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関学大学院の講義で話したこと:社会学における計量分析の位置づけ

 鈴木謙介先生の紹介で、関西学院大学院社会学研究科で4週にわたって講義を行った。さいわい受講者に恵まれ、ヘタな講義にもかかわらず、そこそこ実りのある授業ができたのではないかと思う。この記事では、そこで話をしたことを備忘録代わりに軽くまとめておこう。あわせて、講義内ではうまく伝えられなかったことについての補足の意味もある。


1講 実証=調査ではないこと


 私の役割は、計量分析の視点から生活保障について講義をすることだった。そこで、最初に計量分析とはなんぞやというところからはじめた。そのなかでも冒頭で話をしたのは、「実証=調査」ではない、ということだった。

 しばしば社会学では実証というとすぐに(質的にしろ量的にしろ)「社会調査」だと考えられてしまう。しかし、より広い科学の世界を見渡してみれば、少なくない分野において調査データは「二流市民」扱いなのだ、ということを説明した。因果関係をより正確に特定しようとすれば、多かれ少なかれ実験あるいはそれを模した実証デザインが必要になる、ということである。

 他方で、実験データと調査観察データのあいだには、内的妥当性と外的妥当性という面である種のトレードオフがあることも説明した。

 さらに(シノドスでも少し書いたのだが)社会学の研究関心は必ずしも因果関係の追究にはないので、記述的な計量分析でも十分に問いに答えることができることも多い、ということも話した(つもり)。

2講 社会学の計量分析が明らかにしてきたこと


 生活保障とは、宮本太郎先生によれば雇用と社会保障制度の連携である。その意味では、女性労働というのは生活保障において必須のトピックとなるといえる。そこで、主に「女性労働が出生力に与えた影響」と「家族・両立支援制度が女性労働に与える影響」について計量社会学が明らかにしてきたことを実証研究の成果を示しながら説明することにした。そのなかには(国別)パネルデータを用いた因果分析志向の研究もあった。パネルデータの分析は、調査データの欠点を補うために現在の社会学者や経済学者が最も期待を持っている手法である。

 具体的には、以下のようなこと。

  1. 1960~70年代にみられたように女性が雇用労働化することは基本的に出生力にマイナスの影響を持ったが、その後の両立支援制度がこの二者の関係を媒介・中和したことで、1990年代以降はプラスの関係が生じた。
  2. 寛容な育児休業制度が民間企業における女性の職業的地位と所得にとってマイナスに作用するケースもあった。

 1については、以下の書籍を参照してほしい。

リンク先を見る

ワークライフバランス 実証と政策提言

 2について。最近の安倍内閣の両立支援方針とかかわる点だが、北欧諸国では実際に寛容な両立支援制度のために女性が民間セクターで(相対的に)活躍できなくなるという意図せざる結果が観察されてきた。それでもスウェーデンやデンマークで男女賃金格差が小さく、女性労働力率が高いのは、女性が公的セクターで雇用されている割合が高いからである。ということは、公的雇用の割合がOECDで最低レベルで、しかも公務員の女性比率も決して高くない日本で寛容な育児休業制度を設けてしまうと、あまりよい結果にならない可能性が高い。(余談だが、やはり私の見解はこの点では「育休3年」を基本的に評価する松田先生のそれとはかなり食い違ってしまう。)

3講 計量分析の限界


 計量社会学は、たしかに講義で特に注目した生活保障、女性労働にかぎらず、多くのパズルを発見し、またパズルを解いてきた歴史がある。しかしその一方で、事象を計量化する際に必須となる分類や測定といった作業の「妥当性」について、独特のかたちで拘ってきたという事実もある。

 ここでいう妥当性とは統計学や社会調査の用語で、使用される変数が、研究において知りたいことを適切に表しているのか、ということである。講義では「働く(就業状態)」ということについて少し考えてもらったのだが、「働く」ということについて何が知りたいのかに応じて、たとえば質問文も変わる。「女性の社会進出」の度合いを測定するときには、単純に(農業や自営業も含む)女性労働力率を用いるのでは不適切かもしれない。

 以下の点は授業では詳細には説明しなかったので、補足になる。

 測定の前提となるのが分類(カテゴリー)である。そして分類は、たいていの場合社会生活で理解されている分類に基づいたものになる。量的調査(あるいは実験)をする研究者は、「不適切」な分類をしないように注意を払うが、その適切さを確保する際にあてにされるのは調査の経験であり、その手法が体系化されているわけではない。

 (因子分析や対応分析などの)多変量解析は、必ずしもこのような意味での妥当性を保証するための手法ではない。この文脈では多変量解析は探索的な位置づけになるのであって、その結果見出された傾向性の妥当性が再び(日常言語に照らして)問われることになるだろう。

 4週目は、特定の課題について受講者全体でディスカッションをしたのだが、その様子はここでは省くことにしよう。

 私の4回講義のあとは、なんと盛山先生の講義が続くことになっている。盛山先生の前に講義をすることになるとは、全くもって恐ろしいことである。(後でも結構イヤですが。)

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