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「デフレ中韓」は相手にしない〔1〕―金美齢(評論家)×三橋貴明(経済評論家)

今後200年、尖閣問題は解決しない


金:今年4月の安倍内閣の閣僚による靖国神社参拝に対し、中韓両国から強い反発が出ています。とくに朴槿惠韓国大統領は5月に訪米した際、「日本は正しい歴史認識をもたねばならない」と議会で発言し、アメリカを巻き込む姿勢を見せました。韓国や中国にしてみれば、靖国問題は揺さぶれば小判が落ちてくる“対日外交の切り札”。こんなカードをやすやすと放棄するはずがない。これからも干渉を続けてくるでしょう。

もともと靖国問題は、1985年、中曽根康弘首相(当時)が公式参拝を中国に非難され、「友人である」胡耀邦総書記の立場に配慮して、以後、参拝を取りやめたことが問題の始まりです。中国のためによかれと思ったことが、逆に、中国につけ入る隙を与えてしまったのです。今回の安倍政権の靖国参拝は、韓国が外相の訪日キャンセルという高圧的な態度に出て、この事件を日本のメディアが焚き付けたことがきっかけで、騒ぎが大きくなりました。靖国問題はなにも中韓のせいばかりではない。何より、日本の対応に問題があるといいたいですね。

三橋:同感です。靖国問題をはじめ、いま韓国や中国と日本のあいだで起こっている諸問題は、じつは日本国内の問題なのです。「従軍慰安婦」問題を大きくしたのは、元陸軍軍人で作家の吉田清治でした。「従軍慰安婦」という言葉自体が、1970年代のノンフィクション作家・千田夏光による造語ともいわれています。それに『朝日新聞』や人権派の弁護士たちが乗っかり、韓国側に焚き付けてきたという経緯がある。

金:やはり日本自身の対応に問題がある。

三橋:ええ。さらにいえば、日本人は隣国とのあいだで外交問題が発生すると、なんとか「解決」しようとしますよね。私にいわせればこれが間違いのもとで、あらゆる外交、歴史問題の元凶がここにある。おそらく中国との尖閣問題は、この先、200年ぐらい「解決しない」。日中双方が互いに譲れない「国益」だと考えている以上、それはむしろ当然のことです。ところが、日本人はこうした緊張状態に耐えることができない。そしてある臨界点に達すると、一気にそれが弾けてしまう。おそらく戦前の日本がそうだったのではないか。対米開戦を知って、多くの日本人が「胸が晴れるような気持ちがした」といいます。こうしてまさに亡国の道を歩んでしまったのです。

金:外国との緊張に耐えられない日本人が有効だと信じ込んでいる解決方法が「落としどころを探る」というものですね。ところが、相手はそんな日本人の習性はとうの昔にお見通しで、さらに一歩攻め込んでくる。以前、私が理事長を務める日本語学校に対して、上海市政府の役人から嫌がらせを受けたことがありました。このとき、私の顧問弁護士から「そろそろ落としどころを考えないと」と忠告されたのですが、「とんでもない。一歩も退きません」と断りました。相手と毅然と闘っている最中に「どこかで譲る」ことを平気で考えるのが、日本人のメンタリティーなのです。

三橋:電車でも1分遅れただけで「ご迷惑をおかけしました」と平謝りのアナウンスが流れますよね(笑)。大して問題だと思われない事態でも謝ってしまうのは、緊張状態に耐えられない日本人の習性なのでしょうか。

金:東海道新幹線に乗ると、「ただいま定刻どおり三河安城駅を過ぎました」というアナウンスがあって、時間どおりに名古屋駅に到着する(笑)。私のように講演で全国を飛び回っている人間にはありがたいけれど、外交問題ではもう少しフレキシブルにならないと。中韓のいう「靖国問題」にしても、8月15日になると日本の政治家は参拝に行く人どころか、参拝しない人までが所見を述べますが、あまりにも不毛ではないでしょうか。国難に殉じた方々に敬意を表するのは自然な話で、個人の心情をとやかくいう日本人は忘恩の徒であるし、ましてや外国が干渉するのは失礼極まりません。

