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ジェンダー化された自己を甘やかす? 44カ国における性別専攻分離

Maria Charles and Karen Bradley, 2009, "Indulging Our Gendered Selves? Sex Segregation by Field of Study in 44 Countries," American Journal of Sociology, Vol.114 No.4, pp.924-976.

高等教育における専攻分野の性別分離 (sex segregation) の規程要因を調べた論文。経済発展に伴い、高等教育進学率が上昇する傾向は多くの国に見られ、経済発展が十分に進めば、男女の大学進学率の格差は縮小する傾向がある。OECD加盟国の多くではむしろ女性のほうが進学率が高い。日本も短大と4年制大学をあわせれば、女性のほうが進学率は高く、4年制大学だけで見ても男女の差はほとんどない。

しかし、あらゆる学部、専攻分野に等しく女性が進出した国はひとつもなく、ふつういわゆる文系の分野や看護や介護といった分野に女性は偏る傾向がある。このように専攻分野によって男女比が異なることを性別専攻分離 (sex segregation by field of study) と Charles と Bradley は呼ぶ。このような性別専攻分離の程度が、どのような要因によって、促進されたり、弱められたりするのか、というのがこの論文で取り組まれる問題である。

近代化論では、産業化が進展するにしたがってこの種の分離は解消すると予測されてきたが、実際のデータではむしろ、高度に経済発展した国のほうが専攻性別分離が強いことが知られている。つまり、経済発展した国の大学では、女性の比率は多くの専攻分野で上昇したが、文系や看護・介護での上昇率が著しく高かったために、むしろ専攻分野による男女比の違いは拡大してしまったということであろう。

このような性別専攻分離の強さは、脱工業化と自己表出主義によって規定されるという仮説を Charles and Bradley は提示する。脱工業化が進んだ国では、いわゆる女性向きの職が急増する。看護や介護、販売・サービス、教員、保育、その他文系の(準)専門職の増加は、女性の職業機会を増大させる。このような職に就こうとする女性が大学や短大に進学するので、高等教育においても性別分離が強まる、という仮説である。第2の仮説は、経済がある程度発展して、自己表出主義が強まると、男女ともジェンダー・バイアスのかかった自己像を肯定的にとらえやすくなる。すなわち、女性も男性も、女性的な(男性ならば男性的な)仕事を好む自分自身のアスピレーションを超越的な視点から批判的に捕らえ返そうとしなくなる、ということであろう。こうして「自分らしさ」や「やりたいこと」を至上の価値とするような社会では、性別分離がむしろ強まる、ということである。これは特に数学を必要とするような分野に男性が集中するという形で現れるとされるが、なぜ別の形でないのかは不明。

データは1995ないしは1999年の UNESCO や TIMSS (Trends in International Math and Science Survey) など、いくつかのソースから集められている。基本的には高等教育機関の卒業生をサンプルとし、国×専攻分野×性別の三重クロス表を対数線形モデルで分析するのであるが、専攻分野×性別の関連の強さを以下のような国の特徴で予測するモデルになっている。

  1. 男女の数学選好度の差、
  2. 男女の数学の成績の差、
  3. 高等教育の収容者数、
  4. 高等教育の多様化の程度(短大や職業専門大学の比率)、
  5. 一人当たりGDP、
  6. 脱工業化の程度、
  7. 労働力人口に占める女性の比率、
  8. 専門職に占める女性の比率。
44カ国、900万人程度のデータである。モデルはこのように個人と国のマルチレベル構造をしているが、国レベルのランダム効果はモデルに含まれていない。そのため、どんな国レベルの変数をモデルに投入しても必ず 0.1% 水準で有意になり、BIC も減少してしまい、通常のモデル選択の基準は役に立たない。そのため、擬似決定係数を 0.05以上増加させる効果のある変数だけを「有意味」とみなしている。なお、専攻は、1 工学、2 理数、3 人文社会、4 医療・保険など、の4カテゴリである。

分析の結果は、高度に経済発展した国と、発展途上国でかなり異なり、発展途上国のグループでは、一人当たりGDP、専門職に占める女性の比率、高等教育の収容者数、労働力に占める女性の比率が「有意味」であるが、経済発展した国では、男女の数学選好度の差、脱工業化の程度、学校の多様化の程度、男女の数学の成績の差、が「有意味」である(擬似決定係数への寄与度が大きい順)。この結果を Charles and Bradley は、物質主義的な社会と脱物質主義的な社会との違いと解釈している。発展途上国は物質主義的なので、自己表出主義が弱く、個人の数学への好みは効果を持たない。脱物質主義的社会では自己表出主義が強く、個人の嗜好が強い効果を持つというわけである。発展途上国では専門職女性比が効くのは、専門職以外では大卒の学歴があまり必要でないからであろう。

一定の経済発展のレベルに達すると、一人当たり GDPがほとんど影響しないというのは、脱物質主義や満足度の分析でも同じなのだが、クロスセクショナルなデータなので、このあたりの解釈には慎重であるべきだろう。また44カ国しかサンプルがないのに、8つも説明変数をモデルに投入するというのも、やや不安を感じさせる。本来ならマルチレベル・モデルで処理すべきと思われるが、対数線形モデルでマルチレベルというのは可能であるが、ちょっとややこしいので、仕方ないのかな、というところである。

この種の水平的な分離(必ずしも上下関係を含意しないような分離)が本当に社会問題といえるのかについては、議論の余地があろうが、Charles and Bradley は以下の3つの理由から専攻性別分離は是正すべき社会問題であると述べている。

  1. 性別分離は性的ステレオタイプの形成に寄与し、次世代の男女の選択の幅を狭める。
  2. 女性の少ない理系出身者のほうが賃金が高い。
  3. 多くの国で理系の知識や技術の持ち主が不足しており、専攻性別分離が緩和されれば、潜在能力の高い女性が理系を専攻するようになり、人材不足の緩和に寄与すると期待できる。
それなら、職業に関する水平的性別分離は OK なのか(女性はノンマニュアルに多いがノンマニュアルのほうが高賃金だから)、とつっこみたくなるが、私個人としては、日本ではあまりに専攻性別分離が強いので、もう少し緩和したほうがいいという実感はある。いろいろ細かい点でつっこみどころはあるし、議論も錯綜していてわかりにくいが、こういう一見「当たり前」の現象にチャレンジするのは社会学の醍醐味だったはずで、議論のスケールも大きく、面白く読めた。

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