった後にはすべて合理的に、というのはやはり無理がある。レイヤー化する世界の幻想の場がどこにあるか気になる。

佐々木氏:

宗教や運命論に帰依したがっている人はすごく増えていると思う。宗教の復権は否定しない。個が自立して、厳しい自己認識にさらされるのはさびしく、つらいこと。人間の意識はどうかわるか(変わるべきか)についても考えたが、本書ではそこまで書けなかった。

東氏:

強い個人の自覚、という点では『禅』があるが、もっと俗人に対する宗教も必要だろう。

佐々木氏:

社会学者の濱野智史氏の、『前田敦子はキリストを超えた』*8には批判も多いが、『宗教的なものは、近接性と偶然性によって、教義や教祖がいなくても成立する』というくだりは評価できる。今後、世界は、近代の直線的に進む世界観から、中世の円環する世界観に戻っていくと考えられる。そこで神に類するものを見つけて依拠する人がいてもいい。(AKB48に帰依する人がいてもいい。)ただ、『それだけではないもの』が生まれて来て、二分化すると思う。AKB48もあっていいが、そうではない生き方もあるはず。

東氏:
国民国家は社会の包摂性を重視するが、福祉国家は全体主義であることがわかっていない人が多い。監視とケアは表裏一体。今、これをやらない国家になろうとしている。何が肩代わりするのかまだわからない。

日本はオーム事件後、宗教フォービア(宗教嫌悪)の傾向が強くなり、宗教的なものはどんな些細なものでも、議論する事自体難しくなってしまった。だが、宗教は、十把一絡げに語るには巨大過ぎる課題だ。いよいよ再び宗教の問題に真っ正面から取り組むべき時が来ているように思う。

■その他の話題

東氏:

エドワード・スノーデン容疑者(米情報収集プログラムを暴露し国外へ逃亡した米諜報機関元職員)の問題はどう思うか?

佐々木氏:

メディア空間が拡大してしまった今日、情報をマスメディアの内部だけでおさえておくのは無理であることを象徴している。

東氏:

集団的憎悪が結晶化しやすい世になった。

佐々木氏:

ネット世論は3極化していると思う。昨今、ネット言論は大量の批判者にさらされるが、その周辺に膨大なもの言わぬ傍観者がいる。その数のほうが多いのではないか。その傍観者の中には、実は善意の賢い傍観者がいて、発言すると得にならないことがわかっているから黙っているのだと思う。この傍観者に発言させ、可視化することがこれからの重要な課題だと思う。

東氏:
『大衆社会』の問題はオルテガ*9がそれを指摘したころのころから変わっていない。大衆の多数決がいつも正しいわけではない。そういう意味では民主主義も幻想で、これをどうすればいいのか。まさに多数決では解決されない構造的問題。かつて『島宇宙化』というタームで世の多様性を語ったが、実際には大きな島宇宙と小さな島宇宙があって大きな島宇宙ばかりが影響力をふるってしまっている。欧州にはノブレス・オブリージュのような伝統があるが日本にはそれもない。

■あとがき

大分書いた気がするが、それでも、かなり削った。語りすぎるのはヤバい、『ココだけの話』も少なくなかった。そういうのはレポートに書けないし、書いても伝わらないので、やはり、実際にゲンロンカフェに足を運ぶことをお勧めする。

本当に内容が濃くて、すごい対談だった。だが、ものすごく大事な問題の切り口や、探求のための課題を沢山思い出させてもらった。私自身、この中の幾つかに、あらためてちゃんと取り組んでみたいという意欲をかき立てられた。

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