三橋:靖国問題の解決方法はある意味で簡単です。安倍総理が「朝のジョギング」のごとく、毎日参拝すればいいのです。総理が100日も連続して参拝を続けてくだされば、中国や韓国もそのうち文句をいってこなくなりますよ。日本のメディアだって、やがて「ネタにならない」と判断して報じなくなるでしょう。(笑)

金:名案です。市ケ谷に住んでいるアサヒビール名誉顧問の中條高徳さんは実際、毎日参拝されているそうですからね。(笑)

ロビー活動が世界でいちばん下手な日本人


三橋:韓国の朴槿惠大統領は「正しい歴史認識」という言葉をよく口にしますが、そもそも「正しい歴史認識」というものが存在しうるのか。日本人は言葉の「印象」に惑わされやすく、その「定義」を考えません。

もともと歴史認識は国ごとに異なるのが当たり前で、最初から共通の理解など成り立つはずがありません。アメリカの南北戦争について北部の人たちは「栄光の戦い」といい、南部の人たちは「侵略」という。あるいは日本でも、長州と会津の人では幕末・明治維新史をめぐる認識にはそうとうの距離感がある。そう考えていけば、日本と韓国がそれぞれ異なる歴史観をもつのは至極当然の話で、日本人はそれを受け入れる必要があります。

金:日本と中国では国益も違えば歴史認識も違う。このような当たり前の考えをもっていないのは、日本が海に囲まれていて、平和な時代が長かったからでしょう。日中両国について、「一衣帯水(両者の間に一筋の細い川ほどの狭い隔たりがあるだけで、きわめて近接しているたとえ)」「同文同種(使用する文字が同一で、人種も同じであること)」などという言葉が一部の日本人から出てくるのが、まさに象徴的です。

三橋:少なくとも、戦前の日本人には中国の本質がわかっていたのではないでしょうか。戦前の日本は中国とずっと交易や衝突を繰り返してきたわけですから。

金:いや、戦前もわかっていなかったでしょう。むしろ知的なインテリ層ほど中国に対する憧れがあった。孔子や孟子、唐や宋時代の詩など、中国の古典に対する無条件の尊敬の意識があったからです。戦後、中国に対してあれだけ謝罪意識が生まれたのも、そのためだと思います。

三橋:日本人は中国の国内で孤立していた孫文の革命運動も支援しましたが、そのことで、結果として中国国民党という敵をつくってしまった。戦後も、中国や韓国に対して経済面や技術面でさまざまな支援をしてきましたが、感謝されるどころか、技術は盗まれ、「反日」感情は増すばかりです。

金:私の息子が日本のお嬢さんと結婚するとき、はっきりとこういったんです。お互いの家庭の文化が全然違うことを認識したうえで結婚するならよい、と。うちは女性が働くのが普通のリベラルな家風でしたが、相手は伝統的な中流の日本人家庭で育っていた。価値観がまったく異なっていた。しかし、それを前提にしないと、あとで揉める事柄がたくさん出てくるということを私は息子に伝えたかったのです。個人でもそうなのですから、これが国同士となればなおさらそうでしょう。

三橋:無理やり相手に合わせようとしても、ダメだということですよね。でも、どうしても日本人は合わせようとして、そこにつけ入られる隙が生まれる。

金:日本人は相手に「こんなに悪いことをした」といわれると、言い返せなくなってしまいますよね。でもそういう人は、大概において自分自身が悪いことをしているものです。たとえば、韓国の人はよく「日本はアメリカでロビー活動を盛んにやっている」という。私にいわせれば、これは韓国人がそうなのであって、日本人ほどロビー活動の下手な民族はいません。まず、初対面の相手と同じテーブルに座り、会話をするのがほんとうに苦手。必要とされる教養もない。自宅でパーティーを開くような習慣がないからかもしれませんが。

三橋:「南京で日本人は何十万人も虐殺した」と中国共産党がいうのも、彼ら自身が粛清や虐殺を繰り返してきたからでしょうね。もともと日本人はそんな残虐なことをする体質も歴史もない。

金:そうです。中国共産党は戦前における日本軍の残虐行為を非難する際、「三光作戦」という言葉を使います。しかし、これはもともと漢語であって、日本語にはない表現です。「光」は「~し尽くす」の意味で、「三光」とは「焼き尽くす、殺し尽くす、奪い尽くす」のこと。日本の軍隊ではなく、中国の軍隊がやっていたことです。

三橋:中国では歴史的に何度も革命が起き、政権がひっくり返りましたね。そのたびに、大規模な内戦が起きている。中国人にとって戦乱は日常で、村同士でも凄惨な殺し合いをやっていった。もっとも中国人は武器を使う戦いだけではなく、使わない戦いにも長けている印象があります。現代でいえば、それがロビー活動や宣伝戦、法律戦で、いまの日本は完全にやられている印象です。日本人は「和を貴ぶ」ということで助け合って生きてきましたが、中国人は自分の身を守るためなら何でもありの歴史を重ねてきた。そうしたバックグラウンドの違いはじつに大きい。

前向き論が受け入れられる土壌が整ってきた


三橋:さらに、日本人が思い知るべきは、じつはアメリカ人のメンタリティーが中国人と近いことです。建国以来、アメリカ国民には、銃を持って自分の身を守るのは当たり前という感覚がある。基底の部分で、中国人と波長が合うと思います。

金:戦後、大陸中国から台湾に逃げ込んできた知識人層は、みんなアメリカのほうを向いていました。そもそも第二次大戦で中国が日本に勝ったのは、アメリカのおかげだという意識がありましたから。もちろん、大陸に残った中国人もアメリカのことは大好きです。

三橋:中国とアメリカはどちらも個人主義の国ですね。アメリカは「ファミリー」、中国はもう少し広く「一族」をコミュニティーの単位とするという違いがありますが、自分たちの利益を守ろうとする信条の強さにおいて、日本人はとても真似できない気がします。

金:「血縁」や「地縁」で結束することで自分たちの安全を保とうというわけで、いざとなったら国頼みの日本人とは最初から覚悟が違います。だから個と個で戦えば、日本人は彼らに絶対に負けることになる。ただ彼らにないものとして、日本人は「組織」に対する忠誠心が高い。タイから来た中国系の商人にいわれたことがあります。「世の中でいちばん商売がうまいのは華僑であり、そのなかでも潮州出身者である。自分は潮州出身だが、その自分でも負けると思うのが日本人だ。それは日本人が『三井』『三菱』『伊藤忠』といった看板を背負っているからだ」と。こういう強みを日本人はもっと認識すべきですね。

三橋:終身雇用で一生をその会社で過ごすつもりで、組織のために団結して闘う。金先生がおっしゃるように、これこそが日本の強みです。ところがアメリカ式の構造改革で、日本はこうした強みを自らぶち壊してきた。平成に入ってから、日本企業が中国や韓国の企業にやられっ放しになってしまったのも、このあたりに一因があるように思えてなりません。

金:組織のよさを生かしつつ、弊害をなくす方法を考えればよかったのに「これはよくない」と全否定してしまったのですね。よく日本人は曖昧だといわれるけれど、ほんとうは反対で、「オール・オア・ナッシング」志向で極端になりがちです。

三橋:「構造改革」という言葉の意味をよく吟味せず、それをむやみに推し進めてしまった部分があると思います。やはり大事なことは、「言葉の定義の間違いを正すこと」なのです。私は経済の分野でそれをやってきました。最近でいえば「財政破綻」という言葉がまさにこれに当てはまります。それが具体的に何を指しているのか、じつははっきりわかっている人は少ない。100人いれば、100通りの「財政破綻」のイメージがあると思います。

金:民主党政権時代の「暗黒時代」、日本が潰れそうな話をする人ばかりのなかで、三橋さんは日本経済の力を信じて前向きな発言をしてきましたね。私もみんなが自虐史観に悩まされるなか、「日本ほどいい国はない」と主張してきました。そういう意味では、私と三橋さんは少数派で、また数少ない同志だと思っています。

三橋:日本経済に関して前向きな発言をしていたのは、政治家のなかで麻生太郎さんぐらいでした。いまではずいぶん強気論の人が増えてきましたが。

金:風向きが変わるとなびくというのも、節操がありませんよね。

三橋:私としては、それでよいと思っています。悲観論を覆すために、これまでずっと頑張ってきたのですから、目的が達成されはじめて満足です。

金:ずいぶん寛大ね。(笑)

三橋:ただ、問題はテレビや新聞などの大メディアです。アベノミクスの副作用を過剰に言い立てる妙な癖が抜けない。外交問題や歴史問題についても同じで、日本のメディアは中国や韓国の言い分を一方的に伝えるだけ。私や金先生のような少数派の意見をいかに取り上げてもらうかでしょう。

金:三橋さんがいうように、やはり怖いのは言葉ですね。かつて武村正義なんていう政治家がいて、「小さくてもキラリと光る国」などといっていましたが、これは本来、シンガポールのような国に対して使う言葉です。日本のような世界第3位の経済力があり、かつ周囲を「反日」国家に囲まれ、安全保障が重要な国に使うものではない。普通に考えればおかしいことに気付くはずですが、日本のインテリには、言葉の表面的な印象のよさに振り回される人が多すぎます。

三橋:要は、国民のマジョリティがどちらを受け入れるかでしょう。安倍政権の発足以来、どちらかといえば「正論」を世に受け入れられる土壌ができつつあるように思えるのですが。

金:これまで日本は「サイレント・マジョリティとノイジー・マイノリティ」の国でした。だからみんな、大きく騒ぎ立てる勢力の意見を「なんとなく正しい」と思いがちだった。そうやって左翼的な世論が形成されてきたのです。それがここにきて、ようやくその流れが変わってきたと思いますね。

〔2〕に続く

■金 美齢(きん・びれい)評論家
1934年、台湾生まれ。59年、早稲田大学第一文学部に留学。71年、同大学大学院文学研究科博士課程修了。英ケンブリッジ大学研究員、早稲田大学講師などを経て、評論家としてテレビ、雑誌などで活躍。JET日本語学校理事長。2000年から06年まで、台湾総統府国策顧問

■三橋貴明(みつはし・たかあき)経済評論家
1969年、熊本県生まれ。東京都立大学(現・首都大学東京)卒。NEC、日本IBM勤務などを経て、2008年に三橋貴明診断士事務所(現・三橋貴明事務所)を設立。著書に、『アベノミクスで超大国日本が復活する!』(徳間書店)ほか多数。

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■Voice 2013年7月号
<今月号の読みどころ> 7月号では安倍総理ご本人への45分間ものインタビューが実現し、ほぼそのすべてを誌面に反映させました。なかでも飯島勲氏の訪朝でにわかに高まった拉致問題、喫緊の尖閣問題、靖国参拝、景気回復、消費増税、日台関係などをテーマに、さまざまな角度から切り込んでいます。 総力特集では、領土問題や歴史問題で緊迫する東アジア情勢を背景に、日本の置かれている立場を有識者の方々が分析。特集では、上向く方向にある実体経済を「リフレ景気」と名づけ今後の課題と行く末を紹介しました。 本屋大賞を受賞した百田尚樹氏の新連載「覚醒するクラシック」も、ぜひ読んでいただきたい企画です。

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